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世界が奏でる鎮魂歌  作者: もやパン
第一章 いざ異世界へ
4/9

第3話、遠い記憶の中に

二話の最後に登場した赤目のキメラが、一話の最初のキメラで、二話の最後が一話の最初に繋がってると言う感じでした

 分かりにくくてスイマセンm(_ _)m


 第三話目どうぞ

≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒≒



 「うっ…………ここは…」


 体中に走る痛みでケンは目を覚ました


 「そう…だ… たしかリュウジ達を追いかけて落ちた先であの赤目のキメラにやられて崖から落ちたはず…」


 自分に何があったのか思い出しつつ、ケンは辺りを見回すと、そこは巨体な蜘蛛の巣の上だった


 蜘蛛の巣で人の体重に耐えられるものなのか?と思ったが、糸はロープの様に太い上、木々の間に巨体な蜘蛛の巣が幾つもの張り巡らされていたらしく、それらが衝撃を吸収してくれたらしい

 

「しかしそうなると、ここが崖の底なのか?」


 上を見上げれば目測で高さ200m以上はあるであろう崖が2km程先にあった

 

 「我ながらよくあの高さから落ちて助かったもんだな… 体中痛ぇけど」


 あばら骨が二、三本折れていて体中に打撲傷があったが、幾らクッションがあっても高さ200mから落下して骨折と打撲傷で済んでいる事は奇跡、と言うよりも異常だった〔ちなみにあばら骨の骨折はキメラの一撃が主な原因だったり〕

 

 (それにしてもここは一体何処なんだ?キメラなんて空想の世界の中の存在だし、こんなでかい蜘蛛の巣を張れる蜘蛛なんて聞いた事もない。……いや、悩んでてもしょうが無いか。ここが何処であれ死ぬわけにはいかないし、まずは安全そうな場所を探そう)


 何食わぬ顔で居座っていたが、今ケンが居る場所は蜘蛛の巣の上なのだ


 このままここに居れば巣の主が来るかも知れないと考え、ケンは巣にくっついている体を懸命に動かすが思ったよりも粘着力が強く、着ていた上着を脱ぐことで何とか脱出することが出来た


 

 地面に降りて改めて周りを見てみるとそこはまるで樹海の様で、見たことも無い植物があちらこちらに生えていた

 と言うよりも、見たことも無い植物しか生えていなかった


 (あんなキメラが居るような場所だし、十分に注意して進もう)







 歩き初めて数時間、ケンは息を潜めて身を隠していた


 (ヤバいな、あれって俗に言うオーガって奴だよな) 


 3m近い身長、赤銅色の肌、ねじ曲がった2本の角を持つ人型の化け物はアニメなどで見るオーガに似ていた


 (威圧感が半端じゃない…あのキメラ程とはいかないけど、アイツも十分な化けも…!!)


 ケンが横に飛び退いた瞬間、先程までケンが居た場所が爆ぜた

 

 「おいおい、今度は熊の化け物かよ」


 そこには緑色の毛が全身を覆う四つ腕の熊がいた


 「腕が四本あるなんて反則だろ…」


 (今の音でオーガモドキがこっちに気付いちまったし、どうする?)


 相手は3mの巨大なオーガモドキと、腕が四本ある緑色の熊(以下略 緑熊)

 対して此方は負傷した只の人間

 明らかに勝ち目は無かった


 「うおっ!」

 

 オーガモドキの居る方向から大岩が飛んでくる

 急いで岩を回避したケンの先には緑熊が待ち構えていた


 「連携プレーとかありかよっ!?」


 とっさに身を躱すが完全には避けきれず、鋭い爪で右頬と右肩を傷つけられてしまう


 しかし痛みで立ち止まっている暇など無く、緑熊の腕がケンを仕留めようと振るわれる

 

 それをスライディングで避けたケンは、いきなり方向転換をしてオーガモドキに向かって走って行く


 (見たところあのオーガモドキと緑熊の強さは五分と五分。あの二体をぶつければ俺が逃げられる程度の隙は出来るはず!)


 敵が自ら自分の方に向かってくるのに一瞬戸惑うオーガモドキだが、直ぐさまその大きな拳で殴りつけてきた


 (ここだっ!)


 前からはオーガモドキの拳が、後ろからは緑熊の爪がケンの体に当たる瞬間、ケンは横に飛んだ


 古典的な方法だったが見事に決まり、オーガモドキの拳は緑熊の腹へ、緑熊の爪はオーガモドキの胸を切り裂いていた


 (今のうちに!)


 脇腹が痛むが、それを我慢しつつ二体の化け物から距離を取るためにケンは必死に走る

 

 その時、影がケンを覆った 


 見上げて見ればそこにはもう一体のオーガモドキが拳を振り上げていた


 「グハッ」


 とっさにガードするも、まるでハンマーで殴りつけられたかの様な衝撃に一瞬意識が遠くなる


 「クソが!」


 折れた左腕を抱えながら必死に木が密集している方へ走りだす


 幸いな事にオーガモドキは足が余り速くないようで、木が密集している所では小回りの利くケンの方が走りやすく、少しずつオーガモドキとの距離は離れていった


 


 

 「はぁ、はぁ、はぁ、、、」


 走り始めて十数分、ケンが後ろを振り向くと既にオーガモドキ達は見えなくなっていた


 折れた左腕と脇腹、頬と肩の傷の痛みを我慢しつつ、地面に座り込んで木に寄りかかると、ケンは先程の事を思い出して生き延びた事を実感するが、同時にこの場所の恐ろしさを思い知る


 (あのオーガモドキも緑熊も途轍もない強さだった… しかも走って逃げる途中に何体か似たような化け物を見かけたって事は、あのレベルの強さがこの場所の基準なのか? そうだとしたら絶対に見つからない様にしないと、命が幾つあっても足りないな………………………………)


 



 (………果たして本当に俺は生きてここから出られるのか?)





