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3話 魔女の森

「……こんな遭遇(エンカウント)は、遠慮して欲しいわね。はぁ〜……」


 今はそんな気分じゃないのに、思わず呆れてため息が出てしまうわ。


「おいおい、嬢ちゃん。俺達と会ったってのに、そんな嫌そうな顔をするなよ〜」


 その言葉の後には、「げひゃひゃひゃ」って品の無い複数の笑い声が聞こえてくる。


 ――『魔女の森』


 王都から南下した場所にある森。

 その昔、王都を恐怖に落とした魔女が住んでたことから、そう呼ばれている。


 犯罪者や盗賊が魔獣が跋扈して、危険な場所だから王都の人は近づくことすらない――と、言うゲーム内の設定。


 意中の王子がヒロインのために危険を犯して、森に咲く妙薬の花を取りにいくイベントのために用意されていた舞台だ。


 サクラによって王都を追放されたわたしは、兵士数人に連れられて、森の入り口に捨てられた。

 兵士達は森が怖いのか、わたしを捨てるとさっさと逃げていってしまった。


 森に着いたのは夜中。

 さすがに夜の森を一人で歩き回るつもりはない。

 わたしは身の安全を考えて、太く高い木に登って一夜を明かしたのだ。


 朝になって安全を確認したわたしは、森の中を歩いていた。


 王都に戻るわけにはいかない。

 森の外では、兵士達が見張ってるからね。

 なので、わたしは森の中を適当に進んでから、兵士達の視界が届かない場所から森を抜け出して、どこか街とかを探すつもりでいた。


 日も明けたから、多少は安心していたのだけれど……

 まさか、山賊だか盗賊みたいな連中に遭遇するとは予想もしなかったわ。


「怖がらなくてもいいんだぜぇ? 俺達はこう見えても紳士だからなぁ?」

「紳士……? あなた達が? ……少なくともわたしにはそうは見えないわ」


「見えねえか……ま、たしかに違えねぇな!」

「げひゃひゃひゃ!」


 その態度が既に紳士じゃないのよ。


 男を凝縮したような匂いが漂ってきそうな風体。

 獣の皮を巻き付けたりしてるし、なんか毛深っぽいし……紳士の対局にいる存在にしか見えない。


 それに軽装の革の胸当てや服に付着した、真新しそうな鮮血は返り血に見える。

 手にした重そうな袋……チャリチャリと擦れる音から察するに、あれは金貨とか貴金属かな。

 ひと仕事終わったってところかしらね。


 人数は、七人。

 わたしに話しかけてくる真ん中にいる大男が、リーダー格かな。


「おいおい。何黙ってんだ、嬢ちゃん? もしかして怖くて何も言えねえのかぁ? だったら俺達全員で、嬢ちゃんをいい声で鳴かせてやろう――かはっ!?」


 わたしの手刀が、喋ってた大男の喉仏に突き刺さった。


「いつまでお喋りしてるのかしら? 油断しすぎでしょ……って、聞いてる?」


 両膝を付いて倒れる大男は、苦しそうに喉を押さえてる。

 喉仏を突かれたら、呼吸するのが結構難しくなるのよね。


「て……テメェ!?」


 わたしの近くに居た長身の男がすごい形相で、剣を振り上げ襲ってきた。


「いい反応だったけど……行動が少し遅いわよ!」


 わたしは、大男が持っていた短刀を奪い取ると、長身の男の右肩に向けて投げつけた。


 ただ投げつけただけじゃない。


 刺さった短刀の柄に掌底を打ち込む。

 そうすれば短刀の刃が、更に身体に深く突き刺さるからだ。


「ぎゃあ」と悲鳴を上げた男の顎が僅かに上を向く。


 わたしは顎先に掌底を連打する。

 そうすることで相手の脳を揺さぶり続け、失神させるのが目的だ。


 効果は直ぐにあった。

 脳を激しく揺さぶられた男は、ぐるんと白眼を剥くと体中の力が抜けたのか、膝をカクンとさせ前のめりに倒れた。


 しーんと静まり返っている残りの男達。

 まあ、女のわたしが二人を呆気なく倒したんだから、驚いて声も出せないわよね。


「女ぁ……なぁに調子に乗ってんだあ?」


 残った連中は怖い顔をしてわたしを睨んでる。

 ようやく武器を構えて、わたしを取り囲み始めたようだけど。


「泣いて謝ったって、もう許さねぇからなぁ」

「ひん剥いて、俺たち全員で可愛がってやるからよぉ……」

「げひゃひゃひゃ……びゃっ!?」


 わたしに喉仏を突かれて、下品に笑ってた男がばたりと倒れた。

 倒れて苦しそうに悶える仲間に、全員の視線が集まってる。


 その一瞬の隙を見逃すわたしじゃあない。


 わたしは一人また一人と確実に倒していく。

 残りの五人を倒すのは、それほど時間は掛からなかった。


「ま、初めての実戦にしては合格かな」


 地面に倒れた男たちを一瞥した。

 今のわたしは満足そうな表情をしてるに違うない。

 それとモヤモヤしてた気分が、スッキリとして清々しい。


