Act,07―勝負!!―
「……“無敵素敵ニューヒーロー空”……ねぇ」
思わず溜め息をつく。何でこんなことになっちゃうかなぁ。ここの新聞部のネタ、面白いって聞いてたから凄く楽しみにしていたのに。最初に来た記事のトップが自分、その上ニューヒーロー……面白いも何もないだろう。
「自分の記事、そんなに嫌? ニューヒーロー」
「い・や」
ぶーっと膨れればば、那智が溜め息をついて斜め後ろの席に座りながらその新聞紙を音読しはじめた。
「“この学園に新星が現れた。相変わらずの行動をしでかす芸能科の人間に鞭を売ってくれたのは、高校一年生(♂)城島空、芸能科の編入生の一人である。話題の理事長の息子(こちらも同じく編入生)を、鉄パイプから殴られるところから救った。殴った人物は未だ不明だが、まぁ少しはびびって手出しはしなくなるだろう”だってさ。何であの場に居たのに殴った人物がわからないのか不思議だよね」
「まぁな」
「それも気に入らない?」
「真実をありのままに書くのが新聞記者だろうが」
「まぁねぇ」
溜め息しか出ないとはこういうことだろうな。なぜあの場に居合わせておいて、新羅の顔を見て居るはずなのに、こうやってあいつをかばうんだ? さらに言えば、この記事は自分よりの書き方をしている、その上、新羅をあまりよくは思っていないことがありありとわかるじゃないか。なのに……
「……父親、何か言ってなかった?」
「僕の?」
「なっち以外誰が居るのさ」
「そうだけどさ……」
しかめ面をすれば少し彼女は肩をすくめた。いつもと違って、俺の機嫌が悪いから余計だろう。
「……何も」
「……そっか」
溜め息をつけば、自分を心配そうに見てくる彼女。まぁ、そろそろ調子を戻すかな。皆に守られている王子様のおでましだろうから。
「……ぁ」
那智が後ろを振り向けば、また護衛達を引きつれた新羅の姿が。こちらをじいっとにらんできている。
「調子どー?」
「調子? てめぇのせいで最悪だよ」
「そりゃ良かった。皆のアイドル和成君が、調子悪いんなら、周りの護衛役も大変だな、王子様が弱っちぃから」
「てんめっっ!!」
「おぉっと、勝てないこと解ってて俺に楯突くのか?」
クスッと笑って一応身構えたが、相手は自分の言葉にひるんだのか、大きく音を立てながら自分の席に座った。何だ、面白くない。もっとやってくれればいいのに。
「……空、顔に出てる」
「あ、物足りないって言ってる? キュートだった?」
「キモかった」
「ひでっ!」
大きく打たれたフリをした。すると、ひどくキツい視線を感じた。何かと思えば目の前の王子様がこちらを睨みつけているではないか。あら、楽しいことで。
「何? 王子様」
「勝負、しろ」
「何で?」
楽しい楽しい展開じゃぁないか、王子様。そう言ってくれるのをどれだけ待っていたか。
「歌唱力」
「パス。俺が負けるの前提は嫌」
「はっ、逃げんのか?」
「あははっ!! 面白いことを言うね? 歌唱力なんて歌い方一つですべてが変わってくるジャンルだ。その上主催するのはそっちだし、あんたが勝つも負けるも自由に操作できる」
「そんなの一切なしだよ。俺だって卑怯なことは大っ嫌いだ」
「バカか、理由はそれだけじゃねぇよ」
「一応、アイドルだしそれなりの歌唱力を持ってるんだろう? 一般人素人の俺に勝てるわけがない」
「……それは俺を認めているのか?」
「ま、そういうことになるね。現実でしょう?」
相手は、少しだけ、首をひねる。そりゃそうだろう。今まで反抗してきた上、彼の身の上を一切知らないバカが、自分を認めるというのだ。イロイロ食い違っているとでも思うのが普通。だが、なっちや、周りの人間がしたい、守るのであれば、それなりの歌唱力があって当たり前だと、俺は思うのだ。
「もっとさ、俺にも勝てるチャンスが1%でもあるものにしようよ」
「歌唱力じゃぁ100%俺が勝つ、と?」
「あぁ、そうじゃないのか? 現役アイドル」
にこっと笑えば、相手は少しひるんで、腕を組んだ。良かった、奴は一応それなりに、物事を順序だてて考えてくれる奴である。これで強制的に歌唱力なんてこともありえなくもなかったから。
「……演技力?」
「それもそれだろ」
「じゃぁ何がいいんだよ」
「俺に選ばせる、とでも?」
「……歌唱力、演技力……。これら以外に芸能科に関するコトで戦える事なんてないだろ」
「……」
お前はバカか?
