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神聖女子の悪友に認定された俺。  作者: 坂井ひいろ


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001 駅のホームでドキ!

 俺こと工藤一哉くどう かずやは、なにも起きることなく高二の春を迎えた。平穏無事といえばそうなるのだが、一つくらいはなにかが起きても良いんじゃないか?


 高校生になったらなにかが変わる!そんな漠然とした期待は、高一であえなくついえた。ハラハラする事件も、ドキドキするイベントも俺のもとには訪れなかった。


 スポーツも勉強も人並み。表立って人に誇れるような、特技も特徴もない。平凡と言う言葉が俺の体を形作り、退屈という言葉が俺の日常をいろどっている。


 流れゆく時に押し流されるだけ人生を過ごす俺に、一歩を踏み出すチャンスもなければ勇気もない。


 今日も変わり映えのしない、なにもない一日が始まろうとしている。俺は高校への通学のために、いつもの決まった乗り換え駅のホームで電車を待つ。


 線路脇に並んで植えられた桜の花は既に散り、出会いの季節の終わりを告げている。うるさいくらいに青々と茂った桜の葉が、春の風に揺れていた。


「暖かくなりそうだな」


 ビルの谷間からのぞく澄み渡った空を見上げて独り言。どこまでも続く青空に、ポツンと浮かぶ孤独な雲がのんびりと運ばれていく。


 黒っぽいスーツに身を包んだ無表情なサラリーマン達に囲まれて、毎日繰り返される日常化した待ち時間を過ごす。


 このまま、何事もなく時をすごして平凡なサラリーマンになるんだろうなー。スマホのアプリとかで時間を潰して、ただ漫然と生きるための仕事を繰り返す。


 たまんねーな、ほんと。


 ふと顔をあげて前を見ると、向かいのホームにショートヘアの女子の姿。


 あれっ?うちの学校の制服。


 あっちのホームの電車が向かう先は学校とは真逆だ。


 なにしてんだろう?忘れ物でもして、家に取りに戻るのだろうか。


 腕時計を見る。あれじぁあ、遅刻は間違いなしだな。間抜けなやつ。勝手にその子の事情を思い浮かべて笑ってしまった。


 その時、悪戯な春風が彼女のスカートを揺らした。すかさずスカートを押さえる彼女。ほんの一瞬、丸くて小さくて、とても可愛らしい膝小僧がのぞいて見えた。


 ドキ!


 その光景がストップモーションのように脳裏に焼きつく。俺の心臓がトクンと鳴った。


 顔をあげた彼女の瞳が、真っすぐに向かいのホームにたたずむ俺をとらえる。見覚えのある顔だ。


 彼女の名前は佐伯優さえき ゆう。私立、渋川学園高校二年一組、俺のクラスメイト。神聖女子と呼ばれる美少女だ。アイドル顔負けのルックスを見まちがえるはずがない。


「ねえ、キミ!」


 線路をはさんで、彼女の小さな唇がなにかを叫ぶのが見えた。


「?」


 その瞬間、満員の乗客を乗せた電車が俺の側のホームに滑り込んできた。つり革につかまる人々の影に彼女の姿がかき消される。


 プシュー。


 ドアが開き、押し出されるのを必死でこらえている人々。突進するサラリーマン達。毎日の事とはいえ、これに乗り込むのは苦痛だ。


 パーソナルスペースなんてまるでない。押し寿司の米粒になった気分になる。


 おまけに今日は、彼女に見惚みとれれて出だしが遅れた。入り込む隙間もない。


 あきらめれば遅刻確定。担任をしている女教師、岩本先生のヒステリー顔が頭をよぎる。


 怖え。般若みたいだ。


 まいっか。


 しょうがないよな。


 なにも取って食われるわけじゃない。


 俺は早々にあきらめて一人、ホームに取り残された。電車は去り、向かいのホームにいるはずの佐伯優の姿は消えていた。


 だよなー。


 なにやってんだっつうのよ、俺。


 なにを期待してんのさ。


 仮にいたとしても、それがなんなんだ。


 四月のクラス替えで、偶然に同じクラスになったというだけで、一度だってまともに話をしたことがない女の子だ。


 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能!三拍子揃い組のクールビューティ、天下無双を地でいく学園の神聖女子。


