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世界が奏でる鎮魂歌  作者: もやパン
第一章 いざ異世界へ
8/9

第7話、猿と、猿と、猿

猿が一匹、猿が二匹、猿が三匹、猿が四匹、

( ´ρ`)。o ○


ということで第7話どうぞ

暗い森の中を、いくつもの影が走り抜ける



 その影達が向かう先には、1つの人影と、その周りに群がるいくつもの小さい影がいた



 「くそがっ!こいつらどんだけ沸いてくるんだよ!」



 そう、その人影はケンだ



 「数が多すぎるだろ!物量で押し潰す気か!」



 拳を振るえばいくつもの小さな影が吹き飛び、その姿を月明かりに晒しだす



 青い月明かりに照らされたそれの姿は、小学生ほどの大きさをした猿の様な化け物だった


 額に目が六個あり、口から牙を生やして、手には粗末な武器を握ったそれは、一匹一匹の強さは大したことが無いものの、その小ささを生かした素早さと圧倒的な数がケンを苦しめていく



 (かれこれ戦い初めてもう一時間近く経つぞ‥‥こいつら一体どれだけ沸いてくるんだよ)


 




 ──事の始まりはケンが丁度よい寝床を探して森の中を歩いていた時に、奴らが狩りをしていた所に出くわしてしまった事だった



 身体能力が人外となったケンだが、初めての夜の森の中というのは意外と視界が悪いもので、本来ならば気付けたであろう猿達の気配に気づく事が出来なかったのだ




 そうして猿達とバッタリ出くわしてしまったケンは面倒な事になる前に逃げ出そうとしたのだが、気が付いたときには既に囲まれて猿達に襲いかかられたので仕方なく応戦したのが、


 いくら倒しても次から次へと沸いてくる猿達にしかし、ケンは楽しみを感じていた




 

 ただ、いくら個体のパワーが弱いとは言えそれをカバー出来るだけの数がいるため、ケンがのんびりしていられる余裕は全く無い



 


 「うおっ!?危ね!」


 

 ケンの死角から猿が武器を振りかざして襲いかって来たのを間一髪で避けると、避けた先では既に数匹の猿が待ち構えている


 それをひと蹴りでまとめて吹き飛ばすと、その隙にまた猿達が襲いかかってくる


 


 先程からずっとこれの繰り返しだ


 

 (不味いな。少しずつ俺に攻撃が掠るようになってきてるし、このままじゃジリ貧なんだが‥‥あ、そうだ)



 飛び込んできた猿を蹴り飛ばしつつ打開策を考えていると、ふと右腕を見て今まで完全に忘れていた木刀のことを思い出したケン

 


 右手に左手をかざすと右手が淡く光り、左手には、あの木刀が握られていた


 


 「さあ、この木刀の初陣と行こうか」


 

 まるで今まで忘れられていた事を怒っているかの様に淡く光っている木刀は、ただそこにあるだけでまるで鋭い刃の様な存在感を放つ


  


 「‥‥ふっ」



 一瞬の沈黙の中、ケンは踏み込んで猿達に近づくと、木刀を横に振り抜く


 すると猿達の胴体に線がはしり、上半身と下半身に分かれていく



 「なっ!?嘘だろ?!これって木刀だよな?」



 まるで名刀の様な切れ味にケンは目を見開いて驚く


 それもその筈


 なぜなら今ケンが握っているのは木刀なのだ


 それが日本刀ならばまだ分からなくも無いが、木を荒削りしたかの様な木刀に刃物の様な切れ味があることは到底信じられなかった


 

 (なるほど、これはかなり使うのに気を付けた方が良さそうだ)



 切れすぎる刃物は時として使い手にも害を及ぼす


 要は注意して使えと言うことだ


 

 


 「これならやれるかな」

 



