〇第1話 黒い天使
遡ることおよそ20年前、物心が付き始めた頃のことだ。
私はどうやら、同年代の子どもの中でも比較的、大人しく素直で手のかからない子どもだったらしい。
とある晴れた日に母と買い物に出かけていた時の事だった。帰り道にある小さな公園で地面に座り込んで泣きじゃくる女の子を見かけた。周りには誰もいない。私は咄嗟に母と繋いでいた手を振りほどいてその子の所に駆け出した。泣いているその子を見ないふりで素通りすることが出来なかったのだ。
「どうしたの?どうして泣いているの?」
女の子は泣きながら私に話した。
「お母さんとはぐれちゃったの──。」
「じゃあ僕が助けてあげる。絶対お母さん見つけてあげる!」
黙って見ていた母が心配するような声で後ろから話しかけてきた。
「ねえ大志・・・?誰と話しているの?」
思わず私は振り返った。
「え?だって女の子が・・・。」
「女の子・・・?どこにもいないわよ?大丈夫・・・?」
私は何が何だか解らなかった。
「クックック・・・ハッハッハ!!引ッカカッタナ?見ツケタ!餌!オレ様ガ見エルナンテ、オマエ・・・チョー甘チャンダナ!!ガッハッハッ」
背後から聞こえてきた不気味に笑うその声は女の子でも人間でもまるでないような声だった。そして思わず私は振り返った。
視界に入ったその黒い生き物は自分を、『天使』と名乗った。