 常に、あやかり女子にガードされて微笑みを絶やさない姿は、別名、アンタッチャブル。平民男子である俺には近づくことも恐れ多い存在でしかない。


 茫然としながら、また空を見上げる。青く抜けるような空が変わらずそこにあった。


 コツン。


 背中にとがったなにかが押し当てられる。


「工藤一哉!振り向かないで。撃つわよ」


 いきなりフルネームで名前を呼ばれてちょっとビビる。が、なんとなく緩んだ声に、鬼気迫る感じはまるでない。


「はい?」


 間抜けな声が俺の口を突いて出る。


 テレビドラマじゃあるまいし。俺はかまわず振り向きざまに背中に当たっているものをつかんだ。


「バーン!」


 右手の人差し指を突きだした佐伯優が立っていた。学校にいる時のシュっとした感じではなく、子猫みたいな悪戯っぽそうな笑みを浮かべて俺の顔を見上げてくる。


 ヤバイ。近い。唇がニアミスしてもおかしくない距離だ。心臓が激しく鼓動しだした。マジで呼吸ができない。ゴクリと喉が鳴る。動けない。


「いつまで女子の手を握っているつもり?」


「あっ、えっ」


 彼女のスラリとした指先に目が釘づけになる。同い年くらいの女の子の手を握るなんて小学生以来かも知れない。意味もなく緊張する。


 しかも相手は学園の神聖女子アンタッチャブルこと、佐伯優。クラスのだれかに見られでもしたら、それだけでぶっ殺されかねない。


「ご、ごめん」


 声がうわずってしまう。手を離しても、彼女は距離を取ることなく俺の顔をまじまじと見つめている。


 ふわりと風になびくサラサラのショートヘア。吸い込まれそうな大きな瞳に長いまつ毛。整った顔立ちとシルクの様な肌。卵形の小さな顔に乗った桜色の唇が動く。


「まっ、良いけど。工藤一哉くん。キミ、ノリが悪くない?」


「はい?」


 あの『バーン』に反応しろと言うのか?関西人じゃないんだけど。


 てか、佐伯優!教室にいる時とはまるでイメージが違う。神聖女子アンタッチャブル感が抜け落ちている。


「工藤一哉くんだよね。私立、渋川学園高校二年一組の?」


「そうだけど」


「よし、じぁあ、学校をサボろう」


「なんでさ」


「もう、どうせ遅刻じゃん」


「それは、そうだけど・・・」


 俺の学園でのボジョンは平民男子、さらにヘタレがついてヘタレ平民男子。学校をサボるなんて考えたこともない。


「んじゃ、決まり。いこっ!」


 彼女はためらうこともなく僕の手を取ってホームを歩きだした。展開がまるで読めない。


「はい?」


「はい?三回は罰ゲームなんだから。私のカバンを持ちなさい」


 彼女は自分のカバンを押しつけてくる。頭の中が疑問符で一杯になって返す言葉が思い浮かばない。彼女の強引さに押されて、思わず受け取ってしまう。荷物持ちかよ、俺。


「ハズレ。キミ、荷物持ちじゃなくて、今から私の悪友ワルトモに認定したから」


 爽やかな笑顔で、勝手に人の心を読んでんじゃねーよ。それに、悪友ワルトモってなんだよ。意味がわからない。たちの悪い冗談につき合って、クラス中はもとより学園の生徒全員を敵に回すほど俺は愚かじゃない。


「工藤一哉くん!キミ、退屈そうな目をしてたじゃない。なにか起きて欲しいと思ってたでしょ」


 そうだけど。ってか、本当に俺の心が読めるのか・・・。俺の手を握った腕をブンブンふり回しながら彼女は進む。


 佐伯優。こんな子だったのか。天使様系清楚女子かと思ってたのに。俺の一番苦手な元気印少女じゃんかよ。調子狂うな。


「驚いたでしょ!キミ、思っていることが直ぐに顔にでるから、わかりやすいよ」


「学校の知り合いに見られたら、俺、殺されかねないんだけど」


「大丈夫、キミと私は悪友ワルトモ繋がり。恋人なんかじゃないから問題なし」


 いくら学園の神聖女子アンタッチャブルといえども、その自分勝手ぶりに段々と腹が立ってくる。


「そういう問題じゃないだろ!周りがどう見るかだよな」


「そっか。キミ、イケメンとは程遠いけどメチャクチャ酷いってワケじゃないし。なら、恋人ってことで」


 腕を絡ませてくっついてくるんじゃねーよ。心臓がもたない。ホームをいき交う人々の視線が突き刺さる。注目されるなんて経験は初めてだ。


 そんなふうには絶対に見えてない。分不相応な俺が、彼女の弱みを握ってなにかしていると思っているに違いない。冷たい視線があちらこちらに。たえがたい。


「分かった。この際、悪友ワルトモでいいから、取りあえず手を離してくれ」


 彼女は素直に手を振りほどいた。意外と聞きわけが良い。って違うだろ。これまでが異常すぎただけだ。


 でも、ちょっともったいない気もする。どんな理由があるにせよこんな美少女に密着されるなんて、俺のこれからの人生、最初で最後に違いない。


 リア充のイケメンくんだったら普通に『はい喜んで』って受け入れるのだろうか。彼女いない歴、十六年の俺にわかろうはずもない。


 想い描いていたものとは、大きくかけ離れている気がするが、なにかが始まろうとしている。俺は人生初めて、学校をサボることに決めた。


 悪行を日常としない、俺の心臓がトクンと鳴った。

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