負けた勇者
暗闇の洞窟。そこに向かう3人のパーティーがいた。
「なにもージメジメした空気最悪〜」
男2人の後ろにしっかりと着いて行く治療や防御系魔法が得意な黒髪ショートで元気なアル・ライオットはぐちぐちと文句を言っていた。
「まぁまぁ。これも仕事だから」
その文句をなだめるように穏やかな表情を見せるフランス系の金髪爽やかイケメン、ライアン・バードがにっこりと微笑みながら答える。
「なんで私たちがこんな薄暗くて空気悪いところの仕事しなきゃ行けないのー!!だって私たちSランク級パーティーだよ!?これさ!Bランクでもできるよね!?もっとつよーい魔物倒しに行こうよ!」
「まぁまぁ。これも団長の指示だからさ。それにSランク級の魔物って僕達倒せないじゃないか。僕達がSランクパーティーでいられるのはリーダーのおかげなんだからさ」
「そ、そうだけど……」
「そんなことないさ。俺だけの実力じゃない。お前らが支援してくれるから自由に戦えるんだ。パーティーの実力さ」
このパーティーのリーダーである黒髪の短髪で大剣使いのソライオ・ピット、周りから呼ばれているあだ名はソラが答える。
実際はソラにおんぶに抱っこなパーティーなためこの言葉に2人は安心と喜びを覚えた。
「ほら。2人とも。今回のターゲットだ。サクッと倒して帰っていっぱい飲もう!」
「「了解!」」
3人は自分たちの住む国であるアークリオの門をくぐる。
「楽勝だったねー!でも場所がなぁ。すっごい汚れちゃったよ」
「帰って洗わないとね。その前に報告に行かないといけないか」
アルとライアンのやりとりを聞きながらソラは微笑む。
「ソラもありがとう。毎回こんな付き合ってくれて。街1番の勇者なのに」
「アハハ。街1番なんて周りが呼んでるだけだよ。それに幼い頃から一緒にいるアルとライアンと仕事していた方が楽しいんだ」
「なにそれー!めっちゃ嬉しいこと言ってくれんじゃんもー!」
この国では勇者という職業がある。勇者といっても特別な力を持っていないとならない職業ではなく、街を守る者、街外に出て探索する者、国の王が他国に行く際の護衛役と主に魔物と戦う可能性のある職業を勇者という。
勇者の中にもC B A Sとランクがあり、3人のパーティーはSランクと最上位ランクに属している。
ただライアンやアル個人のランクはあと少しでAランクになるBランクであるがソラは国で1番の実力を持っている。Sが最高ランクであるためにSランク登録されているが、もっと上のランクがあるのなら間違いなくSランク以上である。
そんなソラがパーティーに入っているため3人のパーティーはSランク登録されている。
「とりあえずギルドに行こうか。今回のクエストの報告しに行かないとね」
「えー!ライアン行ってきといてよー!私はソラと先に一杯飲んでるからさ!」
アルはそう言いながらソラの腕に抱きつく。ライアンは……いや、ソラ自身もアルがソラに好意を抱いているのはよく分かる。だが2人は交際などはしていない。この3人の関係が大事で次のステップに行けていないだけかもしれない。
アルは腕に抱きついているためとても顔がソラと近い。ソラはアルの方を向かないようにし
