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恋の終わるとき  作者: メリー
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「それで、そのパーティーは柏木さんとカップリングしたんですか?」

「そうなの。3度目の正直は起きなかった」


 冗談めかして言って、玲奈と顔を見合わせて笑い合う。

 玲奈と千咲、恒例の愚痴大会である。


「玲奈ちゃん、このアヒージョ頼もう」

「あっ、いいですね。この生ハム盛り合わせもいいですか?」

「いいね、生ハム‼︎好き‼︎」


 一通りの報告が済んだところで、一度空になったテーブルを補充する。手元で意味なくスマホをいじり回しながら、千咲は玲奈とアタマを付き合わせながらメニューを覗き込んだ。


「それで、3人の内だったら誰なんですか?…なんかがっつり系も行きたいですね」

「それがさあ、誰でもいいんだよねえ。もっと言えば誰でもヤダ⁇…これは?シェフ厳選豚肉のグリル」

「じゃあこれって決め手はないかんじなんですね。…豚肉‼︎牛じゃなくて⁇」

「一緒にいるのは楽しいけど、その先を想像できないっていうか。…牛もあるけど、厳選とか書いてあるのは豚だよ」

「それってまだ知り合ったばっかりだからじゃないですか?…じゃあ豚で‼︎」

「そうかもしれないけどさあ…とりあえず後はまた食べてからにする?わたしあとミモザで」

「付き合っていくうちに見えてきますよ、きっと!あっ、すみませーん‼︎」


 ―――そう思えるのは玲奈ちゃんが若いからだよ。


 これとこれと…と注文してくれる玲奈を見ながら、千咲は言いかけた言葉を飲み込んだ。

 こんな事言っても、「そんなことないですよー、千咲さん若く見えるじゃないですか!」とか言うような事を言われるだけである。玲奈に気を遣わせるだけで、なんの意味もない。それに、年齢は数字なのだ。見えるとか見えないとかは関係ない。


 電源ボタンを押して待ち受け画面の天使をつけたり消したりしながら、千咲はグラスに口をつけた。


「ただ恋人が欲しいならそれでいいけどさ。わたしは結婚したいんだよ‼︎」

「ずっと言ってますもんね。」

「そう。色々資格もあるし、職もあるし、まあ一人でも生きていけるだろうと思うけどさ。色んな生き方の中でわたしは結婚を選びたいの」

「聞こうと思ってたんですけど、それってなんでですか?」

「んー?」


 届いた生ハムを選んで口に入れながら、千咲は笑った。


「だって、ありきたりな言い方だけど結婚って奇跡じゃない?」

「奇跡」

「そう。70億人の人がいる中で出会って、お互いに好きだなーって思って。それでお互いに結婚したいって思ったタイミングが一致して、それで結婚するでしょ。」

「お見合いとか、そう言うのもあるじゃないですか。作為的っていうか。」

「作為的でもなんでもさ、結婚したいまさにその時にこの人ならいいかも、って人に出会えるのはすごいと思うんだよ」


 ふうん、とアヒージョをつまむ玲奈は、いまいち納得がいかないようだった。


「結婚するってだけなら勢いとか、まあ相手は誰でもいいとかってすればできると思うけどね、結婚ってその瞬間だけじゃないじゃん。他人だった人たちが、一緒に同じ時を重ねていくのって、そうして一緒に老ていくのってすごいと思わない?選ぼうと思えば離婚っていう終わりにする選択もできるのに、それは選ばないで、続けていけるのって、わたしは奇跡だと思うんだよねえ」


 小さく首を傾げた千咲に、玲奈は


「千咲さんってロマンチスト」


 といたずらっぽく微笑んだ。



 ********



「ただいまあ…っと」


 なんか語っちゃったな、と恥ずかしい気持ちになりながら、千咲は小さな声で帰宅を告げた。

 家の中は真っ暗で、両親はもう眠っているらしい。

 スマホを手の中で投げながら、リビングを覗くと、弟の咲太(しょうた)がテレビを見ていた。


「うわ、なんで電気つけないの?」

「もう寝るから」


 言いながら咲太はテレビを消してしまい、リビングが真っ暗になった。千咲は慌ててスマホの画面で部屋を照らすと、電気をつける。


「ちょっと、もう!わたしはまだいるんですけど」

「ちえさあ、彼氏から連絡でもくんの?」


 リビングに入る千咲と入れ替わりで出ていくかと思った咲太は、扉のところで振り返って首を傾げた。


「はあ?来ないけど。だいたいもう別れたし」

「じゃあ新しい彼氏候補とか?」

「え、急になに?」


「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って」


「…‼︎」


 思いもよらない事を言われて、目を見開いた千咲だが、咲太は「気のせいかな」などと呟きながら今度こそリビングを出て行った。


 一人残された千咲は、ソファに座り込んでここ最近の自分の行動を思い返す。


 仕事中も。

 通勤中も。

 テレビを見ている時も。

 婚活パーティーに参加しているときも。

 玲奈とのご飯中も。


 思い返せば確かにスマホを手に持っていた。


「だって、」


 ―――俊からの連絡、見逃さないようにしなくちゃ。


「あ……なに言ってるの、わたし」


 無意識に考えたことに、千咲は自分でびっくりした。


 俊とは終わったのだ。

 もうずっと前に。


 いくら待っても、()()()()()()()()


 ふいに、千咲の頬を涙が滑り落ちた。


 もう待っていても俊が千咲に連絡することはない。

 そう気がついて、すとん、となにかが胸に落ちてきた。


 それが、俊との別れを千咲が初めて実感した時だった。


「なんだ、わたし…気づくの遅すぎ」


 ぎゅっと握りしめていたスマホを開いて、写真のアルバムを開く。


 はじめてのデート。

 温泉旅行。

 ひまわりばたけ。

 花火大会。

 俊の誕生日。

 クリスマス。


 忙しかった俊としたデートは、そんなに多くない。

 デート中も、半分は仕事の電話をしていた。


 でも、それでも千咲にとってかけがえのない日々だった。

 彼と時を紡ぎたいと思って、作り上げた大切な思い出だ。


「……ちゃんと泣けてよかった」


 ずっと見ないふりをして、消せなかった写真を、連絡先を削除する。


 苦しいけど、これでいい。

 これは、千咲が俊を好きだった証拠だから。


 思い出の消えたスマホを抱いて、千咲は一人でしばらく泣くことにした。



 10月のはじめ、別れ話をしたひと月越しに、

 千咲の信じた運命の恋は終わった。


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