第6話、ワニ叩き
更新は大体三日に一度程度になりそうです
。:゜(;´∩`;)゜:。
それでは、第6話をどうぞ
「う‥ん‥」
日なたぼっこをしているかの様な暖かさを感じて、ケンは意識を取り戻していく
「なん‥‥だ、これ?」
目を開けるとそこは森の中だった
しかし、その景色にケンは違和感を感じる
見え方が違うのだ
まるで、今まで自分が見ていた物にはすべてモザイクがかかっていたのではないか、と思ってしまうほどに、今のケンが見ている景色は繊細で美しかった
さらに、聞こえる音も、感じる匂いも、肌で感じる空気も、今までとは比べものにならない程にはっきりと感じられた
「どうなってるんだ? あの立体影をナイフで刺したところまでは覚えてるんだが‥‥クソ、頭が痛ぇ」
五感がとんでもなく鋭くなったことで、昨日までとは桁違いに多くなった情報量が、ケンの脳を圧迫する
しばらくその場所に座ったまま手を握ったり辺りを見回したりしていると、次第にその状態に馴れて動けるようになる
「あぁ、喉が渇いたな‥‥あっちの方から水の流れる音がする‥‥」
ケンはゆっくりと立ち上がると、水の音が聞こえてくる方へと歩き始めた
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15分程森の中を歩くと、川が見えてくる
約1kmも離れた水の音が聞こえた自分の聴力が異常であることは、さすがのケンで理解できた
(まぁ、先ずは水を飲みたい)
目の前の川を流れる水は見たことも無いほど澄んでいて、思わずケンはゴクリ、と唾を飲み込むと口を水面につけて水を飲む
(ムッ?!なんだこの水は‥‥レ、レモン水の味がする?!)
ただの水だと思っていたその水は、なんとレモン水の様な味がして、しかも今まで飲んできた水道水とは比べものにならない程美味しかった
「ングッ ングッ ングッ‥プハァ‥‥この水なんでレモン水の味がするんだよ‥‥それに、俺の体は一体どうなっちまったんだ?」
水面に写るケンの顔はいつもと全く違うものだった
茶色っぽかった黒目は色の薄い青色の瞳へ
パサパサだった茶毛は漆黒の黒髪に
日焼けをしていた肌は色素を失ったかの様に白く透き通り、体は異様に軽く、とてつもない力が漲っている
近くからリンゴモドキを取ってきて齧ると、今までよく分からない味だったはずのリンゴモドキは、まるで梨とリンゴを足して桃で割ったみたいな味がした
「俺は味覚まで変わったのか?リンゴモドキの味もなんだか旨く感じるし‥うん、旨い」
そうして朝食代わりにリンゴモドキを食べたケンが立ち上がって後ろを振り返ると、
殺気立った巨大なワニが今まさに、ケンに食らいつこうと飛び込んできた所だった
「おぉ、なかなかの早さだな」
しかしケンは特に驚いた様子も無く、横に飛んで回避すると、巨大ワニはそのまま川に落ちていく
(ふむ、どうやら俺は気配察知能力も上がってるのか?全くもって不思議だなぁ)
しばらくその場で待っていると、巨大ワニが落ちた所の水が少しずつ揺れ始め、だんだんと水が盛り上がりはじめる
「なんだあれ?嫌な予感‥‥」
ケンは背筋がゾクゾクするような感覚を感じてもう一度横に飛ぶと、ちょうどさっきまでケンが立っていた所に水球が飛んできて、爆発した
「これは、あの巨大ワニの仕業か?そんな所に隠れてないで出てきやがれ!」
近くに落ちていた石を拾って全力で水面に投げつけてみると、小石はとんでもないスピードで飛んでいく
『グゴォォォォォォ!』
「当たったか、って危な」
小石はどうやら巨大ワニに命中したようだったが、巨大ワニは一向に川から出て来る気配はなく、そのまま水球をケンに向かって飛ばしてくる
(‥避けることは容易いんだが、このままじゃイタチごっこだな。こんなことになるんだったら川に落とさなきゃ良かった)
「出てこないんだったらこのまま逃げるか‥‥ってそう簡単に逃がしてはくれないか」
ケンが逃げようとした瞬間、ケンの退路を塞ぐかのように巨大ワニの巨体が池から飛び出してくるが、
「いやでも、池から出てきたらこっちから攻撃することも出来るんだぜ?」
そう言ってすぐ目の前に迫っていた巨大ワニの横っ面を全力で殴り飛ばす
その威力は凄まじいもので、自動車程の大きさの巨大ワニが数メートル吹き飛ぶほどだったが、しかしその反動も大きく、踏ん張っていなかったケンも同じように吹き飛んでいく
