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世界が奏でる鎮魂歌  作者: もやパン
第一章 いざ異世界へ
6/9

第5話、戦いとは、命を掛けるもの

やっぱり、主人公はカッコイイ方が(・∀・)イイですよね


と、いうことで第五話どうぞ

寒さと空腹で目を覚ますと、そこは洞穴のなかだった


 「あぁ、そうか。昨日はここで寝たんだったな」


 割れ目から差し込む朝日を眺めつつ、ケンは二日目の朝を迎える



 近くに実っていたリンゴモドキを取ってきて朝食代わりに食べたケンが立ち上がって自分の体を見ると、傷跡は右頬以外ほとんど消えていて、問題なく体を動かせるようになっていた


 「さて、と。さっさとここを出るとするか」


 朝起きたときに気が付いたのだが、実はこの洞穴、かなり危険な場所なのだ

 というのも、どうもこの洞穴の中に長時間いると体力が奪われるようで、ケンが朝起きたときに感じた寒さは体力が少なくなっていたのが原因だったらしい


「体力が無くなれば洞穴から出ることも出来なくなって、そのままのたれ死ぬってわけか‥」


 本来、丸一晩この洞穴の中で過ごして尚、楽々と動けるということはかなり凄い事なのだが、ケンがそれに気づく事はない


 

 「とりあえず今後の目標は森の奥へ向かいつつ、ここから脱出する方法を探すってところか。リュウジ達、無事だといいんだが‥」


 こうしてケンは再び魔の森へと足を踏み入れた




 実を言うと、ケンが森へと足を踏み入れたのには、もう二つ理由がある


 一つ目は水の確保だ

 水は、生物が生きていく以上必要不可欠なもので、果物だけでは水分が足らなかった為、森の中に水源があるのではないか、と探すことにした


 

 二つ目はある生き物を探すためだ

 今朝、夢で見た小さな子どもと白い鹿のいた森に生えていた植物と、この森に生えている植物はうり二つだったのだ

 つまり、恐らくケンは昔ここに迷い込んだ事があり、ここで白い鹿と出会って、どうにかしてこの場所から脱出する事ができたのだ

 

 もし、あの白い鹿ともう一度会う事が出来ればここから脱出する方法を教えてもらえるかもしれないし、何よりもあの白い鹿ともう一度会いたいという、純粋な思いが強かった


 


 昨日ぶりの森は少し湿っていて、昨日とはまた、少し違った雰囲気を纏っている

 そんな中をケンは黙々と歩いていく


 ケンはあまり気にしていない様に見えるが、実際は死の恐怖がケンという人間に与えた影響は大きく、それがケンの行動にも現れる


 敵に見つからない様に気配を消そうとする事や、常に周囲に意識を張り巡らせ、危険を察知できるようにする事など、ケンは少しずつ変わっていく


 

 「ん?あれは‥‥」


 何かが暴れまわる音を聞きつけたケンがそちらを見ると、そこには先日見たものとそっくりなオーガモドキと、そのオーガモドキそっくりな体型の立体化した影のような物が戦っていた


 少し興味のわいたケンがそれを木の陰に隠れて観察してみると、どうやら立体影の方が若干有利なようで、かなりの接戦が繰り広げられる


 しかし、パワーでは両者ほぼ互角だが、全体的な強さはオーガモドキが劣っている様で、少しずつオーガモドキが押され始め、とうとうオーガモドキが体制を崩した瞬間、首を折られて絶命した


 「あのオーガモドキ、あんなパワーがあったのか‥」

 

 オーガモドキが振るう拳は、まさに破壊力の塊とでも言うべきもので、木に当たれば木の幹が半ばからへし折れ、地面に当たれば地面が大きくえぐれていた


 「あの時まともに食らってたらヤバかったな‥いや、それよりも今はあの立体影の方がヤバいな。あのパワーで攻撃されても全く怯まずに攻撃し返してたからな‥‥早くここから離れた方が良さそうだ」



 だかしかし、ケンがその場から離れるのには少し遅すぎた

 


 立体影は自分を見ている気配に気がつき、そちらへと歩き出す

 二百メートルも離れているケンの気配に気がつく事が出来たのは、ひとえに、立体影の感知能力の高さゆえだった


 