「まぁそんなこというなよ。3人でいこうぜ」
「あっれー?ソラなんでそんなに顔をそっぽ向けてんのー?照れてんの??アハハ。まぁソラが言うなら仕方ない。ライアンについて行ってやろう!」
「いやいや。アルのクエストでもあるんだよ?僕のだけじゃないからね?」
「ま、まぁそうとも考えれるよね」
ソラは照れていた事がバレていたが、特にその話が続かなくてホッとしていた。そんな雑談をしながらもギルドに向かい始めた。
「お!ソラじゃねぇか!クエストの帰りか?今回はどんな強いの倒してきたんだよー!」
ギルドに行く途中でスキンヘッドのガタイのいい男に話しかけられた。
「あー鍛冶屋のおっさん。今回はスライムの群れを倒してきたんだ」
3人がよく武器を作るために利用しているギル公房の鍛冶屋職人だ。
「あ?スライムの群れだって?なんでまぁそんな簡単なクエストを」
「まぁね。意外と多くて大変だったよ。おっさんはなんだ?さぼり?」
「んなわけあるかい!なんか、教会の奴らがな、何かを召喚したとか騒ぎになっとったから、ちょっと情報収集にな」
「何かを召喚?なんだそれ」
「それが俺にもわからねぇんだ。ソラ達も気になるならクエスト報告後に行ってみろよ。俺は先に見てくるからよ!」
情報を伝えるとギルは走って行ってしまった。
「ソラどうするの?行ってみる?」
「少し気になるよな。行ってみようか」
「そうだよね。気になるよね。僕も気になるし」
「それじゃ!行ってみよー!ちゃっちゃと報告終えていこー!ライアンが!」
「アルも……ね!!」
「はぁい……」
教会の職員は王直属の部下であり常に魔法の研究を行なっている。技術館にある者達は剣術や弓術といった戦闘系を研究している。彼らは研究者であるために勇者ではないが、勇者に技を教えてくれる大事な仕事をしている連中だ。ソラとライアンは技術館、アルは教会によくお世話になっている。
魔法を研究している団体が何かを召喚し話題になっている。もし失敗していたら、街内で戦闘が起こるかもしれない。だがそういう騒ぎではないので急ぎはしなかったが最悪そういう点があるので少し気を引き締めて向かうことにした。
無事クエストの報告を終え、教会に向かう。すると先ほど見たスキンヘッド頭の後ろ姿が目に入る。
「やぁやぁギルのおっさーん。またあったねぇ〜」
「あ?あぁアルちゃんか」
「それで?なにがあったんだ?」
そうソラが尋ねると疑問そうな顔をしながらギルが答えた。
「いやー俺にもよくわからねぇんだ。なんか俺らみたいな人間が中心にいてだな。まぁこれから説明があるみたいだぜ」
「あぁそうなのか。じゃあ待とう」
ーーー数分後ーーー
「皆の者。よく騒ぎを聞いて集まってくれた!」
王の城から集まった人々に話しかけるのはこの国の王、ジュルナーダ・アークリオ国王だ。その周りには2人の男女がいた。
「なんだ?あの2人は」
「さ、さぁ?見たことは……ないな」
ソラの問いかけにライアンが答えると王が続ける。
「ここにいる2人は教会の者達が研究に研究を重ね、ついに召喚を実現した勇者様だ!男性の方がカズヤ・サトウ!!剣の勇者だ!女性がカエデ・イガラシ!盾の勇者だ!