「おおっ!やばいな、これ。歩いたりしていた時にはよく判らなかったけど、かなり身体能力も上がってるみたいだな‥これは馴れるまで時間がかかりそうだ」
巨大ワニの方を見てみると、顔の左側が大きく凹んでいて相当なダメージをくらったようだが、突然巨大ワニの周りに浮かぶ水球が光ると、先程の一撃で与えたダメージが回復し始めた
「な!?回復まで出来るなんて、羨ましいかぎりだな。まぁ、俺がやることは変わらないけど、な!」
(巨大ワニって呼ぶの大変だし、あいつはワニ吉でいいや)
足に力を込めて地面を蹴ると、飛んでくる大小様々な無数の水球を避ける、避ける、避ける
数百発以上放たれる水球をケンは走って避け続けながら、自分の体を上手く動かせるように調節を行う
数分後、辺り一面水浸しになった頃、ケンは大方体の動かし方のコツを掴んでいた
(要するに体全体のスペックが大幅に上昇したって感じだから、いつも通りに力を入れると自分が思っていた以上の結果が起こって、体を動かし辛いと感じる訳だ)
「取り敢えず、馴れてきたし反撃といきますか」
再び足に力を込めて地面を蹴ると、数十メートルの距離を一瞬で走り抜け、ワニ吉に近づく
「フルボッコだオラァ!」
振りかぶった両手が超高速で幾度も打ち出され、ワニ吉とその周辺に多大なダメージを与えていく
穿ち、断ち、えぐり、へし折り、打ち砕く
ワニ吉が回復するよりも早く、強く、重いダメージを与える為に息をする間もなく打ち込まれた数十発の拳は、ワニ吉を再び何メートルも吹き飛ばす
「やっぱり、しっかりと踏ん張っておけば何とかなりそうだな」
そう言いながら、血まみれでピクリとも動かないワニ吉へと近づいていく
そして触れられるほど近づいた瞬間、何の前触れも無く地面から超圧縮された水の刃が噴き出して、ケンの体を切り裂いた
いや、切り裂くはずだった
「惜しかったな。俺が油断していれば或いはそれで俺を殺すことが出来たかもしれないが、あいにく、俺は油断も慢心もするつもりは無いんでな。って事でじゃあなワニ吉」
巨大ワニが最後に見たのは、振り下ろされる拳だった
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「油断してたせいで死んじまったとか、慢心してたせいで大切なものを守れなかったとか、そういう馬鹿らしい事はしたく無いからな」
強き者が生き残り、弱き者が死ぬこの場所において、油断などしていたら死ぬ自信がケンにはあった
この場所では、勝者こそが全てなのだ
どんな手を使っても、どんな事をしてでも、勝とうとしてくる敵を相手に慢心出来る奴がいるとすれば、それはあの赤目のキメラくらいなものだろうとケンは思う
「解体完了っと。よし、食うか」
そうな事を考えつつやっていた解体作業(適当にバラバラにしただけ)が終わると、ケンはワニ吉の生肉にかぶりつく
本音を言えば焼いて食べたかったが、この場所の枯れ枝は、いくら火を起こそうとしても煙一つ立たなかった為、ケンは肉を焼くことを諦めていた
「うん、不味い」
噛み締めるたびに生々しい血の味が口の中に広がり、血特有の鉄臭さが鼻を突き抜ける
しかも肉はかなり筋肉質で噛み応えが凄く、飲み込むのにかなり苦戦する代物だった
「モグモグモグモグ‥‥」
不意に、ケンは巨大な骨付き生肉を齧りつつ立ち上がると、体の向きを変えて歩き出す
「モグモグモグモグ‥‥」
自分の体程の大きさの骨付き生肉を齧りながらケンが黙々と森の中を歩いていくと、開けた場所に出る
その真ん中には美しく煌めく、銀色の木がはえていた
「モグモグモグモグ‥‥ゴックン。お前か?俺になにかしてるのは」
そう言ってその銀色の木に近づくと、木はより一層美しく煌めき、その枝を揺らすと、地面には花が咲き乱れ、木の葉が散る
美しいその煌めきは辺りを照らし、ケンはその眩しさに目を細めると、銀色の光は少しずつ薄れていき、光が完全に消えると、木が生えていた場所には1本の木刀が刺さっていた
「あの木の正体がこの木刀ってか?それにしても、この場所は‥‥」
最初は銀色の木に注目していて気が付かなかったが、そこはケンがあの立体影と戦った場所だった
砕けた岩も、半ばから折れた木も、陥没した地面も、確かにケンがあの立体影と戦った時に出来た物だ
「それにしては、あの立体影の死体が見つからないんだが、実はまだ生きてるとか?