 「っ!!バレたのか!」


 ケンはすぐさま後ろを振り返って走り出すが、後ろから追いかけてくる立体影はどうやらケンの2倍近い速度で走ってきているようで、みるみるうちに二人の距離が埋まっていく


 後ろを振り向くと、もうすぐそこまで立体影は迫ってきていたため、ケンは仕方なく立ち止まり、後ろに振り返って戦闘態勢へと移る

 すると立体影も立ち止まり、体の形を変え始め、数秒後には身長170cm程の人間らしい見た目になっていた


 「おいおい‥こいつ、俺の影を取り込んでそれに変化したってか?マジで勘弁してくれよ」


 見ると立体影の足がケンの影を踏んでおり、ケンの影は立体影に吸い込まれてく

 

 しばらくゆっくりと体を動かしていた立体影は、なんの前触れも無くケンに殴り掛かってくるが、


 「標準的な人型が相手なら負けねぇよ」


 殴りつけてくる立体影の腕を外側から押して退路を作り出し、攻撃を回避したケンは、そのまま立体影にカウンターを叩き込む


 (なんだこの感じ‥セメントを詰め込んだ袋を殴ってるみたいだ)


 すかさず蹴りを立体影の脇腹にぶち込み、続いて膝蹴りを当てるが、立体影は全く怯むことも無く、まるで何事も無かったかの様に次の攻撃を仕掛けてくる


 「な?!こいつダメージを食らってないとでも言うのかよ!」

 

 立体影の攻撃を躱しつつ、もう二、三度攻撃をしてみるものの、やはり手応えがない


 

 接近戦において、攻撃を食らっても全く怯まない相手というのは非常に厄介であり、さらに、一撃で大木をへし折るパワーをもつ相手となれば、ケンが不利になるのは当然の結果だった


 攻撃を躱し、その隙に殴り、また攻撃を躱す


 それを幾度となく繰り返すが、一向に立体影がダメージを受ける気配はなく、ただただケンの体力だけが消耗されていく


 そうこうしていると、立体影の拳がケンの右肩を擦り、その余波でケンが体制を崩して転んでしまう


 「危なっ!」


 振り下ろされる追撃を転がって回避すると再び立体影に向かって攻撃をするも、やはり結果は変わらない



 しかも、いくら動きが大雑把で躱しやすい攻撃とはいえ、一瞬のミスも許されない破壊の暴風圏内にいるというプレッシャーに、ケンの精神はジワジワと蝕まれていく

 




 そうして十分も経つ頃には、ケンは冷静さを失い、軽いパニック状態になっていた


 (どうしてこいつには俺の攻撃が効かないんだ?!このままじゃこいつを倒せないまま俺が力尽きるだけだぞ!)

 

 接近戦において、冷静さを失うというの寒さと空腹で目を覚ますと、そこは洞穴のなかだった


 「あぁ、そうか。昨日はここで寝たんだったな」


 割れ目から差し込む朝日を眺めつつ、ケンは二日目の朝を迎える



 近くに実っていたリンゴモドキを取ってきて朝食代わりに食べたケンが立ち上がって自分の体を見ると、傷跡は右頬以外ほとんど消えていて、問題なく体を動かせるようになっていた


 「さて、と。さっさとここを出るとするか」


 朝起きたときに気が付いたのだが、実はこの洞穴、かなり危険な場所なのだ

 というのも、どうもこの洞穴の中に長時間いると体力が奪われるようで、ケンが朝起きたときに感じた寒さは体力が少なくなっていたのが原因だったらしい


「体力が無くなれば洞穴から出ることも出来なくなって、そのままのたれ死ぬってわけか‥」


 本来、丸一晩この洞穴の中で過ごして尚、楽々と動けるということはかなり凄い事なのだが、ケンがそれに気づく事はない


 

 「とりあえず今後の目標は森の奥へ向かいつつ、ここから脱出する方法を探すってところか。リュウジ達、無事だといいんだが‥」


 こうしてケンは再び魔の森へと足を踏み入れた




 実を言うと、ケンが森へと足を踏み入れたのには、もう二つ理由がある


 一つ目は水の確保だ

 水は、生物が生きていく以上必要不可欠なもので、果物だけでは水分が足らなかった為、森の中に水源があるのではないか、と探すことにした


 

