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Act,06―心配―

「……だから、何で?! 父さんは何で俺の希望を聞いてくれないの?!」

「うるさいっ!! 寝言は寝て言え阿呆っ!!」


ある男が、近くにあったものを息子に投げつけた。もちろん、息子は、当たって、痛がる様子を見せる。だが、少し物足りない。


「カットッッ!!」


監督の声が響き渡った。やはり、今のシーンは息子役の子が少し変だったな。


「ダメダメダメっ!! 市草(いちぐさ)君、そこはさぁー」


この監督は自分が思い通りの行くまで役者をしごきあげることで有名だ。目の前の役者のコも少しばかりかわいそうになるが……まぁ、これも鍛錬、か。


「申し訳ありませんでした!!」

「本当、ちゃんしてくれよねー。今で何回目だっていうんだ。人気アイドルだからって俺は、甘くみないからな」


そういや、人気アイドルユニットの片割れだったか、このコ。


「本当に申し訳ありませんでしたっ!! 次は必ず納得させる演技をしてみせますっ!!」

「……ま、その意気だ。必死のココロを忘れるんじゃねぇぞー」


監督、やるぅ。

息子役の子は、親役である自分の方を向いて、頭を下げた。うん、こういう律儀な子って伸びるよね。頑張れ、アイドル、と応援。


「よし、TAKE3!!」


監督の掛け声で始まるそれは、まだ三回目か、とだけ思えた。










――in青空学園 食堂


「って馬鹿じゃないの、空。それだけで足りる分けないでしょ、君の胃袋」

「え? 別に足りるよ?」

「何で、サラダと野菜ジュースとゼリー? それだけで? 頭おかしいんじゃないの?」

「今更」


そういっておいしそうに野菜をほうばる空を見て、思わず私はため息をついた。空はかなり食べるのかと思ったが、本当に小食で、昼間は野菜類しか食べず、夕食にメインの肉やらを食っていた。バランスはいいが、量が少なすぎるだろう、それは。やりすぎもいいところだ。いや、これはやりすぎじゃなくてやらなすぎ、か。


「昼からの授業ってなんだっけ?」

「確かー古典と、数学? まだ、芸能科らしい授業は受けてないね」

「確かに。早く実践とかさ、してぇなぁ……楽しいんだろうなぁ……」


飲んでいる野菜ジュースを口にくわえながら、後ろにうなだれる空。それを身ながら、やはりとは思うが、少し興味がわいた。そこは、私が思ったところとあっているだろうか?


「たとえばどんな?」

「んー。演技、でしょう、一番は。歌唱力とかは声を出すことにおいて必要かもしれないけど、それよかやっぱり演技」


楽しそうに言う彼。

やはり、私の予想はようやく当たってくれていた。彼にいたっては、本当に的外れもいいところだった。マジメな奴かと思ったら変態の馬鹿だし。大食いかと思えば小食だし。頭がおかしいの限度もはなはだしいと思う。


「っていうか、なっちもよくそれだけ食べれるねー?」

「へ? いや、普通だろ」


普通、男子ならこれぐらい食ってるはず。


「いやいや、昼間ッから、カツドン食うわ、うどん食うわ、ハンバーグ食うわ……ってなっちも尋常じゃないよ?」

「そうかな?」


私は、ほとんどたいらげた後でそう言った。何らいつもこんなもんだ、と思っている。っていうか、違うのだろうか? そりゃ女友達からしたらいつも、多い多いとは言われたがいつも、その分だけ動くため、何ら問題はなかった。男子とは……男子には何かと言われた覚えはないが、これぐらいが普通だと思うのだが……。けどまぁ、少ないよりかはマシなはずだ。


「あ、そういや」

「ん?」


席にもたれていた空が、体勢を起こしながら、私を見た。

すっかり忘れていた。昨日の事を聞かなくては。


「あのさ、昨日、テレビ特定のものしか見ないって言ってたじゃん? 何見てんの?」

「え? ドラマ。今なら、あの学園ドラマ、えーっと……」

「“桜の舞う頃”? あれって凄いヒットしているよねーって!! 何でそれ見てて、新羅の事しらないの?!」

「何でって言われても……知らないものは知らないんだからしょうがないじゃないか」


そういってしれっと言う空に、もちろん何も言えなくなってしまった自分。彼は、自分のゴミと、食べ終わった食器を持って歩き出す。私が食べるのを見計らってくれていたのだろうが、“行くぞ”とか何なり言えばいいものを……


「ちょ、待ってよ!!」

「遅い遅い。持ってあげるから、早く追いつきなさい、おちびさんよ」


そういってひょいっと自分の手から離れた食器たち。それを私に持たせようとはしない彼は、大またで颯爽と歩き、さっさと食器を片付けてしまう。それでも絵になる彼は、やはり注目をあびっぱなしだった。


