タイムリープしたのでかつて喧嘩別れした元カノと復縁しようとしたけど、その元カノもタイムリープしていたので結局険悪な雰囲気になった
突然だが、タイムリープした。
俺は春日部昌史、27歳。都内の食品メーカーに勤めるサラリーマンだ。因みに独身。
俺の勤める会社はいわゆるブラック企業というやつで、連日残業は当たり前。思い返してみたら、今週なんて半分以上家に帰っていない。
この日も仕事が終わらずサビ残&徹夜は確定。しかし少しくらい休んでもバチは当たらないだろうと思い、俺は休憩室で仮眠を取ることにした。
疲れは溜まりに溜まっている。
まぶたを閉じると、すぐに夢の世界へ行くことが出来た。
しかしこれはあくまで仮眠。何時間も熟睡してはならない。
30分ほど経ったところで、目を覚ましてみると……周りの風景が、ガラリと変わっていた。
「どこだ……ここは?」
こういう時は異世界に迷い込んでいるというのが最近のテンプレだけど、不思議と周囲の景色に見覚えがあった。
俺は自分の服装を確認する。
この服装……これって、高校の制服だよな?
それもただの制服じゃない。俺の通っていた高校の制服だ。
ふと窓を見ると、ガラスに自分の顔が映る。
そこに映るのは連日の残業で疲れ切ったおっさんの顔ではなく、まだ沢山の可能性に満ち溢れている若者の顔。
まさかなと思い、スマホを確認する。……日付は、10年前のものになっていた。
間違いない。俺はタイムリープしたのだ。
どうしていきなり高校時代にタイムリープしたのか、まったくわからない。
しかし意味がわからないならば、自分で作ってしまえば良い。これは10年前にやれなかったことややり残したことを、今再び行なうまたとないチャンスなのだ。
まずは、そうだなぁ……。
時間が12時ということもあり、俺は食堂へ向かった。
うどんに蕎麦にカレーライスに。食堂には何種類ものメニューがあるわけだけど、この中で一番高いのは一食1000円もするデラックス定食だ。
高校時代、なけなしのお小遣いを使うのが嫌で、ついぞデラックス定食を食べられなかったんだよなぁ。
それが心残りの一つである。
未来を生きるのが高校生なら、今をなんとか生きているのがブラック企業の社員だ。宵越しの金を、持つつもりはない。
俺は何の躊躇いもなく財布の中から1000円を取り出すと、デラックス定食を注文した。
流石は一食1000円もするデラックス定食、使っている食材も普通の定食よりワンランク上のもので、調理方法も手が込んでいた。加えて今日は奮発してプリンまで付けちゃったわけだから、それはもう最高のランチタイムになった。
お腹も膨れたので教室に戻ろうとすると、廊下で見覚えのある顔と出会した。
見覚えのあるというより、厳密には10年経っても記憶に強く残っているというべきか。
勿論名前だってきちんと覚えている。早瀬深春。彼女は……俺の元カノだった。
高校時代、家が同じ方向だったことから話すようになり、次第に惹かれ合い、そして交際にまで至った、俺にとっては最初で最後の恋人。
価値観の違いから大学進学とほとんど同時に別れて、それ以来一度も会っていなかった。
……いや、今の俺は高校生なわけだから、深春は「今カノ」になるのか。どちらにせよ、9年ぶりの深春との再会は、俺の心に安らぎを与えていた。
デラックス定食を始め、高校時代の後悔は沢山あるけれど、一番の後悔は深春と別れたことだろう。
社会に出て、仕事をし始めて、精神も体力もすり減っていく毎日の中で、俺は心の拠り所を求めていた。そんな時決まって思い出すのは、深春の姿で。
どうしてあの時、深春を引き止めなかったんだろうか? 「別れたくない! ずっとそばにいてくれ!」と、抱き締めなかったのだろうか?
こうしてタイムリープしたんだ。今度こそ、深春を手放さない。
「おーい、深春!」と、俺は手を振りながら彼女に近づいていく。
俺の姿を認知した深春は……
「げっ」
心底嫌そうな顔で、俺を見るのだった。……え? 俺たちって今、恋人同士の筈だよね?
◇
突然だけど、タイムリープした。
私は早瀬深春、27歳。都内で小さな喫茶店を営む個人事業主だ。因みに独身。
喫茶店は近所のママさんや塾帰りの学生さんとか、常連さんは多少いるけれど、決して繁盛しているとはいえない。毎日節約しながら、細々と生活していた。
この日は開店以来最低の来店数を記録して、しかもその来店客の一人が悪質なクレーマーで、もう散々な一日だった。
疲れは溜まりに溜まっている。
まぶたを閉じると、すぐに夢の世界へ行くことが出来た。
30分ほど経ったところで、喉が渇いてふと目が覚める。すると……周りの風景が、ガラリと変わっていた。
「ここは……どこなのかしら?」
こういう時は異世界に迷い込んでいるというのが最近のテンプレだけど、不思議と周囲の景色に見覚えがあった。
私は自分の服装を確認する。
この服装……これって、高校の制服だよね?
