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1話 ここは乙女ゲーの中?

 ……あれ、なんだろう?


 視界が真っ暗だ。

 って、違う。わたしが目を閉じてるだけか。


 でも、どうして目を閉じてるんだろ?

 さっきまで、自分の部屋でゲームをやってたはずなのに。


 寝落ち? いやいや、そんなはずはないよ。

 だって、寝てる人間がこうやって考える事なんて出来ない。


 えーっと、よ〜く思い出して、ユキ。


 たしか、昨日は学校から戻って家の道場でお父さんと、いつものように武術の稽古をやったのよね。

 その後は、お母さんが作ってくれた美味しい晩御飯を食べて、お風呂に入る。

 で、就寝前にゲームを始めたんだったはずだ。


 あれ、もしかして疲れて寝落ちしちゃった?


 う〜ん、それはないわね。

 毎日同じことやってるわけだから、今日だけ寝落ちは考えられない。


 ……よし、深く考えるのはよそう。


 まずは目を開けて状況を把握しよう。

 目を開けてみれば、全て問題は解決するはずだ。


「……え、なに? 嘘……」


 息がかかるくらいの距離に男の人の顔があった。


「ふぅ……大丈夫か、イザベル? 急に倒れたから、焦ったぞ?」


 ……へ、イザベルって誰? わたしは日高(ひだか) ユキなんですけど。


 って、あれ? この男の人の事わたし知ってる。

 なんか、毎日会ってる気が……あ! ええええ!?


 知ってるも何も、この男の人って……


 超有名な乙女ゲー『ロイヤルプリンス』に出てくる、砂漠の皇子『オルハン』じゃない。


 焼けた褐色の肌に、艶やか黒髪と吸い込まれるような黒い瞳。

 肉食系で人気投票二位の皇子様が、なんでリアルに存在してるの!?


「ねぇねぇ、オルハン。イザベルは大丈夫? すっごい勢いで前から倒れちゃったみたいだけど?」


 オルハンの背中から、ちょこっと顔の覗かせてるのは、人気投票四位の『リュート』だ。


 人懐っこい子犬みたいな笑顔を見せている、中性的な顔の美少年。

 ゲームをプレイしたお姉さま方を虜にしたと、ネット界隈じゃ有名な話だ。


 いったい何がどうなってるのよ、これ。


「緊急を要しますね……私の専属医を呼び寄せて、見てもらった方がいいかも知れません」


 その後ろから出てきた人って……クールビューティの異名を持つ海洋国家の王子さま『ディラン』!?


 思慮深いその表情には、ほんとに銀色の眼鏡が似合ってるよぉ。


 はわわわ……どどどどうなってるの。


 これは夢ですか? いやいやちょっと待って……痛い。

 古典的な手法だけど、頬を抓ったら痛かったから、これは夢じゃあないよ!?


「急に頬を抓った? マズいな、本当に打ちどころが悪かったのかも知れん。オルハン、今直ぐにイザベルの屋敷まで運ぶぞ」


 ぐっは!? まままままさか、頼れるお兄様系で人気投票同率三位のグラハムまでも!?

 騎士って設定だからなのか、白いマントが良く似合ってらっしゃる。


「ああ、任せろ。イザベル、落ちないように俺にしっかりと捕まってろよっ」


「ふぁ!?」


 力強い腕で、わたしをしっかりと抱き上げたオルハン。


 わたし、今オルハンにお姫様抱っこされてる。

 ファンの皆には申し訳ないけど、ここは大人しくこの状況を楽しませてもらいます。


「ぐへへへへ……」

「……なんだ、今の不気味な笑い声は? イザベル、お前も聞こえたか、今の声を?」

「さ、さあ? (わたくし)には、何も聞こえませんでしたわ。オルハンの空耳じゃないかしら」

「そうだな。俺の勘違いだ、すまないな。イザベル」


 いや、オルハンは謝らなくていいです。

 完全にわたしが悪いです。


 だって、あまりにも嬉しいこの状況に、思わず変な笑い声だって出ちゃうよ。

 これは自然の摂理なんだから、仕方がないことなのだ……って、自然の摂理じゃないし。


 あと、伯爵令嬢の喋り方って、これでいいのかな。

 ゲーム内じゃ、イザベルって確かこんな話し方だったと思ったんだけど。


 わたしは抱きかかえられたまま、イザベルの屋敷まで運ばれた。


 その屋敷の玄関先に、一人の男の人が立っているのが見えた。


「オルハン……!? どうして、お前がイザベルを抱きかかえているんだ? ボクが納得できる理由を教えて貰えるんだろうな?」


「……ん? お前には何か関係があるのか、アーサー?」


 このゲームの舞台であるオリヴェート王国。

 その王国の第一皇子であるアーサー。


 ここまで爽やかな笑顔が似合う人がいないってくらい、爽やかイケメン。

 王族でありながら、国民対して誰にでも分け隔てなく接するから、国民の人気が高い。

 もちろん人気投票ぶっちぎりの一位。


 そのアーサーはどう言う訳か、オルハンと事あるごとに、突っかかるんだよね。

 そのやり取りを、わたしはゲーム内イベントで散々見てきた。


 そうして今も、オルハンとアーサーが睨み合っている。


「辞めないか、二人とも。今は、一刻も早くイザベルを休ませなくてはダメなんですよ」

「そ〜だよぉ。早くしないとイザベルが死んじゃうよぉ?」

「と言う訳だ。オルハン、アーサー。今はいがみ合ってる場合では無いだろ」


 残りの三人が、いつもこんな感じで二人をなだめる光景。

 なんか、少し微笑ましい感じ。

 って、今リュートが酷いこと言わなかった?


