第一章 ルナリア王国の王女たち
六つの力が存在する王国で暮らす三姉妹。
力と共に生活する彼女たちの関係は平和・・・?
あるところに、ルナリア王国という王国があった。
ルナリア王国には6つの力が存在する。
花を咲かせる力、月光から占う力、動物と会話する力、望んだことを引き寄せる力。
中でも王国では貴重とされている力がある。
それは「過去を見る力(過去視)」と「未来を見る力(先見)」の二つ。
しかもそれは王家の王女にのみ存在する力で滅多に現れないものであった。
そして、その力を持った王女は『時の魔術師』と呼ばれていた。
そして、現在ーー。
「リリーお姉様、いらっしゃいますか?」
「フィア?いいわよ、入ってきて」
部屋で過ごしていたリリーの元に、双子の妹フィルレアがやってきた。
十六歳のルナリア王国第一王女リリーと、フィアこと第二王女フィルレアは双子の姉妹だ。
さらに、姉のリリーは「過去視」の力、妹のフィルレアは「先見」の力を持つ時の魔術師として大切にされている。
「リリーお姉様、久しぶりにお庭の花壇でも見に行きませんか。庭師の方が『バラが綺麗に咲いております』言っていらしたのです」
「いいわね。せっかくですもの、ルリカも誘いましょう」
「はい!行きましょうリリーお姉様」
ルリカは十四歳のルナリア王国第三王女で、リリーとフィルレアと血の繋がりはない。
リリーとフィルレアの母だった元王妃は二人がとても幼い頃に亡くなってしまった。
二人の父、国王が新しく迎え入れた王妃・ユカの娘が二つ年下の妹、ルリカである。
継母の娘で腹違いの妹であるとはいえ、三人はいつも仲良しだった。
二人はルリカの部屋に着くと、扉を叩いた。
「はい、どうぞ」
「ルリカ、私とフィアよ。入るわね」
中に入ると、ルリカは美しい金髪を丁寧にとかしていた。
「ルリカ、私とフィアとの三人でお庭の花壇を見に行かない?バラが綺麗なんですって。ルリカ、バラが好きでしょう?」
「はい!行きたいです」
「決まりね。リリーお姉様、早く行きましょう!私待ちきれません!」
「ふふ。大丈夫よ、バラは逃げないんだから」
三人は王宮の外にあるバラ園のベンチに座った。
そよそよと穏やかな風が髪を優しく揺らす。
「リリーお姉様とフィルレアお姉様は時の魔術師なのですよね」
「そうね。私は過去視、フィアは先見。王国に存在する6つの力の中でもかなり貴重なものね」
「そうなのですね。私は何の力もないのでうらやましいですわ」
しぼむルリカにリリーは優しく微笑みかける。
「大丈夫よルリカ。力がなくても私たちは王女の姉妹、そして同じ家族よ」
「そうそう。力がなくたって家族はみんな優しいんだから」
フィアも付け加えたが、ルリカの表情は晴れないままだった。
その日の夜、三人はそれぞれ部屋でドレスの準備をしていた。
今夜は舞踏会が行われるのだ。
(ルリカは私とフィアに特別な力があることは知っているはずだけど・・・)
着替えながらリリーはそんなことを考えていた。
ルリカの前で過去視を使ったことは何度もある。
最近も使ったことがあるのに忘れたというのは不自然だ。
「リリーお姉様。入ってもよろしいですか?」
「ええ、もう準備は整ったわ。どうしたのルリカ」
ガチャリとドアが開いて、心配そうな表情のルリカが入って来る。
「今日の舞踏会、フィアお姉様は体調不良で出られないそうですわ。私と一緒に大広間に行ってくださる?」
「まあ、そうなの?じゃあ先に様子を見てから行きましょうか」
リリーがそう言って立ち上がった時、ルリカはグッとリリーの手を引いて、大広間の方に歩き出した。
フィアの部屋は反対方向だ。リリーはどうして様子を見に行こうとしないのか戸惑った。
「ルリカ?私は先に様子を・・・」
「リリーお姉様まで体調を崩してしまっては困りますわ!もう時間もありませんから向かいましょう」
ルリカはそのままぐいぐいとリリーを引いていく。
だが、もうすぐ大広間に着くというところで、ルリカは空室の客間へ入っていった。
「え?ルリカ?」
リリーは止まろうとしたがリリーの体はぐらりと揺れる。
そのままリリーは部屋の奥へ放り投げられた。
バンっ!とリリーの体が激しく床に叩きつけられる。
「痛っ」
その瞬間、バタンと扉が閉まり、鍵がかけられる音が響いた。
「ふふふ。なーんて扱いやすいお姉様なのかしら」
「ルリカ?」
不気味な笑みを浮かべるルリカにリリーが青ざめた。
「何なの?こんなことして」
「お姉様、あなたはこの城に必要ありません」
「はあ?」
「だってぇ・・・お姉様がいるせいで、私は愛されたことがないんですもの」
ルリカの水色の瞳が冷たい光を放ち、ギラリと光る。
「愛されたことがない?そんなわけないでしょう」
「あるわ。特別な力のあるお姉様にはわからないでしょうけど」
「どういうこと?」
リリーが問いかけるが、ルリカは答えない。
怪しげなゾッとする笑みを浮かべる。
「というわけで、いなくなってちょうだい」
ルリカがばっと手を出すと、リリーの体を黒い煙が包みこんだ。
クラクラとだんだんリリーの意識は遠のいていく。
その中で、リリーが最後に聞いたのはルリカの声だった。
「私の前から永遠に消えてちょうだい。私の愛のために、リリーお姉様」
黒い煙が引いて、リリーは目を覚ました。
(あれ?私は何を?)
煙の中で意識を失っていたリリーはどういう状況かわからない。
ただ、自分の体が不自由なことだけはわかる。
(ねえ、ここどこなの!?)
「あ、あうーあうー!」
(はあ!?)
リリーは自分の口を押さえた。
(なー!どうして!?声が変!)
リリーは慌ててバタバタするが、何も変わらない。
どころか、自分の手が小さいことに気がついた。
「あうー!ああああー!!」
「はいはい、シャニー様。ご機嫌がよろしくございませんか?おもちゃ、どれになさいますか?」
「あう!?(誰!?)」
リリーの体がふわりと抱き上げられる。
(とりあえず自分の姿を見たい)
「あうー!ああーあー!」
小さな手で鏡を指差す。
「鏡ですか?かしこまりました」
おそらくメイドであろう女性に抱かれ、鏡に映った姿にリリーは驚いた。
赤ちゃんの姿だったのだ。
銀髪に透き通った桃色の瞳が愛らしい。
(これが私!?)
チラリと鏡の枠にある模様を見ると、300年前のルナリア王国の紋章。
(もしかして、私、時間が戻った世界に転生したの!?)
そう。リリーの予想は当たっている。
リリーは、300年前のルナリア王国へ第三王女シャニーとして転生してしまったのだ。




