一族の掟
うちの一族は、十五才になると特別な魔法の使い方を伝授される。
それまでは、ごくごくちっちゃい人並みの魔法しか使うことができないが、十五才の誕生日に一族全員が集まり、その場で偉大な魔法を得るらしい。
十五才になるまでは、例え一族の者であっても、それが何かを語られることはない。
そして、例え配偶者であっても魔法を使うところも見せてはもらえない。
母も父が魔法を使うところは見たことがない、と言っていた。
しかし、父も、祖父も、伯母も、皆、人から尊敬される大魔法使いだった。
うちの一族はみな白髪に近い銀色の髪を腰まで伸ばしていた。これが、魔法を使うための必須条件であるらしく、この髪色に生まれた者は、皆、伸ばすことが求められていた。
残念なことに、髪を伸ばせなくなると、魔法も使えなくなるらしい。
伯父は途中から魔法が使えなくなり、残念がりながらも、ちょっとほっとした様子を見せていた。それほどに、我が一族の魔法は「すごい」らしい。
いよいよ誕生日を迎えた。
一族の中で白銀の長髪を持つ者が集まる。
祖父の家の大広間には結界が張られ、例え一族の者であっても、15才に満たない者、同じ髪色を持たない者は入ることができない。
私もまた、昨日までは入ることができなかった。
去年までは、普通にごちそうを食べるだけの日だった誕生日が、今年は違う。
族長である祖父に呼ばれ、前に出る。
「ルツィエよ、今日からおまえも我がノヴァ家の魔法使いの一員となる」
「はい」
祖父は、いつもの優しいおじいちゃんではなく、威厳があり、緊張でガチガチになっている私にも容赦のない厳しい目を向けた。
「ノヴァの魔法使いは、魔法を人目にさらしてはならぬ。これは掟だ」
「はい」
「掟に背く者は、一族より破門され、遠くの地に追放される」
追放…。
そう言えば、ルルラ叔母さんは、ある日突然いなくなった。
駆け落ち、と言われていたけれど、本当は追放されたのかも知れない。
「ルツィエ、こちらへ」
祖父から不思議な石のついたペンダントを渡され、魔方陣の上に立たされると、陣が光った。
私の体に魔法が満ちていくのが判った。
髪が広がり、空へと引かれていく。
それまで本で読んだだけの呪文が、頭と心がつながって、取り込まれた魔力になじんでいく。
私はできる!
湧き出す自信のまま、呪文を唱えた。
「雨わく雲のわっくわく!」
すると、にわかに黒い雲が空を覆い、大粒の雨が大地に降り注いだ。そして五分後、雲はゆっくりと消えて、元の青い空が戻ってきた。
一族の者は、皆にこやかに笑みを浮かべ、私の魔法の成功を喜んでくれた。
ふと、鏡に映った自分を見て…
「…きゃー!」
私は歓喜の悲鳴を上げた。
魔法を使った途端、私の髪は甘いピンク色に変わり、しかも魔力のアンテナとなるよう、頭の上で高く、二つくくりで結ばれていたのだ。
白に近かった銀の髪は、白髪のようであまり好きじゃなかった。
なのに何これ、ちょーかわいい!
今すぐみんなに自慢したい!
見て見て、ピンクのツインテール!
「…ルツィエ! 我が一族の魔法は、門外不出だ!」
喜んで友達に自慢しに外に出ようとした私に、祖父の喝が飛んだ。
「おまえ1人の裏切りが、何をもたらすか、判っているのか!」
祖父だけでない。父も、伯母も、おじさん達も、親戚のお兄さんもお姉さんも、みんなが私を見ている。
「だ、だって…。こんなかわいい髪…」
祖父は大きく溜め息をついた。
「愚かな…」
「これを見るがいい!」
そう言うと、父が呪文を唱えた。
「ふるふる雪の雪だるま」
ひいおばあちゃんも。
「メラメラ炎でバーニング」
おじさんも。おばさんも。
「ハートをキュンとメッロメロ」
「いたいのいたいの、とーんでけ」
ムッキムキのお兄さんも、めがねのお姉さんも、真面目ないとこも、ちゃらいにーちゃんも、
白銀の髪の一族、十八人がそれぞれ小さく魔法を唱えると、そこには、全員ピンクのツインテールの魔法使いが!!
祖父が、顔を赤らめていた。
「若いもんはいい。だが、おまえだって十年後はかわいいなどと言ってられるか? 二十年後は? わしなど、妻も子も孫もある身で、魔法を唱えるたびにこの有様だ。こんな姿を世間にさらしたら…」
キラキラと光る、長いピンクのツインテール集団。
…魔力は確かな一族だが、魔法に関して引きこもっていたのは、それでか。
「魔法を使う時は、決して人に見られてはならぬ。…いいな」
「…はい」
大好きな父や祖父の名誉のためにも、私は沈黙を守ることを決めた。
年齢・性別を選ぶ髪型、ツインテール。 ←キーワードだけど、ネタバレなので登録せず。
3日ほど前に、何歳までならツインテールは許されるか、と言う話をしていて、ひらめいた話。




