表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも彷徨い続けた、私の心  作者: 風音沙矢
3/4

いつも彷徨い続けた、私の心 03


―あれから、28年たっているのね。―


 私は、窓からの日差しに少し目を細めて、久高島を見た。

 新婚旅行で、久高島に行った。おなかも大きかった私に付き合って、無理のないコースでゆっくりと観光した沖縄で一番印象に残った場所だった。島の真ん中に、まっすぐ伸びる道があって、手をつないでカベール岬まで歩いた。まっすぐ伸びる道の両側に、ビンロウジュの林が続いて、海は見えないの。カベール岬まで伸びる、神の道とも呼ばれる一本道をゆっくり、ゆっくり、彼と手をつないで歩いた。どこまでも続くと良いなあと思ったわ。

 でも、当然、カベール岬についてしまった。

 それが、岬から見える海がとてもきれいで、風が気持ちよくて、なんだか、涙が出た。彼は、不思議そうに私の顔を見てたけど、彼がいなくなってしまう未来が来ても、大丈夫だと思えたからだった。


―いつか、終わりが来ても、次の世界が待っていると言うことなのかもしれない。―


 だから、彼が、離婚しようと言ったとき、カベール岬のことを思い出していた。そう

―いつか、終わりが来ても、次の世界が待っている。―

 そして、ここへやって来た。

 楽しかったわ。年が離れた若者たちが慕ってくれて、日本中の人が、ここへやってくる。みんな、笑顔になって帰っていくわ。私もエネルギーをもらって笑顔になっていた。そして、今も笑顔をもらう。幸せだ。だから大丈夫、あなたと笑顔で会えるわ。


 コンコンとドアを叩く音がした。



 少し、待たされて、先ほどの若者に、由子の部屋へと案内された。コンコンとドアをたたき、どうぞとドアを開けて、由子は、以前と変わらぬ笑顔で迎えてくれた。明るい部屋だ。由子は、椅子から立ち上がって、にっこり笑って、私の顔をしみじみと見ている。気持ちの良い風が、清潔そうなレースのカーテンを揺らしていた。少し、戸惑っていると

「今日は、来てくれてありがとう。

 元気してた?

 ちゃんと、食べてる?

 仕事は?

 あなた、ちっとも変わらないわね。

 あっ、ごめんなさい。せっかく来てくれたのに、私ばかり話しているわね。」


 そう言って、くすくす笑っている。

 由子は、本当にもう余命の短い病人なのか。にこやかに話している顔を見ると、このまま、ずっと元気で80歳すぎまで、このペンションをやっていくのではと思えた。それでも、現実は変わらない。一度、ごくりとつばを飲み込んで、それでもかすれた声で言った。

「元気そうで、良かった。」


―私は何を言ってるんだ。バカな。―


 何も気の利いた言葉が繋げないまま、固まっている私に、由子が言った。

「ごめんなさいね。余計な心配をかけて。貴文、一人では耐えきれなくなっていたのね。

 でも、おかげで、最後に貴方に会えたのね。うれしいわ。」

そう言われても、掛ける言葉が出なかった。


 少し沈黙が流れて、由子が話し出した。


「ほら、あそこ。新婚旅行で、行った久高島よ。」

由子が指さす先には、平坦な島が見えた。かすかな記憶をたどる。でも、良く思い出せなかった。

「やっぱり、忘れてるのね。

 でも、いいわ。あの時、久高島に連れて行ってくれて、ありがとう。

 わたしが、ここで、幸せに暮らせているのは、あの時、ここへ来ることができたからよ。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