ミミーズ星人
水溜りが映し出したのは、やけに大きな葉っぱだ。優雅に、ゆらゆらと飛ばされていく。
「姉ちゃん、人間達があほみたいな顔してこっち見てるよ」
「ミミズ、ミミッ」
姉ちゃんと呼ばれるそれは、フルメタルでできている。尻尾は、刃物のように鋭く葉っぱ特注でなければ、破れていただろう。
深い湿った山奥の中。ミミーズが好みそうな立地だ。
「我が同胞たちよ。復讐の時が来た」
ローナは、それらに問いかけるも返事なし。
「なぜだっ!私の問いかけになぜ答えない」
「まさか、私の言葉がわからないのか」
「っく、ミミーズはここまで退化してしまったのか」
「ミズッー!」
くねくね。細長いその体が、荒ぶった。
私たちが、ここにやってきて数年がたった。たった二人で、ここまでこれたのはすごいと自分でも思う。植物たちに、有害性を持たせることから初めた。そこからは簡単。人間達は互いを攻め合い勝手に互いを責め合っていた。
「ミズ、ミズ」
尻尾を立てている。警戒している。人間が近くにいるとでもいうの?今までのことがばれたとでもいうの?
「姉ちゃん……」
体を寄せる。微かな震えを感じる。武者震いだ。きっとこれはそうなんだ。姉ちゃんも私も怖がってなんかいない。
「ここだ、ここ」
ひびの入る扉。がんがんとした騒音。太陽の光が差し込む。これは覚悟してたことなんだ。あぁ、いつかこうなることくらい知っていた。
「気を付けろ、奴らはただのミミズじゃない」
「見えないですね」
人間だ。私よりはるかに大きいそれを見上げる。戦わないといけないのに、体が動かない。しゅっ。姉ちゃんの尻尾が頭の前を通る。
「逃げろと?いやだ。私も戦う。ご先祖様のために」
「ああ、いました。駆除します」
人間の手がこちらに伸びてきた。うっ。捕まる。死にたくない。まだ、姉ちゃんといたい。
「ミミ、ミミズ」
姉ちゃんの叫び声が聞こえる。鈍い痛みが体に伝わった。ころされるんだ。目をつぶる。
「ミイミミ」
え?姉ちゃんが人間の手の中にいるの?手にしわがってる。いやだ。やめてよ。握りつぶさないで。
「みみみーー!」
青い血が人間の手から流れでた。
「こんなのってないよ」
私のせいだ。また、人間の手がのびてくる。もう別に死んでもいいや。私は、後ろにあった排水口にとびこんだ。
ふかふかしたものの上にいる。とても暖かい。ここはどこ?
「目が覚めたんですね」
人間が目の前にいる。憎い。
「今の状況が分かりますか?通りかかった人が救急車を呼んだんですよ」
救急車?そんなことどーでもいい。人間に姉ちゃんを殺されたんだ。うっ。まだまだ一緒にいたかった。一緒に星に帰って復讐してきたことを祝って欲しかった。
涙が溢れてくる。
「大丈夫ですか?」
「私はミミーズ星人のローナだ。人間に復讐しにきたんだ。お前に心配される筋合いはない」
「お辛かったんですね。貴方も人間ですよ。これから少しずつゆっくり自分を取り戻していきましょう。」
白衣の男はそういう。私が人間?
「は?何を言っている!」
私はすっと鏡を渡される。それを受け取り自分を見る。全部思い出した。そこには顔が見えないくらいに伸びきった髪を垂らした。自分がいた。