029 イケメン男子にドキ!
俺はこの居たたまれない状況を回避し、自作弁当を堪能すべくこっそりと席を立った。屋上へと向かう階段をのぼる。
鉄扉を開いて屋上に出た。青く晴れ渡った空が俺を出迎えてくれる。さあ、ボッチ食の再開だ。俺は屋上の隅に腰かけ、食べかけのお弁当のフタを取った。
黒い影が俺のお弁当に上に?見上げる俺の目を太陽から降り注ぐ日差しが射抜く。眩しい。
「一哉、こんなところで昼飯か」
俺の前に、幼なじみかつ友人のイケメン頼られ男子、北条出流が立っていた。
「ああ、なんか用か」
「用と言うほどのものではないが」
「用も無いのに出流が俺の所に来るなんて珍しいな。ヘタレがうつるぞ」
「そうか。うつしてくれないか」
そう言って頼られ男子、北条出流は俺に自分のスマートフォンを差し向けてきた。
「・・・」
三角マークをタップする。
海に向かって並ぶ私立渋川学園高校の制服に身を包んだ女子と男子。後ろからで顔は見えてないが、女子はショートカット、男子はぼさぼさ頭。
ドキ!
見覚えのある人気動画登録者のハンドルネーム。動画が開始される。
『ユーーーーー、ウーーーーー!』
『カー、ズー、ヤーーーーー!』
海に向かって大声て叫ぶ優と俺のバカっぽい姿が映し出された。
ピンチの後にまたピンチ。私立渋川学園高校の他の生徒ならごまかせるが、幼稚園から一緒の北条出流は誤魔化しきれると思えない。
「これ、一哉だよな」
「出流・・・。いつ、気付いた」
「一哉が学校を休んだ日」
「そうか」
「こっちの女子、佐伯さんだよな」
「ご想像の通りだ」
「お前ら学校ずる休みして何やってんだ」
「見たとおり海で互いの名を叫んでた」
「ぶっははは。いつか、やらかす男と信じていたが、一哉、お前最高だな。よりによって神聖女子かー。見直したわ」
「残念だが出流の思っているような関係じゃない」
「ふーん。佐伯さんの今日の弁当、あれ、一哉だろ」
「今更、隠す意味ないのか」
俺はあきらめて自分の弁当を見せる。
「ほんとすげー。興奮してきた」
出流が自分のことのように喜んでいる姿をみると純粋に誇らしい。
出流はヘタレ平民男子たちのヒーローだ。他のイケメン男子と違って俺らを差別しない。爽やかな笑顔で皆のピンチを救ってくれる頼られ男子。正直、こいつと友人であることは俺の唯一の自慢と言って良い。
「ごめん。違うんだ」
「・・・。話したくないなら話さなくてもいい」
「いや、聞いてくれ。優にとって俺は悪友であって彼女じゃない」
「何だそれ」
「だから心を許す悪友ではあるが、恋愛の対象じゃないってことだ」
「傑作だな。一哉らしい。面白い人間関係を築いたな」
そう言って、出流は屈託なく笑う。
「笑い事じゃない。出流にバレたくらいだ。いずれ皆にバレる」
「だろうな」
「バレたらどうなると思う?」
「そりゃーまあ、この世のあらゆる残忍な殺し方で抹殺される」
「だろ」
「怖えーな。それ」
「出流、小学校三年の時に転校していった三島優を覚えているか」
「いたっけ、そんなの?」
「俺も忘れていた」
「で、その三島優ってのが何の関係があるんだ」
「ドンくさデブのユウタン」
「ああ、思い出した。いつもお菓子持っている目立たん女の子。・・・。おい、ユウタンのユウって・・・。まさか」
「そうだ。佐伯優、色々あって名字は変わったがユウタンが今の神聖女子だ」
「嘘だろ。面影の欠片もない」
「事実だ」
「ぶははは。マジかよ。それで悪友か。一哉は悪ガキ大将のカズッチだもんな」
「そうらしい」
「奇跡だな」
「ああ、奇跡だ」
「で、これからどうすんのよ」
「優と相談する」
「思いっきり、ヘタレだな」
「ヘタレで何が悪い」
「あの佐伯さんが、一哉を信頼して悪友だと言うのなら、一哉もそれに答える必要があるんじゃないか」
「俺と優じゃ百年経っても釣り合わない。ヘタレ平民男子と神聖女子だぞ」
「つり合うかどうかは周りが決める事じゃないな。自分たちで決めることだ」
「・・・」
「一哉、黙っていて悪かった。俺な、ミーハーとは思われたくないが、佐伯さんに憧れてたんだ。正直、むっちゃ凹んでんだけど」
「なら、なぜ手を差し伸べる」
「性格だな」
「不憫なやつ」
俺は優に言われた言葉を出流に返した。
「だな。一哉、殴っていいか。一発、殴らせてくれたら、何でも協力する」
「隠していることが、もう一つある」
「これ以上の傑作な話か?」
「そうだ、出流。この話をせずにお前に殴られる分けにいかない」
「一哉、お前、とことんおもろいな」
「ドンくさデブのユウタンの初恋の相手はお前だ」
「マジかよ」
「優が教えてくれた」
「そうか。なら二発だな」
「出流と優ならつり合うと思うぞ。クラスのみんなも納得する」
「なら、三発だ。過去はどうあれ、佐伯さんが一哉にそこまで話したならわかるだろ。信頼されているのは一哉、お前だ。俺じゃない」
そう言って出流は俺に思いっきり殴り掛かってきた。俺はかまえることもできずにただ殴られる。
一発目!
口の中が切れて血の味が広がる。
二発目!
頭がグラグラする。
三発目!
全身がカッと燃えるように熱くなる。
「痛ってーなー。手加減なしかよ」
「手加減して欲しかったか」
「いや、これでいい。目が覚めた」
「だろ。人間、ピンチになると火事場のバカ力がでるもんだ」
「そうだな」
やっぱ、出流はイケメンのくせして不憫なやつだ。
「じゃあ、一哉。全部話せ」
全身の血が体を駆け巡り、俺の心臓がトクンと鳴った。