それにしても、あの“桜の舞う頃”を見ておいて……。

確かあのドラマには、SIの新羅の相棒である、市草(いちぐさ)が居たはずなんだが。彼は、今ドラマを撮っている最中で、学校はずっと休んでいる。たしかそのドラマは推理小説からドラマ化されたものらしい。主人公のオッチャンの息子かなんかで出ていたような気がするのだが。で、そのオッチャンが家庭を省みず、ずっと捜査捜査ばっかりしているから最終的に家出しちゃって不良になっちゃった、っていう設定のはず。


「ドラマは見るわけ?」

「うん、演技の勉強ずっとしてる。見てたら結構勉強になるよ? 一緒に見る?」

「……それってドラマの内容そっちのけじゃないの?」

「いや、それはない」


きっぱりと言い放つ彼に、そうか、としか言いようがなかった。


「まぁ、そのうちお邪魔させてもらうよ。部屋で見てるんでしょ? 今も」

「うん。親父が寮に入るときにわざわざ買ってくれたんだよね。演技の勉強するだろ? ッて言って」

「へぇ、優しいな、空の父ちゃん」

「まぁ、どこにでもいる親バカだよ」


そういって笑って見せる彼の表情は柔らかで、その父親を慕っているように思えた。私は……知らない、あんな糞。何の事情があって私を男装させなきゃならないのか知らないけど、糞にはか変わりないんだ、と言い聞かせた。


その後の古文も数学も、難なくこなした後。新羅は昨日から一切姿を見せず、相変わらず、他の連中は空と私をにらんでいて。私には、一通の果たし状的なものが届いていたことを、空には伝えていなかった。というより、伝えなくてもどうせ、私で大丈夫だろう、と思ったからだ。


「なっちー、寮戻るよー、今日は“桜の舞う頃”の第二回だし!! 一緒に見る?」

「いんや、先にちょっと用事ある」

「用事ー? 野暮用? それか父ちゃんとの密会か?」

「それ、密会なんていわないよ! まぁ、確かに父親に呼ばれたんだけど」

「そっか、じゃぁ、俺先もどってんねー? 俺必要ないんでしょ?」

「あ、うん」


あれ。ついてくるかと思ったんだが……意外とあっさり離れたな、空。なんでだろう。いや、別に、ついてくると言っても無理やり引き離すつもりだったんだけど……。そこまであいつがわかっていた、とか? いや、それはないような……。まぁ、いいか。


「あれ? 着いていって欲しかった?」


そう来たか……


「いいよ、親父うるさいし。んじゃね」


私は、体育館倉庫の方向へと歩いていった。

仰々しく果たし状と書かれたそれには、場所が書かれていた。体育館倉庫前……。

ワンパターン、と言っていいのか。多分、倉庫の前に言った途端、襲われてうぎゃぁ、で、わぎゃぁ、だ。……いや、それは何だ、なんて事は聞かないで。あと、一人で、とも小さく小さく書かれていた。……私がこれに気付かなかったらどうしたんだろうな、この差出人。

とりあえず、“前”には行かないに越したことはない。


着いてみれば、人の気配はいくらか感じるが、倉庫辺りに人はいなく、ただただ雑草が鬱蒼と生い茂っていた。あえて倉庫の前にはいかず、倉庫の横の壁にもたれかかる。そして何人ほどいるだろうか、どこから出てくるかを少しだけ調べる。倉庫の中にも一人、いた。


もちろん、相手は私が倉庫“前”に行くのを待っているのだから、出てくるはずもなかった。


「あのさ、何処に居るのか知らないけど、早く出てきてくんない?」


そう、言うとガサガサという音共に、あらゆる所から人が現れた。ざっと5人程度。なんだ、僕を甘く見てくれてるんだ。


「何ー、空じゃ勝てないから僕を襲おうって?」


にこっと、いえば案の定、私を睨んだ。楽しいじゃないか、こんなに敵対視してくれるとは、こちらもやりがいがあるよ。暴れがいがある。

面白いし、こちらからわざとそれに乗ってやろうかな。


「……まぁ、君らが言いたいこともわかるよ? 僕って弱っちそうだもんねぇ。さらに言えば僕は、理事長の息子だ?」


クスッと笑いながら、奴等を見て言い、ゆっくり、ゆっくり、倉庫の“前”へ。目を光らせているのが嫌でもわかる。けど、私は扉の開く真ん前までは行かずに立ち止まり、奴等をにらみ返す。


「……そんな下らない事で責めてこないあんたらなんてさ、こうやって!!」


足を振り上げ倉庫めがけて、蹴った。もちろん、私は空手上段、なぎなただってやってる。それなりに倉庫はへこんだ。それもあけられないくらい、使い物にならないぐらいに。


「あはっ……、さ、かかってきなよ?」

「くっそーっっ!! いけっ!! 作戦変更、全員で襲い掛かれっ!!」

「よっしゃぁっ! 全部一緒に叩きのめしてあげるよっ!!」


そうそう、乱闘ってこうこなくっちゃ。

体中の血が騒ぐ瞬間だ。


周りの血相を変えた狼たちを立ち向かう。まずは、腹、そして弁慶の泣き所。みぞおち、何処かにクリーンヒットさえすれば相手は大抵くたばる。空手や柔道でもやっていなければ、の話だが――


