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「いいんですよ、そんな俺なんか立って迎えなくたって‼︎」
「あははははははは…」
1番 牧田慎二、一期一会の婚活パーティーで、3度目の邂逅である。
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再び婚活パーティーに参加するようになって早1ヶ月。週に一度の間隔で参加し、カップリングした人は2人。
だれがいいとかは特にない。誰も彼も会っている時は楽しいが、特に会いたいとは思わない。
―――ぜんっぜん、これ!って人がいない‼︎
別れたばかりだから?
俊と出会ったのだって、前の彼と別れた1週間後くらいだった。
俊が忘れられないから?
この間思い出と決別するため、俊にもらったものを捨てようと思ったら、腹立たしいことに財布しかなかった。
もう恋したくないから?
―――それは、あるかも
自問自答しながら思い当たった答えに、千咲はため息をついた。
婚活パーティーに参加するようになってもう5年。途中参加してない時期も多々あるが、5年も婚活をしていればもうそろそろゴールにたどり着いてもいいのではないだろうか。
よく、結婚はゴールではないというが、千咲にとって結婚は間違いなくゴールだった。
それは、中学生から高校生になるように、大学生から社会人になるように、ステージが切り替わると言う意味だ。
中学生の時、いい高校に入って、望む生活ができるように努力した。
大学生の時、就職に困らないように資格を取り、いい会社で働けるように努力した。
だから独身の今、結婚できるようにあらゆる努力をするのだ。
結婚後は、またステージが切り替わって、いい結婚生活、家庭が築けるように努力する。それは、もしかしたら次は母になってステージが変わるかもしれないし、老後また変わるかもしれない。
一つ一つ、今できる努力をしてステップアップしていく。それが千咲にとっての人生だ。
なのに、今現在千咲は5年も足踏みしてる状態である。
―――これはあれか?もっといい人がいるのでは、とキリがなくなる婚活地獄というやつか?
平日と週末と、詰め込まれたデートの予定に、千咲は膝の上のスマホを握りしめて憂鬱なため息をついた。
これ以上は、精神衛生的にも、お財布事情的にもよくない。今日で終わりにする‼︎と決意しての、今回のパーティーである。
「佐藤さんって、このパーティー以外はやってないんですか?マッチングアプリとか」
「あー、街コンとかは行ったことありますけど、今はここのパーティーだけですね。街コン、ちょっと怖くて」
「へえ〜。俺、マッチングアプリもやってるんですけど、前にアプリで写真見た人とパーティーで会ったことあって」
「えっ、そんなことあるんですか?」
「なんかもう写真凄い盛ってて。あるじゃないですか、なんか加工する」
「あー‼︎プリクラみたいな。ありますね、全然別人になっちゃうやつ」
「そうなんですよ。だから実際どんな感じなんだろーって思ってたら、写真のまんまなんですよ‼︎」
「ええっ、そうなんですか⁉︎全然違う話はよくありますけど同じって…すごい」
「そうなんですよ。だからプリクラとかも信じられる時もあるんだなって」
「へえ〜‼︎そうなんですねぇ…」
―――もう意味がわからない。
千咲は口元がひきつるのを感じた。
牧田は2度目の時(千咲は1度目を覚えていないが)に会ってから、千咲の事も自分の事も話さない。話すことと言えばお互いの婚活事情についてである。
そのくせ、毎回いいなアピールはしてくる。
最初は全然タイプじゃないと思ったが、なんかもうこの人でいいんじゃないか、逆に運命なんじゃないかという気がしてきている千咲である。
「じゃ、ありがとうございましたー」
「こちらこそありがとうございました」
―――3度目の正直って言うし、今日はもう牧田さんに希望だそうかなー。なんかもう終わりにしたいよ。
手元のスマホをハンカチにくるんで隠したあと、千咲は次の人を迎えるために顔を上げた。
―――んん?
見たことがある。
千咲の脳裏に前々回のパーティーの記憶が蘇ってきた。
―――2番 柏木圭介。前々回唯一わたしにいいなアピールしなかった男…‼︎
そのパーティーはいいかな、と、思う相手が2人いた。その内の一人が柏木だった。
いいなアピールの結果を見て、柏木にカップル希望を出そうと思っていたが、柏木からはアピールがなかったのだ。その日はほかの人たちからは全員アピールをもらえた嘘みたいな日だったのに。
「はじめまして、6番の佐藤です」
「どうも、2番の柏木です」
「柏木さん、前もこのパーティーでお会いしませんでした?」
「え、ほんと?僕ですか?」
「えー、たぶん。なんか見たことあるなって。プロフィールの内容とかも…でも気のせいだったらごめんなさい」
「あ、いや、たぶん会ってるんですよ。結構参加してますし」
―――微塵も記憶にないとか…わたしに全然興味なしかよ!失礼な!
自分のことは完全に棚に上げている千咲である。