 四方八方から襲いかかってくる猿達を拳で殴り、足で蹴り飛ばし、木刀で切り刻む


 背中側から攻撃してくる猿を振り返って木刀で串刺しにすると、そのまま横に振って周りの猿ごと巻き込んでやる



 いくら視界の悪い暗闇と言えど、一時間も戦い続けていれば馴れてくると言う物だ








 暗い森の中に獣の悲鳴が響き渡り、鮮血が散る



 返り血で赤く染まるケンは口角を上げて笑いながら木刀を振るい、無数の猿を蹴散らしていく


 

 この戦いをケンは楽しんでいる


 

 強くなる事を望むケンにとって、命を懸けた戦いとはまさに力を手に入れるのに最適な方法だった


  


 殺す気で襲いかかってくる猿達の気配、息遣い、筋肉の動き、目線、足音、殺意、


 それらを五感で感じて戦うというのは、現代社会において紛争地帯にでも行かない限りまず体験出来ない事だ


 

 「さぁさぁ、どんどんかかってこいよ」


 

 遠くから物を投げつけてくる猿に石を投げつつ、殴り掛かってくる猿の顔面にひざ蹴りをくらわせる


 空いている方の手で近くの猿の頭を鷲掴みにして手に力を込めると、そいつをハンマー投げのハンマーみたいに振り回す


 近くいた猿達の首を木刀を使って切り裂くと、自分に襲いかかってくる猿がいなくなっている事に気が付く

 




 立ち止まって周りを見ると、先程まで数え切れないほどいた猿達はかなり数を減らしていた




 もうすぐ全滅か、と思ったその時



 《キキィッ!》


 

 猿達が一斉に鳴いて、一目散に逃げ出す




 「逃げるんかい。まぁ、あっちが逃げるってんなら無理には追わなくてもいいか‥‥疲れた」



 逃げ去る猿達の背中を眺めつつ、ケンは血で濡れた地面に座り込む 



 ケンが戦い初めて約3時間半、ようやく猿達との戦いに決着がついたのだ





 木刀を右手にしまって(しまって?)体の様子を確かめてみると、いくつか出来ていた傷が少しずつ治っていくのが見て取れた


 

 「oh‥‥‥身体能力が人間やめたのは分かったんだが、まさかこんな回復能力まであるとは‥‥」



 しかし、この化け物ばかりの場所において傷の治りなどが早いと言うのはかなりありがたい事だった



 「しかし流石に一日中歩き回った上、ワニ吉と戦って、猿達と戦ってと、今日はもう疲れたしな‥‥はやく寝たい」



 そこから離れた場所に大きな木を見つけたケンはそれに登って、枝の集まった所に乗って横になる

 枝同士が上手く絡み合っているおかげで意外と寝心地は良かった



 「月が綺麗だ」


 寝返りをうって青い月が浮かぶ夜空を眺めながらケンは眠りにつく

 



