【1−5】二人の秘密
その音が鳴った瞬間、世界がスローモーションのようにゆっくりと流れ始めた。
目の前に映るの蒼白の光を放つ弾。それが僕の眉間目掛けて一直線に向かっていく。
だが不思議と走馬灯というか、それに類する反応を僕は起こさなかった。
ただ『ようやく死ねるんだ』という、どこかズレた反応を自分から感じ取ったことしかわからなかった。
まぁいい。
結論から言って僕は死ななかった。
なぜか
「それってその銃の能力?」
「へぇ、ビビらないんだ」
銃口から放たれた弾は僕の眉間数センチ先で完全に停止していたのだ。予想と違う反応を見せたからなのか、シエラは少し驚くような表情を見せた。
「ごめんね、試すような真似しちゃって」
「ううん、殺す気はないんだろうなって思ったから……」
「へぇ、結構勘鋭いんだね」
「うーん……勘というかなんというか、そういうのってだいたい眼を見ればなんとなく分かるものじゃない?」
「そうね、たしかにそうだわ。ごめんね」
そのまま僕がしたかったもうひとつの質問はなぁなぁにされ、別の話題───と言っても、さっきの話に関連することだった。
「ところで君……いえ、エリーはさっき世界がスローになるような感覚しなかった?」
「エリーって僕!?そんな女っぽい……いやたしかに感じたけどそれがどうかしたの」
「その感じまだわかってないみたいだね。ちょっとこっち来て」
そう言われて僕は彼女に連れられ鏡の前に腰を下ろした。
目の前にいたのは黒と言うには少しくすんだ眼と髪をした少年だった。どうしても違和感を感じてしまうが、どうしても今までの自分の姿を思い出せなくて何がどう違うのか、どこに違和感を覚えているのか分からない。
「なに……メイクでもするの?」「冗談はいいから、ほら、集中して。目に感情を込めて」
は?目に感情?何言ってんのお前。そう心の中でブーたれつつ、言われた通り目に感情を込めた。
1度頭の中を整理し、ひとつの感情で満たす。その感情の名は『悲哀』だった。別に『僕は悲哀するぞォーッ!』みたいな感じではなく、ただ「ここはどこなのか」「断片的な記憶しかない元の世界に帰れるのか」「帰る必要はあるのか」そんなことを考えると、どうしてもこの感情が出てきてしまった。
感情は目を見ればなんとなく想像がつく。
「いや、込めたところで何かあるわけ……ぇ?」
その時、不思議な感覚がした。目が熱くなるような、でもそれは不快な熱さではなく、何故か泣きたくなるような温かさで───
「なに……これ」
気づけば僕の目は紅く染まり、瞳孔の闇がより一層際立って見えた。
「それは《紅眼》って言ってね。動体視力、反射神経が大幅に強化されるんだ。何故かは分からないけどエリーにはそれが使える。私もね」
そう言った彼女の目を見るとさっきまで翠色をしていた眼がいつの間にか紅く染まりきっていた。
少し吐き気を覚える。何故吐き気を覚えるのか。自分でもなんとなく分かるような、でもそれを思い出しては行けないような。そんな気がして、吐き気を我慢しながら彼女に尋ねた
「そういえばシエラさ……シエラにもう1個聞きたいことがあったんだ」
「なに?」
「どうして耳栓なんかしてるの?」
彼女は耳に栓をしていた。無論それだけで僕の声が全く聞こえないということは無いのだろうが、耳栓を必要とするほど騒音が響いているかと言われるとNOと言える。
「……人には聞かれたくないことの一つや二つや三つや四つあるんだよ」
「多いね」
「君にだって人に言えないことだってあるはずだよ。沢山ね」
「ものによるかなぁ。」
「へぇ。じゃあ質問していい?なんであの時、泣いてたの?」
きっとあの時というのは初めて会った時──いや今もほとんど初対面だが、刃を交えた時のことを言ってるのだろう。
「……分からない。なんでその時泣いたのか、なんで僕は色が見えないのか、何も」
「……色が、見えない?」
「うーん……なんか視界が白黒なんだよね。でも何故か分からないんだけど僕の眼と君の眼だけに色が付いて見えるんだ。理屈は僕にも分からない」
「……へぇ、君も私と同じかもね」
「同じって?」
「いいよ。なんで耳栓してるか教えてあげる」
そう言って彼女は不意に耳栓を外した。
……えっ?
「なんで急にそんな、さっき言えないことだって……」
「ううん、私ね?君の話を聞いて思ったの。私と君は近い存在なのかもしれないって。」
「どういうこと?」
「そういうことだよ。私はね?人の声が聞こえないの。聞こえるのはノイズだけ。だけど君の声ははっきりと聞こえるの」
あぁ、そういう事か。たしかに近い存在と言えなくもない。
「たしかに……なんで聞こえないかっていうのは?」
「……エリー、それは君も同じだろう?なんで色が見えないんだ?」
「たしかに……ごめん、このことは秘密にしておくべきことだもんな」




