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恋の終わるとき  作者: メリー
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初投稿で、初書き小説です。

虚実ない交ぜフィクション。メリーの実体験を書きました。

 

「…で、今のままじゃ千咲(ちえみ)に悪いって言うか…千咲のためにならないって言うか、申し訳ないなって」


 ベッドにうつ伏せに寝転んだままスマホを耳に当てていた佐藤千咲(さとうちえみ)は、漏れかけたため息を飲み込んで寝返りを打った。

 散々取り繕ってきたのに、決定打は千咲が打たなくてはいけないらしい。


「わたしのことはわたしが考えるからいいよ。(しゅん)がどうしたいのか、それが知りたい」


 8月の終わり、最後の恋になると信じていた恋が、終わった瞬間である。



 ********



 ―――と、言うのは昨夜の話だ。


「佐藤さん、会議の資料できそう?」

「はい、あと5分もあれば」

「ありがとう。それ終わったら上がっていいからね」


 ありがとうございます、と言いながらいつのまにか机の端から落ちそうだったスマホをポケットに戻して、千咲はパソコンに向き直った。

 失恋したって朝は来る。例えそれが、これこそが最後の恋だ、このまま結婚するんだと信じていた千咲にとっての運命の恋でも。

 朝は普通にやってくるし、朝が来たら社会人である千咲は普通に出社して、担当している業務にとりくみ、なんならちょっぴり手のかかる後輩のフォローまでする。

 心でどんなに泣いていても、それをおくびにも出さないのが大人の女なのだ。


「……なんつって」

「ん?どうかした?」

「いえいえなんにも。お先に失礼します」


 ―――おかしい。


 帰り支度をして、スマホ片手に会社を出ながら、千咲は胸中で呟いた。千咲の心の中は、驚くほど昨日の帰宅途中と変わらなかった。


 最後だと思っていた恋が終わったのに。

 俊と結婚するんだと信じていたのに。


 なのに、プライベートな時間になっても涙の一つも込み上げては来ない。

 友だちに連絡して愚痴りたくもならなけりゃ、失恋ソングで自分を慰める必要も感じない。

 流石に思い出がたっぷり詰まった写真のフォルダを見たいとは思わないが、俊と過ごしたあれこれを思い出すどころか、千咲は明日の仕事の段取りを考えてたりした。


「…こんなもんかあ」


 俊と付き合った期間は1年半足らず。とは言え、仕事人だった俊と頻繁にデートできたのは最初の2ヵ月くらいで、あとは一月に一度会えるかどうか。ここ最近なんてほとんど会っていなかった。


 デートに誘ってもなかなかいい返事をしてくれなくなったのが4ヶ月前。

 毎日来ていた連絡が来なくなったのが3ヶ月前。

 連絡してもなかなか返事が来なくなったのが先月。


 終わりの気配はひしひしと感じていた。

 もうすっかり、彼氏なんていないようなもんだったのだ。

 失恋して変わってしまうような生活は少なくとも3ヶ月前になくなっていた。


 ―――そうだよ、これが3ヶ月前だったら。


 毎日来ていた連絡がこない、とスマホを胸に抱いて嘆いただろうか。

 別れたくないよ、と縋れただろうか。


 実際は嘆くどころか「終わりにしたいの?待ってたら変わるの?」などと啖呵を切って、「じゃあ終わりにしよう、仕事に夢中になりすぎないで、身体大事にしてね。忙しいだろうからもう切るよ」などと宣った挙句、自分から電話を切った。


 ―――だって、ほんとはもう無理だってよくわかってた。


 もしかしたら、1年記念日をドタキャンされた5ヶ月前から。

 もしかしたら、誕生日を忘れられた6ヶ月前から。


 恋の終わりは静かに忍び寄っていたし、千咲から終わりを切り出そうと思った事も何度もあった。


 それでも好きだったから、自分から終わりにするのは嫌だった。

 仕事が忙しいと言われればそれを信じていたし、返事が一言でもくればまだ続けられると自分を奮い立たせた。


「また会えないの?」と言う代わりにエステやジムに通った。

「さみしいよ」と言う代わりに料理教室に通った。

「もう少し連絡してほしいな」と言う代わりに資格の勉強をした。

 縁結びで有名な神社にお参りをし、占いで今後の運勢を聞いた。パワーストーンのブレスレットは、お風呂の中以外肌身離さずつけた。


 でも、久しぶりに連絡をして、俊から「電話していい?」と返事が来た時。

嬉しかった反面、その時が来たのだと悟っていた。


 仕事が落ち着けば、わがまま言わず今を乗り越えれば、わたしがもっと努力すれば―――


 そうして見ないフリをしてつむいだ千咲の恋は、昨夜電話一つであっけなく終わったのである。

 千咲の心に、なんの穴も開けないままに。


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