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Act,08―初めの初めの第一歩―

「理事長、言われていたもの、お調べしてきました」

「おぉ、どうだった。ま、彼なら別に何ら問題もないだろ」

「いや、それが」


入ってきた黒いスーツを着た男。サングラスをかけて、いかにもあやしく、オールバックにされた髪の毛が、後ろで一つにまとめられている。


「……どういうことだ、持田」

「……見ていただければ、わかるかと」


差し出された資料の一番上には、“城嶋 空 資料”と書かれていた。


理事長室の空気は、ピン、と張り詰めていた――









歩いている廊下で、いつも注目されているのは空である。

そして、今日はまた、一段と注目されていた。入学してからというもの、彼に対するネタはつきないもので、彼の噂はイロイロ良い意味でも悪い意味でも何個も何個も尾ひれとして噂が出回っていた。だがしかし、今回限りは良い噂にも少し疑いが出てきた。


なぜなら、彼には、入る事務所が一切ないからである。


それも勝負宣言されてから一週間、彼が動く様子が一切なく、痺れを切らした私が、今、放課後直談判中、そんなところである。


「……空っ!! 聞いてるの?!」


先ほどから説得していてもこの有様だ。彼は私の話を耳に挟もうという気は一切ないらしく、口笛を吹きながら、周りの人間の注目を一心に浴びながら、颯爽と歩いていく。


「空ったらっ!!」


つかんだ制服。彼は、立ち止ってくれはしたが、後ろを振り返ってくれることはなかった。その状態で止まってしまった。


「……どうすんのさっ!! 一年間だよ?! 一応、あいつらだって売れかけのアイドルだし、これからあがるコト間違いなしといわれてる実力派シンガーでもあるんだからっ! 事務所も入らないで、これからどうするの? 何処かあてでもあるの?」

「……焦りすぎだよ、那智は」


はぁっとため息をついた、彼がようやく後ろを振り返ったが、やはり帰ってきた答えは変わらなく、一層私の反感を買ったことは間違いなかった。が、彼はそんな気もしらず、眠たそうに頭を掻きながら近くの窓のサッシにもたれかかった。


「焦りすぎって!! 後一年だよ、あと、一年っ!! 365日!!」

「たかが一年、されど一年って言うじゃんか。それに芸能界って言う世界はさ、2、3ヶ月で消えてく奴等が数え切れないほどいる」

「だからこそでしょうっ!! なに、空は一発屋にでもなりたいわけ?」

「一発屋、か。それにでもなれたらいいよな」

「ちょっ!! それにもなれなかったら、空、退学だよっ?!」


言葉を発するたび、言葉を聞くたび、彼の顔は沈み、そして声は低くなっていく。何故かはしらない。だけれども、彼の覆うオーラが確実にかわっていったコトは確かで、そしてそれに押されそうな自分がいることも確かだった。


「退学ねぇ……面白いんじゃないの、そういう世界も」

「ちょっ!! 僕は空の事を心配してっ!!」

「まだ言うの?」


そういって彼は、私の事をにらみ上げた。

な、何。


「……ちょっと、お話聞いてくれるかな、僕?」


クスッと笑うと、彼は、窓枠にもたれかかるのをやめ、此方に一歩踏み出した。


思わず足が一歩下がって目の前の人間が誰かわからなくて、竦んだ。


……空じゃ、ない。


「もしものお話をするよ?」


問いかけ方はまるで小さい小さい子供に話しかけるよう。


だけれども、オーラ、声、顔。全てが、脅迫しているようにしか見えなかった。


「も、もしも?」


負けじという彼に、私は体は引いていった。だけれども、幅の小さい廊下である。壁に突き当たるのは当たり前で、彼が、私を捕らえるのは本当に容易かった。


「もしも――もしも、俺がね、大きな大きな爆弾を抱えていたらどうする? 日本中、いや世界中を爆発させるような」

「……は?」

「例が悪かったかな? 物分りの悪い君にはちょっと、重すぎたかい? なら、もっと良い例をあげよう」


壁に背中をぺったりとつけて、頭の両側に、彼の手があって、逃げようにも逃げられない体勢。完全に目は彼の深い深い青色に捕らえられていた。そう、大きな獣が小さいえさとなるような動物を目の前にするかのように。


「……俺達はうまれていなかったけど、あの理事長を持っている君なら知っているんじゃない?」


あの、理事長なら――


「……そう、たとえば、俺が例の“紅桜事件”の主犯だった、とすれば?」

「い、生きてないんだからありえないでしょうっっ!!」

「……けど、ありえない、といわれた人が、犯人だったことぐらい、知ってるんじゃない?」

「っっ……」



のどに詰まった、言葉をもう、吐き出すことは出来ず、彼から無理やり視線をそらすことしか出来なかった。彼は、それでも私を解放してくれるわけではなく、最後の一言を放つ。


「俺がもしも(・・・)そういう人間だったら……?」


最後に細められた目を横目で見たけれど、本当に怖かった。


彼は、そう言い放つと私をようやく解放してくれたものの、私自身、何がなんだがわからなくて、その場に座り込んだ。怖くて、怖くて仕方がなかったのだ。


「……ごめんよ。なっちを傷つけたかった訳じゃないけど、しつこすぎるのも余り好きじゃないんだ」


そういうと、彼はスッとその場を歩き出した。


そう、まるで何もなかったかのよう、いつものように。



どういうことだ?