うーん‥俺がこんな体になったのも立体影のせいだったりするのかもな‥‥モグモグ」
そうして、また骨付き生肉に齧りつくが、
「あぁ、もう!分かった!分かったから!」
急にそう叫んで木刀に触れる
───実を言うと、ケンは目を覚ました時からずっとよく分からないものを感じていた
それを例えるならば、スーパー銭湯等によくある超音波風呂に入ったときに感じる超音波の様なものだ
それはまるでケンに何かを訴えかけるかの様で、この場所に近づくにつれてどんどん強まっていき、目の前の木刀が現れた頃からケンが僅かな痛みを感じるほどに強くなっていたのだが、どうやらその原因は目の前の木刀らしい
「っ!」
木刀を掴んだ瞬間、ケンの体に激痛がはしる
まるで体の中に煮え湯を流し込まれたかのような痛みはケンの全身を巡り、鼻や目から流血する
しかし、ケンは顔を歪ませて歯を食いしばり、それでも尚、木刀から手を離そうとはしなかった
ケンの勘だが、この木刀を離してはイケないような気がしたからだ
「くそが‥‥」
いくら身体能力が上昇したとはいえ、痛みへの耐性は別物で、体が動かなくなる程の痛みで意識が眩むのをケンは必死で我慢した
そうして身の焼ける様な激痛を我慢しつつ、木刀を握ること数十分
ようやく痛みが引き始め、ケンは動けるようになる
「グフッ‥‥ようやく動けるようになったか。もう一生分の痛みを味わったな‥‥」
目と鼻から流れる血を手で拭ってその場に座り込むと、ケンは木刀が刺さっていた場所を見る
そこに木刀は無く、かと言ってケンが木刀を掴んでいる訳でも無い
木刀は消えていた
「あの木刀、一体何所にいったんだ?俺が掴んでいたいた筈なんだが‥‥」
しかし木刀を掴んでいた筈の右手に木刀は無く、まるで火傷をしたかの様な痛々しい痕が残っているだけだが、しかし‥
「全くもって俺はこの場所に来てから驚きっぱしだよ‥‥驚き疲れるわ」
どういう原理か、ケンの右腕から木刀が透けた状態で突き刺さっていた
「なんだ?俺の体は四次元ポケットってか?ふざけんなよ」
試しに木刀を引っ張ってみると、右腕から抜いて振り回す事が出来るし、右手に押し付けてみると、右腕の中にするすると戻っていく
実体が無いのかと言われればそういう訳では無いし、かと言って右手に刺すのが痛いかと言えばそうでも無い
何とも奇妙な感覚だった
「これ物理法則無視しすぎだろ‥‥なんで1m以上ある木刀がそれよりも短い俺の右腕に入りきるんだよ。しかも普通に関節曲げられるし」
ケンはため息をつきつつ立ち上がると、近くの木に登って、辺りを見回す
(取り敢えず木刀の事は置いといて、先ずは森の奥を目指して歩くことから始めるか。それと化け物と出会ったらこの木刀使って戦ってみるか‥‥)
「森の奥は‥あっちだな」
こうしてケンは銀色の花が咲き誇る花畑から抜け出して、再び森の奥を目指して歩き出す
ケンがいなくなった花畑は少し寂しげだった
この木刀の元ネタ、分かる人なら分かるかもしれません。自分はこういうのに憧れたんです