 こうして少し肌寒い夜を過ごしたケンだった


 




~~~~~~~~~~~~~~~~






 翌朝、目を覚ましたケンは木から降りてきて、少し固まった筋肉をほぐしていく




 「二、三時間しか眠れなかったな‥‥この体はあんまり睡眠を必要としないのか?」

 


 そう言って近くからリンゴモドキを取って食べる



 やはり、食べ物に最低限困らないと言うのはとてもありがたい事だった

 


 「体が猿達の返り血でベタベタなまま寝たからかな?凄い体から臭い匂いがする‥‥早くどっかで体を洗わないとな」



 

 体が血で汚れたままとなれば、変な病気になりかねないし、鼻の良い奴がいたら、そいつらに見つかりかねないからだ



 ケンは耳を澄まして水の音をを探すが、聞こえるのは風に揺れる木の葉の音と、よく分からない化け物達の鳴き声ばかりだ


 (って、この鳴き声は昨日の猿共の鳴き声じゃんか。真っ直ぐこっちに向かって来てるな)


 ケンの耳が捉えたのは、間違いなく昨日の猿達と同じ鳴き声だった




 奇襲に備えてケンが意識を切り替えて待っていると、思っていた通り、二匹の猿がケンの上から落ちてくる



 「ほいっとな」



 ケンはそれを楽々と避けると、お返しと言わんばかりに、二匹の猿の顔面に拳を叩き込む


 

 流石は身体能力が人外となったケンの力は凄まじく、二匹の猿はまるで野球ボールの様に飛んでいった



 ───キキッ‥‥キギィッ‥‥ギッ‥‥キッキキッ‥‥ギッキキ‥‥ギギギッ‥‥キィキィ‥‥キッギッキィ‥‥キキッ‥‥ギギギッ‥‥ギギギッ‥‥キッキキ‥‥ギッギギキ‥‥キキキ‥‥───


 


 「キィキィうるさいっての!」



 周りの木々から何百、何千、何万という目がケンを睨みつける


 すると、その中から三体の猿達が現れた



 (こいつ等は‥‥ボス猿か?)


 

 その三体の猿達は他の猿達とは違い、それぞれが変わった特徴を持っている




 右端の猿(命名、猿一)は他の猿達に比べて3

倍以上大きく、その身長はケンをも上回っていて、どちらかと言えば猿と言うよりゴリラだ


 真ん中の猿(命名、猿二)は他の猿と同じくらいのチッコイが、その眼光は鋭く、まるで切れる刃のようだ


 左端の猿(命名、三郎)は全身を長い体毛が被っており、なんだかもじゃもじゃのモップを連想させた


   



 「お前らが相手か?」



 ケンはその問いかけと共にいきなり猿一に殴りかかると、猿一は一歩前に踏み出してその大きな拳で殴り返してくる


 

 『ぐごぉぉぉ!』


 

 「おらぁっ!」



 激突する二つの拳は互いに一歩も引かず、まるで石像のように動かない


 純粋なパワーとパワーのぶつかり合いは、両者とも互角の様だった



 


 (こいつ‥マジで力が強いぞ!ちょっとでも力を緩めれば一瞬で俺が吹き飛ばされそうだ。これはかなり苦戦しそうな予感‥‥)



 しかし、その場に居るのはその一人と一匹だけでは無い


 

 「っ!」



 突如、ケンが体をひねって横に飛ぶと、顔を顰める


 見れば、ケンの脇腹にはまるで何かで斬りつけられたかの様な傷が出来ており、そこから血が流れていた


 

 「おいおい、なんだよそれ」



 ケンの脇腹を切った犯人は、猿二だ


 その猿二は、今や先程見た猿の様な姿ではなく、まるでハリネズミの様に鋭い刺を全身に生やしてケンに突っ込んで来る事でケンを串刺しにしようとしたのだ



 そして、ケンが立ち上がろうとした瞬間、再び猿二が飛び込んでくる



 「ちっ!」


 

 それを紙一重で避けたケンはふと、三郎が居ないことに気が付く



 (あいつはどこ行った?)



 その時、ケンの足に何が絡み付いてケンは一瞬動きを止めてしまう



 「なっ!?」



 その瞬間、わずか一瞬ケンに出来た隙をつき、猿一がケンを殴り飛ばす



 「がはっ」



 並の人間なら簡単に潰れてしまう様な一撃を受けたケンは、頭から血を流しつつ前方を見る



 すると、そこには長い毛をうじゃうじゃさせた三郎がいた



 恐らくさっきケンの足に絡み付いたのは三郎の長い毛なのだろう




 「全くもって良い連携プレイしてるよお前ら。まさかこんなに簡単に一撃貰うとは思わなかったな‥‥じゃあ、こっちの準備運動は終わったし、ここからはお礼をタップリとさせてもらうぞ?」