 二つ目はある生き物を探すためだ

 今朝、夢で見た小さな子どもと白い鹿のいた森に生えていた植物と、この森に生えている植物はうり二つだったのだ

 つまり、恐らくケンは昔ここに迷い込んだ事があり、ここで白い鹿と出会って、どうにかしてこの場所から脱出する事ができたのだ

 

 もし、あの白い鹿ともう一度会う事が出来ればここから脱出する方法を教えてもらえるかもしれないし、何よりもあの白い鹿ともう一度会いたいという、純粋な思いが強かった


 


 昨日ぶりの森は少し湿っていて、昨日とはまた、少し違った雰囲気を纏っている

 そんな中をケンは黙々と歩いていく


 ケンはあまり気にしていない様に見えるが、実際は死の恐怖がケンという人間に与えた影響は大きく、それがケンの行動にも現れる


 敵に見つからない様に気配を消そうとする事や、常に周囲に意識を張り巡らせ、危険を察知できるようにする事など、ケンは少しずつ変わっていく


 

 「ん?あれは‥‥」


 何かが暴れまわる音を聞きつけたケンがそちらを見ると、そこには先日見たものとそっくりなオーガモドキと、そのオーガモドキそっくりな体型の立体化した影のような物が戦っていた


 少し興味のわいたケンがそれを木の陰に隠れて観察してみると、どうやら立体影の方が若干有利なようで、かなりの接戦が繰り広げられる


 しかし、パワーでは両者ほぼ互角だが、全体的な強さはオーガモドキが劣っている様で、少しずつオーガモドキが押され始め、とうとうオーガモドキが体制を崩した瞬間、首を折られて絶命した


 「あのオーガモドキ、あんなパワーがあったのか‥」

 

 オーガモドキが振るう拳は、まさに破壊力の塊とでも言うべきもので、木に当たれば木の幹が半ばからへし折れ、地面に当たれば地面が大きくえぐれていた


 「あの時まともに食らってたらヤバかったな‥いや、それよりも今はあの立体影の方がヤバいな。あのパワーで攻撃されても全く怯まずに攻撃し返してたからな‥‥早くここから離れた方が良さそうだ」



 だかしかし、ケンがその場から離れるのには少し遅すぎた

 


 立体影は自分を見ている気配に気がつき、そちらへと歩き出す

 二百メートルも離れているケンの気配に気がつく事が出来たのは、ひとえに、立体影の感知能力の高さゆえだった


 

 「っ!!バレたのか!」


 ケンはすぐさま後ろを振り返って走り出すが、後ろから追いかけてくる立体影はどうやらケンの2倍近い速度で走ってきているようで、みるみるうちに二人の距離が埋まっていく


 後ろを振り向くと、もうすぐそこまで立体影は迫ってきていたため、ケンは仕方なく立ち止まり、後ろに振り返って戦闘態勢へと移る

 すると立体影も立ち止まり、体の形を変え始め、数秒後には身長170cm程の人間らしい見た目になっていた


 「おいおい‥こいつ、俺の影を取り込んでそれに変化したってか?マジで勘弁してくれよ」


 見ると立体影の足がケンの影を踏んでおり、ケンの影は立体影に吸い込まれてく

 

 しばらくゆっくりと体を動かしていた立体影は、なんの前触れも無くケンに殴り掛かってくるが、


 「標準的な人型が相手なら負けねぇよ」


 殴りつけてくる立体影の腕を外側から押して退路を作り出し、攻撃を回避したケンは、そのまま立体影にカウンターを叩き込む


 (なんだこの感じ‥セメントを詰め込んだ袋を殴ってるみたいだ)


 すかさず蹴りを立体影の脇腹にぶち込み、続いて膝蹴りを当てるが、立体影は全く怯むことも無く、まるで何事も無かったかの様に次の攻撃を仕掛けてくる


 「な?!こいつダメージを食らってないとでも言うのかよ!」

 

 立体影の攻撃を躱しつつ、もう二、三度攻撃をしてみるものの、やはり手応えがない


 

 接近戦において、攻撃を食らっても全く怯まない相手というのは非常に厄介であり、さらに、一撃で大木をへし折るパワーをもつ相手となれば、ケンが不利になるのは当然の結果だった