それもただの制服じゃない。私の通っていた高校の制服だ。ウチの制服は可愛いことで有名だったから、よく覚えている。
ふと窓を見ると、ガラスに自分の顔が映る。
そこに映るのは上手くいかない日常を嘆くアラサーの顔ではなく、まだ沢山の可能性に満ち溢れている若者の顔。
まさかなと思い、スマホを確認する。……日付は、10年前のものになっていた。
間違いない。私はタイムリープしたのだ。
どうしていきなり高校時代にタイムリープしたのか、まったくわからない。
しかし意味がわからないならば、自分で作ってしまえば良い。これは10年前にやれなかったことややり残したことを、今再び行なうまたとないチャンスなのだ。
まずは、そうねぇ……。
高校時代の昼休みの過ごし方は、昼食を取ったあと教室で読書をしたり友達と喋ったりすることだった。
そんな中ふと窓の外を見ると、校庭でテニスやキャッチボールをしているクラスメイトたちの姿が映る。
……たまには体を動かすのも、悪くないのかもしれないな。
ひと汗かきたいと思ってはいるものの、私の友達にインドア派な子が多いことや、そもそも校庭まで行くのが面倒くさいという理由から、結局在学中一度も校庭でスポーツに興じた思い出がなかった。
適度な運動って、良いストレス発散になるんだよね。心も体もスッキリする。特に、理不尽なクレームを突きつけられた時とか。
若い体に戻ったことだし、この機会に運動するのも悪くない。私は校庭に出ると、予鈴が鳴るギリギリまで、クラスメイトたちとテニスを楽しんだ。
予鈴が鳴ったので教室に戻ろうとすると、廊下で見覚えのある顔と出会した。
見覚えのあるというより、厳密には10年経っても記憶に強く残っているというべきか。
勿論名前だってきちんと覚えている。春日部昌史。彼は……私の元カレだった。
高校時代、家が同じ方向だったことから話すようになり、次第に惹かれ合い、そして交際にまで至った、私にとっては最初で最後の恋人。
価値観の違いから大学進学とほとんど同時にさようならをして、それ以来一度も会っていなかった。
……いや、今の私は高校生なわけだから、昌史は「今カレ」になるのか。どちらにせよ、9年ぶりの昌史との再会に、私の心は躍る。
昼休みの運動を始め、高校時代にやり残したことは沢山あるけれど、一番のやっときゃ良かったと思っていることは、昌史との仲直りだ。
社会に出て、喫茶店を経営し始めて、思い通りにならない日常に押し潰されそうになる中で、私は心の拠り所を求めていた。そんな時決まって思い出すのは、昌史の姿で。
どうしてあの時、昌史と別れてしまったんだろうか? 今では喧嘩した理由すら、曖昧だというのに。
こうしてタイムリープしたんだ。今度こそ、昌史と幸せになってみせる。
そう思っていると、「おーい、深春!」と、昌史が手を振りながら私に近づいてきた。
その姿を確認した私は……
「げっ」
ヤベェ。思わず変な声が出ちまった。どうちよう……。
◇
働き始めてからは職場に近いところに住みたいと考え、都内のワンルームマンションを借りているわけだけど、高校時代の俺・春日部昌史は違う。
収入ゼロの俺は、実家で暮らしていた。
実家に帰るなんて、何年振りだろうか? 最近盆や正月も顔を出せていないからなぁ。そもそも、休みじゃないし。
そして深春もまた実家暮らしなので、自然と帰る方向は同じになった。
タイムリープした今、俺と深春恋人同士ということになるので、俺と深春は一緒に下校する。
しかしその様子は、仲睦まじくとは言い難かった。
タイムリープした俺がよそよそしいというのもあるけれど、それ以上に、深春に問題がある。だって……
「おい、深春」
「何かしら?」
「変なこと聞くようだけど……お前、タイムリープとかしてないよな?」
「そんなこと聞くってことは、昌史もタイムリープしているってことよね?」
……やっぱり。
俺を見て気まずそうな顔をしたからもしかしてと思っていたけれど、やはり彼女も俺と同様にタイムリープしていたようだ。
しかし、それは困ったな。
俺は深春と復縁したいと望んでいる。そしてその望みは、俺に対してまだ嫌気が差していない高校時代の深春相手だからこそ、叶えられるものだ。
今目の前にいる深春が、実際は大人になった深春だとするならば、当然俺に恋愛感情なんて抱いていないわけで。そんな彼女に「もう一度俺と付き合ってくれ!」と告白しても、響くわけがない。