と凄く言いたくなった。今の時代、どんなものでも売れている。たとえば、芸人が書いたエッセイ、小説。芸能人のブログ、芸能人のグッズ、人気を集めるためのダイエットや、苦労事。
あとユーモアとか、イロイロあるのに、彼は真剣にこういうのだから、またまた面白いじゃないか。
「じゃぁさぁ、芸能界でどちらがどれだけ大きくなれるか、は?」
「それは誰が判断するんだ?」
「ここのクラスの奴でいいんじゃね?」
「……それなら1%でもあるとでも?」
「いや。俺にしたら1%しか、でしょ」
そう、これから明らかに伸びるアイドル歌手と、今から何もないところから伸びていく新人俳優。それならば、伸びるのは確実に、アイドル歌手、前者であるが――万が一、何かしらの出来事で悪い意味でもいい意味でもこちらが大きくなれば、素人からはじめた身である、大きくなるのも夢ではないのである。
「それはお前が行ってたお前の方が不利、ってことにはならないのかよ」
「べっつに。それを見下せるくらい大きくなったら、俺が勝ち、ってことでしょ?」
「……それならお前もヤルキを出す、と?」
「あっははっ!! 今までの事全て、ヤルキがないとでも言いたい?」
「あぁ」
即答する奴の瞳はまっすぐで、俺を見据えてその先を見ていた。そうか、俺は半分やる気がなかったのか。いやぁ、楽しかったんだけど。けど奴は俺との真剣勝負をしたいみたいだ。それもそれで楽しそうだな。
「よっし、じゃ、期限はいつまでだ?」
「一年間。2年生になるまで」
「りょーかい」
ニッと笑うと、奴も面白いのかいやらしく笑う。
ふぅーん、こういうのもいいかもね、真剣勝負。
「え、空いいの?! っていうか1%しかない勝負を受けるってどうかとっ!!」
「いいーの。そうじゃなきゃ、俺も真剣に勝負なんてしないじゃん」
さっきまでの新聞記事の事はどこへやら、彼に対する対抗心っていうものを少しからず抱いていたのは確か。楽しそうな目の前の対戦に、ココロが踊っているのも確かだった。心配そうに見るなっちを、思わず抱きしめたくなるような顔で見てくるもんだから、抱きつきたかったけど、まぁ外だし、一応。
「心配すんな、1年もある。負けたら負けたでそのときだろ」
「……はぁっ……わかったよ、空のお好きなように」
「もちろん、好きなように暴れさせてもらいますー」
「あ、条件。忘れてた」
「条件?」
奴が凄く楽しそうにしているものだから。こちらも楽しくなるではないか。
俺は思わずにやにやしながら相手を見た。それは心底おきに召さなかったのか、少し顔をゆがめる対戦相手。
「俺が勝ったら、この学校を自主退学してもらう」
「おっし、乗った」
「えぇ?! ちょ、空?! まじで言ってるの?! っていうかそれ、確実に負けるって!!!!」
「えー、なっち、君ぐらいは絶対勝てるよ、って言ってくれなきゃー」
「無理!!」
「えー」
そりゃ無理かもな。
だけど勝てる見込みが1%、悪い意味でも良い意味でもあるのならば……。別にここを退学したって芸能活動はやっていけるわけだし。俺には俺の家もあるのだから。
「俺の条件は……ま、考えておくよ」
「おう」
チャイムが鳴って、担任が入ってくる。
それと同時にそのお話はお開きとなり、同時に戦いの火蓋が落とされた。
担任は相変わらず面倒くさそうに進行して出て行った。
出て行った瞬間、周りの人間は先ほどの二人の事で話がもちきりになり、話が弾んでいる。
「空……大丈夫なの? もし負けたら、僕が親父に――」
「――ずるは無し。約束は約束なんだから。なっちも応援してね」
「……わかった……」
俺が一回言ったら言い切る事を知ってか知らずか、彼女はすぐに引いた。
いやまぁ、楽しい勝負事になるだろうし、楽しみにしようじゃないか、これからを。
「ん?」
「へ? どうしたの、空」
「……いや」
後ろを振り返ったが何かの間違いだろう。
見られて、注目を浴びるのは慣れてるつもりだけど……うーん。
気のせいだろう。
―勝負!!―終了