 攻撃を躱し、その隙に殴り、また攻撃を躱す


 それを幾度となく繰り返すが、一向に立体影がダメージを受ける気配はなく、ただただケンの体力だけが消耗されていく


 そうこうしていると、立体影の拳がケンの右肩を擦り、その余波でケンが体制を崩して転んでしまう


 「危なっ!」


 振り下ろされる追撃を転がって回避すると再び立体影に向かって攻撃をするも、やはり結果は変わらない



 しかも、いくら動きが大雑把で躱しやすい攻撃とはいえ、一瞬のミスも許されない破壊の暴風圏内にいるというプレッシャーに、ケンの精神はジワジワと蝕まれていく

 




 そうして十分も経つ頃には、ケンは冷静さを失い、軽いパニック状態になっていた


 (どうしてこいつには俺の攻撃が効かないんだ?!このままじゃこいつを倒せないまま俺が力尽きるだけだぞ!)

 

 接近戦において、冷静さを失うというのは御法度であり、冷静さを失ってしまえば動きに無駄が多くなり、隙が生まれる


 そんな当たり前の事だが、自分の攻撃が効かないという現状がケンの心から余裕を奪っていた


 



 そして、ケンは忘れていた


 ここはゲームの様に優しい世界ではないということを


 つまり、相手が学習して成長する可能性も充分ありえるということを考えていなかった


 だからそれに対応出来ない

 

 「!?」


 突如、立体影の動きが変わる


 それは今までの様な力任せに暴れる戦い方かではなく、コンパクトで隙の少ない戦い方へと変化した


 本来、少し戦い方が変わった程度の事ならば、避けることもさばくことも可能だったであろうその拳は、しかし冷静さを失っていたケンでは避けることもさばくことも出来ず、殴り飛ばされた



 「ガフッ」


 殴り飛ばされた先、地面を何回もバウンドして大岩に激突すると、そのままケンは地面へ倒れ込む


 殴り飛ばされた衝撃と、地面を何回もバウンドしたことにより、ケンは軽い脳震とうを起こして立ち上がることが出来ない





 (負けねぇとか言っておいて、結局このざまかよ‥なんてかっこ悪いんだ俺は)


 濃密な死の気配が忍び寄り、ケンの耳元で囁いてくる


──どうせムリだ


──あんな奴に勝つ事なんて不可能だ


──無駄な抵抗なんてするな


──死を受け入れろ


──どうせお前はその程度だったんだ




 しかし、そんな死の恐怖を前にケンは笑った


 「ハッ、うるせぇよ。そんなやる前から諦めるなんてダサすぎる事は、昨日の俺にでも食わせとけってんだ」


 あの緑熊に殺されそうになった時、ケンは自分の無力さを知り、生きる覚悟を決めた

 


 死に怯え、死に恐怖し、死を受け入れる行為は、あの時自分が決めた覚悟と、あの時自分が生き残る為に殺した緑熊を侮辱する行為だと、ケンは思う


 だから、何もしないでやられるなんて選択肢は元よりケンの中には存在しないのだ


 (でも、戦いの最中に冷静さを失なってやられるなんて、本当に俺はダメダメだな)


 手を地面につけて、きしむ体をゆっくりと起き上がらせる


 「さぁ、来いよ立体影。第2ラウンドといこうか」


 そう言うと、ケンはゆっくりと歩いてくる立体影に向かって拳を構える


 右腕とろっ骨にひびが入っている様だが、気に入らない




 脳内でアドレナリンが大量に分泌され、心拍数が上昇し、感情が高ぶり始めると、それにつられてケンの本性が少しずつ顔を現す


 

 それは貪欲なまでに力を求める感情だ


 

 



 ケンは、生まれてからずっと何かに押さえつけられてきた


 それは人としての常識とやらだったり、学校のルールであったり、社会のルールとかだ




 なぜ、自分がそんなものに縛られなければならないのか?