この者達は特別な力を授かり異世界より転移された!そしてこの者達はきっと我々を助けてくれるだろう!皆の者よく知っておけ!」
「おいおい!おっさん!まてよ!!勝手にこの世界に連れてきて責任重すぎねぇか!?」
「そーだそーだ」
カズヤが王に向かって文句を言うとカエデは後ろから野次を飛ばす。
「まぁいいではないか。貴様らの実力はおそらく元いた世界よりもかなり上昇しておる」
「はぁ!?元の世界なら剣なんて持ってなければ人を殴ったこともねぇよ!それなのに実力ってなんだよ!」
「んー。そうじゃの。じゃあ試してみよう。ここにソライオはおるか!」
「はい!」
突然の名指しに驚き、なんとか返事をする。
「貴様らにはあのソライオと闘ってもらう。国1番の実力の持ち主だ。いいな?」
「「「はあーーー???」」」
いきなりの王の発言に戸惑いつつ待っていると2対1の決闘が用意された。国1番の勇者と謎の転移者の決闘を直接見たいと思っていた国民が集まり会場は熱い歓声と熱気に包まれる。
「ソラ……平気かな……?」
「心配する事ないよ。アル。ソラは僕らも知ってるように最強だからね。あんな初心者達に負けるわけないよ」
2人は安心しながらも心配そうにソラを見つめる。
「なんなんだよこれ!いきなり異世界に来たと思ったらこんなに大事になりやがって!!」
「ねぇ……私たちどうなるの?カズヤ」
「わっかんねぇ!でもとりあえず戦わねぇといけねんだろ!?ちゃちゃっとやって終わって、元の世界に戻ろうぜ!」
「あー……ほんっとごめんね。俺も戦いたくはないんだけど、それなりに流して終わろう」
「あ、これはどうも」
3人は無理矢理やらされる試合に乗り気じゃ無かったが文句を言ってこの大勢の国民が納得するわけがない。
(それなりに闘ってるフリをして適当に終わろう。異世界人の2人は剣の持ち方からして初心者だ。俺が負けるわけがない。気絶させて終わるのが綺麗かな……)
「それでは闘ってもらおうか!!勇者様お二人とも国1番の勇者ソライオ!国民も素晴らしい試合を目に焼き付けると良い!」
国王が軽い挨拶をすると審判らしき人物が中央に立つ。
「それでは……お構ください」
カズヤとソラは木刀。カエデは木刀と木の盾を構える。
「始めっ!!!」
審判が大きな声でスタートの合図を出すとそれと同時にカズヤが振りかぶりながらソラに斬りかかる。
(はやい!)
一瞬で間を詰められ、なんとかカズヤの攻撃攻撃を守ることができた……がカズヤの力は強い。
(やばい……このままだと押し負ける……)
負けを意識したソラは何とかその剣を押し退け、後ろに下がる。
「あー……なるほどな。あのおっさんが言ってたことがわかったわ……よっしゃ」
カズヤはニヤリと笑って再びソラに斬りかかる。
「同じ攻撃!単純ですねっ!」
ソラはさっきと同じ防御の構えをする。するとソラの視界からカズヤが消えた。
「は?どこにいっ……」
消えたことを認識しカズヤの位置を探していると後ろから激痛が走った。
「っつ……!」
「同じ攻撃するわけないでしょ!」
痛みを感じながらもソラはカズヤから距離を取る。
(勇者として……男としてこの勝負負けられない……プライドが許さないがあの男よりも先に……)
「すみません!2対1より1対1の方が集中できるんです!女性に攻撃をするのは申し訳ありませんが……」
「おい!カエデは何もしてねぇだろ!やめろよ!」
「きゃーー!」
カエデは完全に怯えていて逃げる素振りも見せない。ソラの攻撃は容易に当たるだろう。そうソラも確信していた。首筋に気絶する程度の力で剣を振り下ろす。
そして会場にガンだという音が鳴り響いた。
「ん?え?痛く……ない?」
カエデが疑問風にいうとソラの驚いている表情が目に入った。その刀身を見ると木刀は折れていた。
「な……んだと……」
2人が驚いていると国王が高笑いをしながら叫ぶ。
「はーはっは!!彼女は盾の勇者様ぞ!防御力は随一に決まっとろう!」
「な……防御力で木刀を折ったということか!そんなことあり得るわけ……」
国王に向かってソラが不満を言っていると後ろから
「ごちゃごちゃうるせぇよ!カエデに何攻撃してんだよ!!!」
とカズヤは思いっきりソラの背中を木刀で切りつけた。
「がはっ……!」
するとソラは段々と力が入らなくなり地面に倒れてしまった。
「大丈夫か!カエデ!」
「うん……全然痛くはなかったけど……」
「それは良かった……こいつ……女を狙うなんてよ!」
カズヤはキレながらソラの方を見る。
すると客席の方から「ソラーーー!!」とアルの声がした。そこでソラは気を失ってしまった。