おい、神様。てめぇはどうして俺にタイムリープなんてさせたんだよ。
深春との関係を修復出来ないのなら、高校時代に戻ったって何の意味もないじゃないか。
◇
高校生の私・早瀬深春はまだ喫茶店を経営しておらず、だから帰る場所も実家なわけで。そうなると、自ずと昌史と同じ帰路に立つことになる。
高校時代の私たちは付き合っていたので、登下校を一緒にしていた。今日も、例外じゃない。
だけど今更手を繋いだり腕を組んだりするのは恥ずかしいから、彼には一切触れることなく、それでも肩と肩が接触するか否かという距離を保ちながら、私は歩いていた。
おっ。今制服と制服が触れ合ったんじゃないか。グフフフ。
などと気持ち悪いことを考えている心中を悟られるわけにはいかないので、私は終始ポーカーフェイスに徹していた。
だからだろうか? 付き合っている筈なのに、なんだか気まずい空気が流れている気がする。
そんな風に感じていると、昌史が話しかけてきた。
「おい、深春」
「何かしら?」
「変なこと聞くようだけど……お前、タイムリープとかしてないよな?」
「そんなこと聞くってことは、昌史もタイムリープしているってことよね?」
……完全に予想外だった。
まさか昌史も、タイムリープしていたなんて。
私は昌史から少し離れる。
触れ合うか否かの距離を保てていたのは、昌史が高校生の頃の彼だと思っていたか出来たことだ。
高校生ではない、つまり私のことを疎ましく思っている昌史に肩を寄せても、嫌がられるのがオチである。
神様この野郎。どうして私にタイムリープなんてさせたのよ。
昌史ともう一度恋人同士になることが出来ないのなら、高校時代に戻ったって何の意味もないじゃないの。
◇
かつて恋人同士だった二人が、全く同じ過去にタイムリープする。果たしてそんなことが、起こり得るのだろうか?
俄かに信じ難い話ではあるけれど、現にこうして目の前に(中身が)大人になった深春がいる以上、受け入れるしかない。
それから数分間、一切会話をしないで歩いていた俺たちだったが、ふと深春が話しかけてきた。
「ねぇ、昌史。私たち、どうしてタイムリープなんてしたんだと思う?」
「タイムリープには、理由があるって言いたいのか?」
「うん」
そんなの、深春と復縁する為だ。そう胸を張って答えたいところだけど、生憎二人ともタイムリープしたという事実が判明した以上、それが理由になり得るとは思えない。
だとすると、他に要因があったのか? ……他の理由なんて、皆目検討がつかないな。
「深春は、その理由とやらがわかっているのか?」
「まぁね。……タイムリープって、是が非でもやり直したい過去があるからするんじゃないかと、私は思うの」
是が非でもやり直したい過去……そう言われて思い浮かんだのは、やはり深春と別れた記憶だった。ていうか、それ以外に考えられない。
「何か思い当たる節でもあった?」
「あぁ。……俺はお前とやり直したい。だからお前と付き合っていた高校時代にタイムリープしたんだと思う」
自分の気持ちを伝えようが伝えまいが、どうせ結果は変わらない。だったらダメ元で伝えた方が得だろう。
その程度の気持ちで、告白したわけだが……深春の反応は、予想外のものだった。
「何よ、それ。……嬉しいじゃない」
……聞き間違いじゃないよな? 今深春のやつ、嬉しいって言ったか?
「昌史と別れたあの日のことを、私はずっと後悔してた。もし高校時代に戻れたら――って、何度も強く思ってた。だから私も、タイムリープしたんだと思う」
「えーと……つまり?」
「私も昌史と同じ気持ちってこと。もう一度、私と付き合ってよ」
どうしてタイムリープしたのか? それは、どうしてもやり直したい過去があったから。
俺の望みが深春との復縁であるならば、彼女がタイムリープする必要はない。そんなの、誰も幸せにならない。でも――
もし深春の方も、俺と同じように復縁を望んでいたら? そんなこと、思ってもみなかった。
タイムリープして良かった。深春もタイムリープしていて良かった。
一度は嫌い合って、それでも再び互いを求め合ったからこそ、俺たちはこれから何十年も上手くやっていける。少なくとも、元いた時間軸よりは幸せな10年を過ごせるに違いない。
およそ10年振りに彼女の手を握りながら、俺はそう思うのだった。