 答えは単純、ケンには力が無くて弱いからだ



 武力や、財力、権力など、に勝てるだけの力が無ければ自由になどなれず、かと言って努力すれば誰でもそんな力を手に入れることが出来るのかと言えばそういう訳でもない


 

 そんな世の中の空気がどこかケンには気に入らなかった


  


 だがしかし、今、ケンが置かれた状況は違う


 純粋なまでの弱肉強食の世界


 くだらない考え方も、小難しい勉強も、うっとうしいルールも何もない


 あるのは生きるために戦うという事実のみ


 

 だからなのか、今まで押さえつけられてきた感情が一筋の涙となって目からこぼれ落ちる


 なんとなく、目の前の相手になら自分の全てをぶつけられると、そう感じた






 「‥‥行くぞ!」


 ケンの掛け声をきっかけに、戦いが再び始まる


 ケンと、立体影、お互いの攻撃がぶつかり、弾かれ、避けられ、さばかれ、戦いは加速していく


 もはや、ケンの意識にあるのは戦いの事だけだ



 鳩尾を殴る‥‥効果無し、、あご先にアッパー‥‥効果無し、、リバー(肝臓)を蹴る‥‥効果無し、、腕の間接をキメる‥‥効果無し、、人中(鼻と口の中間の所で急所)を殴る‥‥効果無し、、こめかみを打つ‥‥効果無し、、脾臓打ち‥‥効果無し、、内股下段蹴り‥‥効果無し、、抱え込みの膝蹴り‥‥効果無し、、下段横蹴り‥‥効果無し‥‥眉間にひじ打ち‥‥効果無し、、脳天に踵落とし‥‥効果無し、、喉に貫手‥‥効果無し、、etc




 思いつく限りの攻撃方法を体の動く限り攻撃し続ける


 立体影の攻撃の事はもはや考えない


 時々体に命中し、体ごと吹き飛ぶが、踏ん張ってそれに耐え、また攻撃をする


 時に木を盾として使い、立体影を死角から攻撃し、時に石などの道具を使って攻撃をする


 ただただ相手を倒すために体を動かす


 一発一発に感情を込めた拳は立体影の体にぶつかるたび、まるで光で影を照らすかのように立体影の体を削り、立体影の攻撃はケンの体を簡単に吹き飛ばす


 ‥‥何十回にも及ぶ攻防の末、ケンと、立体影の体はボロボロになっていた


 立体影は、所々にひびが走り、今にも壊れそうに


 ケンは、左腕がグズグズになり、ろっ骨は何本も折れ、右足も骨にひびが入っていて、全身が打撲傷に



 そんなケンを殺すため、立体影はひびわれた体を無理やり動かして右手を振り下ろした


 もはや踏み込む体力すらないケンは、それでも動きを止めずに拳を振るい、あまりにも弱々しいその拳は立体影の左胸、丁度心臓がある位置に当たった



 「ッ!‥‥ここだあ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その瞬間、ケンは残りの力を全てを使い動き出す



 あったのだ

 

 自分が探し求めていた立体影の弱点が、その左胸に

 



 ドス



 ケンの右手に握られたナイフが立体影の左胸の奥にあった、何か硬いものを切り裂いた


 そのナイフはケンがあの洞穴の中にあったリュックサックから持ってきた物だった



 「ハァ‥‥ハァ‥‥」


 薄暗い森の中、ケンの荒い呼吸音が響き渡る


 

 「ここが‥‥お前の、急所なんだな?」



 返答はないが、しかし、ケンには確信があった


 ずっと攻撃し続けた相手の僅かな反応のズレや違和感、殴った時の感触、によってケンは立体影の弱点を見破ったのだ


 それは、長年空手を続けていたケンだからこそ出来た芸当だった




 ピシッ‥ピシッ‥


 ナイフの突き刺さった所から立体影の体が崩れ始めたその時、体中のひびから墨汁のような液体があふれ出し、津波の様に周りを飲み込んでいく




 「ッ‥!」


 当然、すぐ側にいたケンはその濁流に飲み込まれてしまい、頭を何かにぶつけて意識を失った

 

 

 

 










 地面に横たわるケンを月明かりが照らす

 

 化け物達は、気を失っているケンを襲わず、遠くから眺めている


 普段は暴れている夜行性の化け物達も、この夜だけは息を潜め、静かにしていた


 いくつもの小さな光がケンを包みこみ、美しく彩っている


 

 それはまるで、この魔の森がケンという、新しくうまれた化け物を祝福しているかの様だった

 




 


 

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