【1−3】見知らぬ天井、見知らぬ人、見知らぬ世界
目が覚めると視界には見知らぬ天井があった。
「……エヴァかよ」
まぁこの場合白い天井ではなく木目調の天井だったわけだが。
(てか、ここどこ?)
いつの間にか寝かされていたベッドから体を起こし、辺りを見渡す。どうやら家の中らしい。
「あ、起きた?」
と、誰かの声が聞こえた。なんだろうか、聞き覚えがあるというか、ついさっき気を失う直前に聞いた声のような……
「………っ!」
途端に頭に痛みが走った。あまりに唐突で思わず顔を歪めてしまう。
「大丈夫?」
「大丈夫です……。いや、あっさっきのは、じゃなくて、あの、えっと……」
「うーん、全然大丈夫じゃなさそう。一旦落ち着いて深呼吸したら?」
「あぁはい。ありがとうございます」
言われた通りに深呼吸をする。五秒かけて息を吸い、五秒息を止める。そして十秒かけて息を吐く。
「ありがとうございます。少し気が楽になりました」
そう言って、彼女の方へと顔を向ける。
その目には変わらず『色』があった。ただ自分の中の記憶している情報と違う点が一つ。それは────
「あれ?眼の色がさっきと違う」
そう、記憶の中にある彼女の瞳の色と、今の彼女の瞳の色では明らかに違うのだ。
具体的に言うならば、翠色。
僕が『色』を失う前、図鑑で読んだ緑柱石のような、美しい色をしていた。いや、翠色と紅色ならば
金緑石か。
「……綺麗な眼だ」
───あ。言っちゃった。
「えへへ、ありがとね。あそうだ自己紹介しなきゃ!私はシエラ。あなたは?」
「僕ですか?僕は……凍砂理です。よろしく 」
「凍砂かぁ……。もうちょいいい名前ある?」
「は?」
何言ってんだこいつ
「だってせっかくの異世界だよ?あんな世界からようやく離れられたんだよ?」
なかなか攻めた発言をするなぁ。ん?今あんな世界って言った?
「ちょっと待ってください。今あんな世界って言いました?」
「タメでいよ。そう、私、と言うよりこの世界にいる数千数万の転生してきた人がいるんだ。私もそのうちの1人、あの世界での名前は楠木詩奈。改めて、君の名前は?もちろん、自分の名前が気に入ってるなら私も『凍砂くん』って呼ぶけど。」
「そうですね……いやタメでいいか。そうだな、別の名前にするか……」
せっかくの異世界だ、断片的な記憶しかない元の世界に囚われずに新しい自分になれるんじゃないだろうか。あとタメでいいって言われたけどこれきついな。礼儀正しくしてた方が楽かもしれない。
「じゃあ、この名前で」
一呼吸おいて、少しばかり感じる気恥ずかしさを紛らわせながら僕は言う。
「僕の名前は『エリフィシア』、『シア』だったり『エリー』とでも呼んでほしい」
「へぇ、いい名前だね。何か由来とかあるの?」
「いや特に?名前なんてもの意味をなさない記号でしかないでしょう?」
「まぁね」
こうして、僕と彼女、改めエリフィシアとシエラの2人の物語は始まった。
────始まらなければよかったのに