「――ピーンチっ!!」

「はっ?!」


真後ろで何かが大きく揺れる音がした.何かなのかは全然わからなくて、ただ、すぐに後ろを向いた。そしたら大きな大きな体があるじゃないか。線は細い癖に、自分よりも10cmも大きい彼、空の姿だ。


「そ、空?!」

「危機一髪?」


クスッと笑う彼の手には、鉄パイプ。その鉄パイプを握っている奴はもう一匹いて、それは間違いなく、新羅で、自分をぶとうとしていたことも間違いなかった。


「ったく、物騒なもんふりまわすんじゃねぇよ、芸能人サン?」

「くっそっ!!!」


その鉄パイプから無理やり空の手を離そうとする新羅だが、空は一向に放そうとはしなかった。それどころか、自分の物のように、それの主導権を自分へと変えていく。そして。


「芸能人だから、あんまり外傷あたえちゃだめだろう? だったらさっ!!」


一瞬のつきだった。


彼の足は、大きく振りあがり、鉄パイプをねじらせて、新羅の体を大きく蹴った。


「気絶してねん」

「……外傷残るんじゃ?」

「見えなければそれでよしっ!」

「言ってることイロイロ曲がってるけど」

「細かいことは気にしないの!」


にこっと笑った彼の顔。落ちた鉄パイプをもって、振り回す。私と違って、彼の場合は全てを一つきで終わらせてしまう。だからこそ、周りで残っている生徒が後ずさりした。


「言ったじゃん。俺はおまえらみたいにさ、卑怯な人間が大ッ嫌いだって。弱いものいじめて何が楽しい? それにこいつ、結構強かったろ? そろそろ暴力で俺等に勝とうとするの、やめたら?」

「くっそっ……」


新羅の下についていたであろう一番手が、物凄く悔しそうだったが、もう、どうにもならなかった。トップが倒れているのだ、ひくしかなかったのだ。


「くっそ、ひくぞっ!!」


そういって走り去る彼等。空はにこにこしながら手を振った。随分と余裕な奴だ、と思いながらも、また、こいつは自分をつけていたのか、と思うとただただため息が出るのだった。何もかも見透かされているような気がしてならなかった。


「ったく、俺が守るっていったろー? 一人で戦おうとすんな。仮にも一応、ね?」

「……わかってるよ」

「それなら、これからこういうことあったら、絶対いうこと!! 護衛係の意味がないだろ」


少々怒っているのか、鉄パイプを持ちながら、ため息をつく。

……心配、してくれていたのか……。


「あんまり人に心配させるなよ」

「……うん、わかった」

「よっし」


そういってあの細い指で頭を撫でる彼は、明らか他の男とは違って、優しくて、存在が大きかった。そして、凄く温かかった。心配される、って心地言い事、なのかもしれないな、と始めて思う一瞬でもあったのだった。


「って、あ。あの下っ端達、新羅の存在忘れてねぇ?」

「あ、確かに」

「うーん……保健室に預けに行くか」

「へ? 助けるの?」

「怪我人を放置しておけるほど俺の心が狭いとでも?」


くすりと笑う彼はまた、驚き呆れる行動をしでかしてくれるものだ。彼は、そのけが人の体を背負い、鉄パイプを倉庫の上へと放置して歩き出した。自分も来るようにと手招きされてついていくも、また、助けられてしまったという気持ちがあって気が引けたのは言うまでもなかった。


「あ、今日、あれだ。“桜の舞う頃”一緒に見るか?」

「そうだね。お邪魔させてもらおうかな」

「あのさ、もうちょっと抵抗とかしないの?」

「何で?」

「だって、一応、男の部屋じゃん」


そういわれてたただ、キョトンとしてしまった。

彼は何を言っているのだろう。彼が、自分を襲うとでも彼は言いたいのだろうか?


私は、思わず腹を抱えて笑ってしまった。


「な、何?! 俺そんなに面白いコト言った?!」

「あははっ、いやさ? 空が僕を襲うわけないじゃん?」

「な、何で?」


反対に彼が驚いているところをはじめてみたから、また、楽しかった。


「僕の身を心配している人が、僕を襲うとは思えないよ」

「……男は狼だぞ?」

「そうだろうけど、君は違うよ」


くすっと笑って保健室への道のりを先に進める私。未だ呆然としているであろう彼は、背負ったまま、立ち止っていた。くるりと振り返り。手招きをする。


たまに、こんなやり取りがあっても楽しいものだ。


そう率直に思えたのだった――









――ガコンッ


へこんだ倉庫の扉を無理やりこじ開ける男。


「……俺の出番が一切ない。……カズの意気地なし」


そうブツブツ言いながら出てくる男。身長187くらいで、茶色のさらさらヘアーを持っていて、大きい目を見開いて、周りの景色を見ていた。周りに落ちていた一つの落し物を拾って、にっこりと微笑む。


あいつ(・・・)は……救世主、でもあるのか……」


遠くに見える、大小の男と、カズこと新羅。


その男はフッと笑ってから、そこから立ち退いた。





彼の名は、市草 蓮(いちぐさ れん)







―心配― 終了

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