あの事件と彼が何か関係あるとでも?


だけれども彼はもしも、と強調した。だから関係ない、と仮定しよう。だったら、何だ。彼があそこまでこだわる理由はっ……何なんだ、一体。



私は、もう、次の瞬間には走り出していた。もちろん、一人の下へ。


多分、あの人なら、というあてがあったから――




















「……はぁ。やっちゃった」


青い空を見つめて、ただため息をついた。草むらに寝転んで上に見えるのは空だけで、虚空を見つめていた。何もない青い空は本当に物悲しくて。反対に、いらついてくる。バカをした。久しぶりに平常心でいられなくなった。きっと、彼なら、こんな醜態は見せないのだろう。彼が怒ったところなど一切みたことがなかった。だからと言って、怒らない人間はいない。どんな形であろうと、彼の起こり方には似つかないことは確かだったんだろうな。


「はぁぁぁっ!」


もう一度ついたため息と同時に、何か近くでゆれる音を聞いた。


「誰ー?」


目を閉じて、大声で言った。その音はとどまることを知らずに、こちらへ向かってきた。


「何してんだ、お前」

「なんだー、新羅かー」


声ですぐわかったその人物に、ただ、幻滅する。

もし、この目をあけて、そこに居るのが、那智あればよかったのに、なっちが良かった。


まぁ、そんなこと、言うつもりはないんだけど。


「なんだって何だよ、敵相手に!! 俺じゃ悪ぃかっ!」

「悪い悪い! っていうか、敵って言うけど……別に俺、敵とも見られてないんじゃないのー?」


それは前々から思っていたことで、多分あっているはずだ。

別に俺が割るんじゃないはず。

別に、爆弾を抱えているわけじゃない。

俺が抱えたわけじゃない。


ただ、俺の後についてくる変な足音が、ある。


新羅は案の定、図星だったのか、少し目を見開いてから、頷いて言った。


「あぁ、見てねぇ」

「でしょー」


ほらほら、敵とも見られてないよー、俺。なさけねぇなぁ。

何もやってなかったわけじゃない。それなりにイロイロ頑張ったんだ。親の力なんて絶対借りたくなかったし、それこそ、なっちの力なんてもっと借りたくなかった。彼女が焦っていたわけではない。自分自身が本当に焦っていたのかもしれない。……ここをやめる、ということではなくて、芸能人になる、ということに。


「けどお前さ、本気になりゃ、話は違うだろ」


そういう新羅が、横に座って、俺の顔をじぃっと見てくる彼。相変わらず彼の目、っていつもギラギラしてる。そうそう、獣みたいな。スターみたいな、キラキラじゃなくて、ギラギラ、だ。俺は、訳がわからないという顔で、新羅を見返す。


「何言ってんだー? 俺はいつでも本気よー」


そういってのけるけれど、彼は、俺の奥を見ようと俺の目をまっすぐ見つめてた。

けど、俺の何が見えるって言うんだろ。


「お前、本気なんて出してない」

「……そう、君にはそう写る?」


にこっと笑って、言って、俺は、彼を押しのけて、起き上がった。



これでも必死だよ。

人生生き抜くために、なんていわないけど


「俺はいつでも本気だよ?」


そういっても、彼は信じていない。というか、信じない。


「ま、言っても無駄か。けど、イジメをやってる奴にそんなこと、言われたかないなー。イジメってさ、ただのひがみだと思わない?」


ハハッと笑う。奴は、悔しそうに俺を見た。奴はいつもそう、俺を最後に見る目は、悔しくて悔しくてたまらない顔をしている。実力では勝っているけれど、彼は、いつも言葉で負けるから。


「俺はねー、結構本気だしてるよ? まぁ、こんなんんだから、本気だとは思われないのかなぁー?」


ははっと笑った。


青空がどこまでも青くて、どこまでも遠くいける気がしたから、歩き出した。まだ、もう少し俺にも明るい未来があるのかなぁなんて、考えて。


「なぁっ!!」

「何ー?」


歩きながら聞く彼の声はいつもと同じ、切羽詰まってる。


「……いや、いい」


だが、彼はいつもみたく、喧嘩は売ってこず、また、逃げていた。

彼は本当最後の一押しが足りない気がする。どんなときでも。


いつだってそう、俺だってそう。


逃げて逃げてばかりいた。だけれども、この学校に来て、逃げないと決めたから。

だから、必死に走っている最中に、なっちに怒鳴られたら少々傷ついたんだな。多分。


やっていたことは、正統じゃないと思う。



だけどいつかはこれをしないといけない日が来る、そう思えた。


まずは、ここからだと思う。



――ピンポンパンポーン



鳴り響く音。さて、呼び出しかな?



#高校一年 芸能科 城嶋 空。今すぐ、理事長室へ#


よしきた。


まずはこれが初めの初めの第一歩!!
















もちろん、その理事長室に、すでに那智がいたことなど、知らずに


俺は走り出していた。















――初めの初めの第一歩――終了

ちなみに、いくつかの話を昨日編集しなおしました。多少、読んでおいたほうが後々わかりやすいかな、と思う部分があるので、今までに読んでくださった方々は、そこも読んでいただければ幸いです。

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