 左腕と脇腹はズキズキと痛み、右頬と右肩の傷からは血が流れている

 周りは不気味なほど静かで仄かに薄暗く寒い

 

 この時ケンは子供の頃、迷子になったときに感じた事のある孤独感と恐怖を思い出す


 自分が何処に居るのか分からず、周りは化け物だらけで油断すればいつ殺されるか分からない、そんな場所にたった一人でいることは想像を絶するほどに辛く、恐ろしい事だった

 

 例えば目隠しをされた状態で額に銃口を押しつけられ、何時間も死の恐怖を与え続けられるのと同じように、

 もしくは、真っ暗な部屋に一人閉じ込められた子供が親の名を呼びながら泣いてしまうのと同じように


 人というのは死の恐怖と、一人でいる孤独感に弱い生き物なのだ

 

 ケンが蜘蛛の巣の上で目覚めてから僅か

数時間しかたっていなかったが、ケンの心はその数時間だけで挫けそうになっていた


 ここから脱出する方法や、この場所の事を必死に考えて恐怖から目を逸らしていたが、それももう限界だった

 

 家に帰えりたかった。

 いつもの三人でバカみたいな事を話して笑いたかった。

 両親に会いたかった。

 死にたくなかった。

 いつもの日常に戻りたかった。


 そんな考えがケンの頭の中に浮かんでくるが、

 



 ───後悔しても、もう遅い───




 誰がそう言った様な気がした


 そして、全身傷だらけになった緑熊が姿を現す

 その目は殺意に溢れ、今にもケンを殺そうとしていた


 「ここまで…追ってきたのかよ」


 ケンにはもう立ち上がるだけの気力が残っていない


 死ぬのは怖かったが、このまま死の恐怖と孤独感に晒される位なら、いっそここで死んでしまいたいと思った

 ケンは生きるのを諦めた


 緑熊は腕を持ち上げ、振り下ろす






 ケンは走馬灯を見た

 

 子供の頃、友達と遊んだ記憶

 小学生の頃、親に怒られた記憶

 中学生の頃、好きな子に告白して振られた記憶

 高校入試の合格発表で、いつもの三人組が全員に受かって大喜びした記憶

 

 そして、いつだか分からないほど昔に迷子になって森の中で出会った、一頭の白い喋る鹿の事を


 白い鹿は言っていた

『人の子よ…私がいつでも貴方の側に居てあげましょう。だから貴方は決して一人ではありませんよ。』


 夢だったのかも知れない

 そもそも何故、白い鹿にそんなことを言われたのか思い出せなかった


 それでも、白い鹿に言われたことを思い出したとき、その言葉がケンの心に大きく響く


 今、周りに白い鹿はいないが、ケンの心の内に白い鹿はいた


 それだけで孤独感が満たされる様な気がして、ケンは再び動き出した

 

 生きてこの場所から出るために


 



 ────緑熊は見た、絶望に染まっていた獲物の目に光が蘇ったのを────



 

 緑熊の爪は直ぐ目の前に迫っていたので、すぐさまケンは横に跳ぶ


 爪の1本がケンの左腕を深く傷つけていくが、気にせず近くに落ちている木の枝を拾う


 蜘蛛の巣から降りる際に気がついたが、この場所に生えている木はとてつもなく堅いのだ

 それこそ武器として使えるほどに


 二本目の腕が迫ってくるが空手で鍛えた持ち前の反射神経をフル作動してそれを回避しながら、一歩前に踏み出す

 三本目の腕が振りかぶられた頃にはもう既に、緑熊はケンの攻撃の間合いに入っていた

 

 上から振り下ろされる三本目の腕はケンを捕らえる事が出来ず、ただ地面を叩き、ケンは飛び上がって緑熊の目に尖った木の枝を突き刺すと、それを力の限り押し込むが、緑熊の一撃をモロに受けてふき飛ばされてしまう


 「ゴホッゴホッ やっぱ1回じゃ死なないか。 なら、死ぬまでやってやる!」


 幸い武器となる木の枝はそこら中に落ちているので、そのうちの1本を拾うと再び緑熊に向かって走りだす

 

 四方八方から襲いかかる腕の攻撃を全ていなし、躱す事で致命傷を避けていく


 緑熊に隙が出来た瞬間、無防備な傷付いた腹に回し蹴りを蹴り、一瞬怯んだ時を見逃さず反対側の目にもう1本の木の枝を突き刺して、今度は先程よりも強い力で押し込む


 緑熊が痛みで暴れる中、必死にしがみついて枝を押し込んでいくと不意に緑熊が体を震わせ、地面に沈んだ

 

 木の枝が脳まで貫いた結果、緑熊が力尽きたのだ


 「はぁ、はぁ……………俺の、力じゃまともにお前を倒す事は、出来無かった、からな」


 傷だらけになりながらも、ケンはとうとう緑熊に勝利したのだった

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