 興奮状態になったことでアドレナリンが大量に分泌された事により心臓の鼓動が早くなり、集中力が急速に高まっていく


 それにつられて、まだ眠っていたケンの体がゆっくりと目覚めて始め、五感が研ぎ澄まされていく




 「さぁ、第2ラウンドの開始と行こうかあ!」



 瞬間、ケンからまるで野性の獣の様な殺気が発せられる


 それはまだまだ幼稚な殺気だが、それでも猿一達は本能で危険を感じ、それぞれが即座に攻撃態勢へと移行する



 猿一がその巨大な手でケンにつかみかかるが、しかしケンは避けずにそれを真っ正面から受け止めると猿一の手を握り潰して、そのままがら空きの顔面を猿一の手ごと全力で殴りつけてやる

 


 「おらっしゃぁぁぁ!」



 掛け声一発、なんとケンは猿一の頭を掴んで猿一を持ち上げると、地面に叩きつけ、先日猿相手にやった様に猿一の体をハンマー投げのハンマーに見立て、グルグルと振り回す



 すると、ケンに向かって毛を伸ばしていた三郎の毛を猿一ハンマーが絡め取り、三郎も一緒に振り回されてしまう



 周りにいた猿達はその異様な光景に戸惑いが隠せなかった





 この時、げに恐ろしきは巨体を誇る猿一と、いくら小柄とはいえ、それなりに大きい三郎を意図も容易く振り回しているケンの体だ



 猿一を持ち上げた力もそうだが、自分以上の質量を振り回すとなると、まず腕や体にかかる負担が相当なものになる


 それに振り回した際に体の軸がぶれないようにしなければ、猿一達の勢いに巻き込まれてケンは吹っ飛んでいただろう





 そんなことが出来たのはひとえに、ケンの体が異常なまでのスペックになっているのが理由だ


 そのままでも強い肉体強度を持つケンが、極度の興奮状態になったことでより力を増しているのだ



 



 ‥‥そのまま数分間振り回し続けると、木や岩に何度も激突していた二体はボロボロになり、もはや立ち上がることも出来なくなっていた



 ついでに、周囲に集まっていた猿達も片づけられていた

 


 「さてと、残るはお前だけだ猿二」


 

 残るは目の前の猿二のみ



 だがしかし、その時その猿二が驚くべき行動をとる



 『お‥まち‥ください』



 「なに?」


 

 そう、猿二が喋ったのだ



 良く聞き取れない声ではあったが、確かにそれは日本語だった



 『われ‥われは、あなたを‥おそうつもりはありま‥せん』



 (へぇ‥‥この感じ、別に幻影って訳でもなさそうだし、ここは一つ話に乗ってみるか)



 「じゃあ、なぜ俺はお前達に襲われたんだ?」



 『それは‥あなたのじつりょく‥をたしかめるた‥めです』


 

 「確かめる?何のために?」


 

 『その‥ことについて‥は、ちょうろうにおあいして‥からきいてください』



 「なるほど、つまりお前達の長老とやらに会えって事か。でもこいつ等はどうするんだ?」



 そう言ってケンは周りに倒れる猿達を指さす


 

 このままここに放置しておけば、化け物達の恰好の餌になるのが容易に想像が出来たからだ


 

 「心配には及ばぬぞ。そやつらはしっかりと自分で帰ることが出来るじゃろう」



 「誰だお前?」



 いきなり別の声が聞こえたかと思うと、そこには黒い猿がいた

 

 例えるならば、まるで仙人の様な見た目をしたその猿からは、先の三匹とは比べものにならないほどの強さを感じる


 

 『ちょう‥ろうさまだ』



 「あぁ、なるほど。あんたが長老ってやつか」


 

 「いかにも、わしが長老と呼ばれとる者じゃ。とりあえずこんな外ではゆっくりと話す事も出来んので、一旦わしらの住む場所に来てくれんかの?」


 

 「どうしてだか知らないが、来いってんなら付いてくよ。あんたはなにか知ってそうだしな」



 もしかしたら化け物の罠の可能性を考えたケンだが、わざわざ自分みたいな奴の為にそんな面倒な罠を仕掛ける筈も無いだろうと思い、猿達の住み家について行くことにしたケン


 

 実はこの森に来てから誰とも会話していなかった為、少し寂しい想いもあったということは秘密である




 「こっちじゃ」



 そうしてケンは黒い猿の後について行く



 ちなみに、ケンがぶっ飛ばした猿達はふらふらになりながらも、しっかりと付いてきていた


猿は猿です

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