「……分かった。あとでちゃんと教えろよ、オルハン」

「分かってる、アーサー。イザベルの重さや、触り心地を教えてやる」


「……そ、そんなに触り心地がいいのか……?」

「ああ、たまらないくらい気持ちの良い触り心地だ」


 なななな!? 何を話してるのよ、二人は!?


「ちょ、ちょっと!? 誤解を招くような事を言わないでください、オルハン! アーサーも真剣に聞かないでください!」


 本当は仲がいいのに。

 好きな人が同じだと、いつもこうなるんだよね。プレイヤーキャラを取り合う時だって……

 あ、もしかして、二人はイザベルの事が好きなの?


 そのイザベルは、今はわたしであって……ふああああ!?

 人気投票一位と二位の二人が、わたしの事を好きなの!?


 ふおおおお!? 天国ですか、ここは!


 妄想して悶える間に、わたしは自室まで運ばれてベッドの上に優しく降ろされた。


「ほ、本当にだ、大丈夫なのですか、アーサー皇子ぃ」

「王族の専属医にはもう使いを送っている。少しは落ち着いたらどうなんだ、ウェルブ伯爵」


 オロオロして心配そうにしているのは、イザベル父親(パパ)

 イザベルに超甘い、親バカなのよね。

 わたしが抱えられてのを見た途端に、倒れてしまうんだから。


 ゲームの中じゃあんまり語られなかったけど、イザベルを心から溺愛してるんだなって感じちゃった。


 その後、医者が来て診断してくれたけど、当然わたしの体には何の問題も無かった。


「じゃあな、イザベル」

「また明日、学園でね。バイバ〜イ」

「それでは今日はゆっくり大事を取ってくださいよ、イザベル」

「では、失礼する」


 安心した四人は、そう言うと部屋を出ていちゃった。

 でだよ。今はわたしとアーサーだけが、部屋に残ってる状況なんですよ。


「……皆から話を聞いた時、ボクは心臓が止まる想いがした。イザベル……ボクをこれ以上心配させないでおくれ……」


 ぬああああ!? あのアーサーが、わたしを優しく抱きしめてくれているんだけど!


 はぁ〜……なんか微かに薔薇の香りがするよ。リアルアーサーって、こんないい匂いがするんだ。


「あああああの、アーサー。も、もう大丈夫ですから……」


 これ以上抱きしめられたら、自我が崩壊しちゃうよ。


「ふっ……そうか。とにかく君が無事ならそれでいい。そろそろボクも帰るとするよ。でないと、ボクも自分をこれ以上抑えていられる自信がないからね」


 な、なんですと!? 今、なんかとんでもない発言が聞こえたんですけど。


「あ……」

「じゃ、また明日」


 そう言うと、アーサーはわたしから離れて部屋を後にした。


 一人残されたわたしは、広いベッドの上で悶えて転げ回る。


 うはああああ!! な、なんのこの甘ったるい状況は!?

『ロイヤルプリンス』の王子たちが、わたしに対してすっごく優しいんですけど。


 悶え死んでしまうじゃないの、こんなの。


「……と、喜んでばかりじゃないんだよね」


 わたしは、一人になった部屋で今の状況を考えてみる事にした。


 部屋の隅に金の縁にはめ込んだ姿見の鏡がある。

 鏡に映っているのは、日高ユキじゃない。

 毛先がクルクルと巻かれた金髪に、センスの良いドレスを着た少女の姿がある。

 現実のわたしのストンとした体つきとは大違いだ。

 スタイル良すぎでしょ、イザベルは。


 何気にわたしは、両方の胸を持ち上げて見た。


 重い……両方の胸を持つ手が重いよ。

 かつてこんな重量をわたしは持った記憶はない。


 ゲームでは、プレイヤーキャラを虐める嫌味なお嬢様キャラだ。


 イザベル・ウィルバート・ウェルブ伯爵令嬢。


 ウェルブ伯爵の一人娘で、亡き母親にそっくりな少女。

 ゲームの設定では、ウェルブ家のご先祖さまがドラゴンを倒して、その功績から伯爵家の爵位を貰ったとか。


 ゲームの中では、特にドラゴンは出てこなかったから、無駄設定とか揶揄されていたな。


 なんでわたしがイザベルになったのかとか、ここは本当にゲームの世界なのかと、いろいろ考えることはあるけど……


 ――その前に、わたしは元の世界に帰れるの?


 ここはゲームの中とは言え、魔法も存在するファンタジーの世界。

 もしかしたら帰る方法が見つかるかも知れない。


 帰る方法が見つからなかった場合は、イザベルには最悪な結果が待っているのだ。


 この世界には、まだプレイヤーキャラが召喚されてる感じは、五人の王子たちの反応で分かる。

 プレイヤーキャラが存在していたら、王子たちはイザベルには微塵も興味を示さなくなるのだ。


 ゲームのシステム上のことだから、それは仕方がないんだけど。


 で、王子たちにフラれたイザベルは悲観し自害するコースか、誰にも娶っと貰えず没落コースが待っている。


 わたしは、この『ロイヤルプリンス』は周回プレイでトロフィーコンプとプレイ時間をカンストさせた。


 だから、どのタイミングで、どんなイベントが発生するのかを熟知している。


 正直、元の世界に戻る方法は簡単には見つからないかも知れない。

 だからわたしは全力でバッドエンドを回避することに専念することに決めた。


 わたしの知識と経験を活かして、絶対に王子たちとトゥルーエンドを目指してやるわよ!


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