 ――パキリ


 誰かが落ちた枝を踏んだ音がした。

 森の中から誰かに見られてる気配に、わたしは気づいた。


「誰だか知らないけど、覗き見なんて趣味が悪いわよ?」


 気配がする方に向かって話かけた。

 倒れてる連中の仲間だったら、容赦する必要もないからね。


「ごめんね〜……覗くつもりは無かったんだけど、ついあなたの戦い方に見惚れちゃっいまして」


 両手をぶらぶらさせながら、申し訳なさそうな顔をした女の人がわたしの前に出てきた。

 その後ろには、仏頂面をした男の人。


 盗賊とか山賊のような雰囲気とは違う。

 こいつらの仲間じゃないのは、見て何と無く分かるけど……この人達は何者?


 女の人はずいぶんと動きやすそうな格好してる。

 武器のような物は持って無い。

 男の人は胸当てプレートか。

 腰にある武器は、日本刀の鞘に似てる。


「そんな警戒しなくてもいいわよ。アタシ達は黄金の獅子(ダンテ・ライオン)って云うギルドの冒険者なんですよ」

「ギルド? 冒険者?」


「そう冒険者。アタシはキャリアで、こっちの無愛想なのがリョウマ」


 ギルドとか冒険者って、ゲームとかで出てくるお金で依頼を受けるって云う戦闘のプロで傭兵みたいな人たち。

 この人たちが、その冒険者なんだ。


「……あの、だったらこの連中を倒すのを手伝ってくれても良かったんじゃない?」

「あはは。そのつもりだったんですけどね。でも、あなたに手助けする必要、あった?」


 キャリアはそう言うと、地面に倒れた連中を見ている。


「……無いわね」

「ね、でしょ?」


 キャリアの言うとおり、手助けの必要なかったのよね。

 この人、状況を判断する能力がかなり高いのかも。


「それにしても、あなたには感謝しなきゃいけないわね。追ってた盗賊達を代わりに倒してくれたんだから」


 あ、この倒れてる連中は盗賊だったんだ。

 成り行き上、倒しただけだから感謝される必要はないんだけどね。

 でも、感謝されて悪い気はしないかな。


「気にしなくてもいいわよ。わたしはたまたま居合わせたこいつらをたまたま倒しただけだから。で、こいつらは何をしたの?」


「うん? ああ、こいつらはですねえ。あるお金持ちの商人のお嬢さんを誘拐したのよね。依頼されたアタシ達はお嬢さんの奪還と盗賊の討伐が目的だったなのよ」


「じゃあ、わたしが連中を倒しちゃったから、拐われたお嬢さんの居場所とか分からなくなったんじゃ……?」


「それは大丈夫ですよ。今、アタシ達の仲間が盗賊団の拠点(アジト)を見つけてるはずですから。それよりも今はこいつらを締め上げないといけませんからね」


 キャリアが気絶してる盗賊達にスタスタと軽妙な足取りで近いていく。

 口を動かして、何かぶつぶつと呟いてるように見える。その次の瞬間だった。


 地面からしゅるしゅると根が幾つも這い出してくると、盗賊達の手足を身動きできないように縛り上げていく。

 これってもしかしなくても魔法の一種なんだろう。

 こんな魔法は初めて見る。


 盗賊達を縛り終えるとキャリアはリョウマに、


「じゃあ、リョウマ、後はよろしくね。アタシは他の仲間と合流して、盗賊の拠点(アジト)に行ってきますから」

「……了解した」


「ちょ、ちょっと待って! わたしはこの男の人と二人きりでここにいろって事!?」


「えへ」


 なにそのピースサインして、アイドルみたいな決めポーズは!?

 わたしとリョウマを残して、キャリアは森の中に消えていった。


 残された二人の間には沈黙。

 このリョウマって人、基本無口で何も喋らない。


 うう……この沈黙は耐えられないわ。

 何か話題ないかな、話題は――


「ええっと……きょ、今日はいい天気ですね」

「……ああ」


 ……会話のキャッチボールが終了してしまった。

 わたしは初めて会う人と割と直ぐに打ち解けることができる。

 でも、この人だけは無理。

 この無口なタイプは初めてで、どうすればいいのよ。


 また沈黙がつづく。


 ――パキリ、パキリ


 誰かが森の中を歩いてくる音が聞こえてきた。


 これってもしかしてキャリア?

 わたしを心配して戻って来てくれたんだったりして。


 なら良かったぁ。

 リョウマとの沈黙に耐えるのも、そろそろ限界だったのよね。


「キャリア、戻って来てくれてありが――!?」


 森の中から現れた人物は、わたしの予想を大きく裏切ってくれた。


「――あら、もう新しい男を見つけたの? あなたって本当に(ビッチ)ね」


 どうしてサクラがこんな場所に、たった一人でいるの!?

 不適に微笑みサクラに、わたしは不安を感じ取っていた。


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