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Act,05―阿呆共とライオン―

――城嶋 空……。

彼の考えていることはさっぱりだ。

昨日、いきなり私を守るだなんて言ってきた。何のつもりだ? 何がしたいんだ?

父親が直接彼に頼んだのかと思い、あの糞親父を問い詰めたけれど、そんな野暮用頼むわけがない、と断言された。そりゃそうだ。普通に、空手やらイロイロならっている娘にそんなもの必要ないに等しい。じゃぁ、何でだ……?


私は、何であいつに守られる立場に立っているのだろう…?


訳がわからない、としか言いようがないし、無理やり守られる立場になったような気もする。親父があんな事言っているから余計気になる。もしかして、外部からの……いや、けど、疑っていちゃ何も始まらないし。


布団の中で一度寝返りを打ち、もう一度寝ることにした。


まだもうちょっと大丈夫だろうし、遅刻したらしたで親父脅してなくしてもらおう。と、思ったその時だった。確か、自分の部屋には自分しかいないのに、かすかな足音が聞こえたようなきがした。いや……気のせいだろう。


――ギシッ……


いや、気のせいじゃない?

確かこのベッドには自分しかいない。さっき寝返りを打ったのは確かだが、そんな時間をかけて音がするわけがない。なら……誰だ?


「……はぁ」


そう、誰かはため息をついた。

寝たふりを通すため、目はふさいだままだったが、そのため息一つで誰かわかってしまった私はある意味、病気かなんかか? とりあえず、この声は……空だ。間違いなく。


「……守る、なんて大それた事言ってしまったな……」


多分、空の手が伸びてきて、自分の髪の毛を撫でた。おでこの髪の毛を掻きあげたり、一本一本をいらったりと、その手は自分の髪をもてあそぶ。何故だろうか……昔、父親などが撫でてくれた手のようなごつごつした感じは一切しない。その代わり、線の細い形の良いと思われる細い指が、自分の髪をいじっていた。……細い、綺麗な手なんだろう。

そう思った途端、彼の顔が浮かんで、何故か自分の心臓の鼓動が高鳴ったような気がした。


次の瞬間には、彼の手が離れていて、気のせいだとしか思えなかったが。


「守れるかな……。いや、守れる。今の俺は――」


そこで言葉は終わり、手で髪をもてあそばれるのも終わった。

心臓が高鳴ったのは単なる気のせいである、と何度も何度も否定する。そうだ、そんなわけがあるまい。頭の中で何度も首を振っているうちに、何故か、自分の周りが急に暗くなったような気がした。別に、目を見開いているわけじゃないが、視界が狭くなったというか……。いや、近くに誰かがいる……?


「なっちー、早く起きないと襲っちゃうぞー?」

「っ?!」


耳元で囁かれたあと、思いっきりびっくりして目を見開いた。

そうすると、そこには案の定、黒髪をサラサラと揺らす、男の姿。彼は、私の目を捉えて、その深い深い青い目でもって、にっこり笑った。

っておい!!!!


「どけっ!! 変態!!」

「ぐへっっ?!」


思わず所かまわず相手を蹴ってしまった。多分、またには入らなかったが……あぁ、多分みぞおちには入った。目の前で布団の上でうろたえる空を見て、まぁ勝った心地はしたが多少罪悪感を覚えた。


「ひでっ!!俺はなっちを深い深い眠りから起こそうとっ!!」

「別に人の手は要らないっ!! っつかどこのおとぎ話だよっ!」

「ぶー。次は絶対成功するもんねー」


そういってベッドから降りる彼は、すでに制服に着替えており、昨日より少し着崩していた。昨日はあの最初の挨拶もあったし、優等生バージョン、ってか。面白い奴。


「っていうか、鍵、どうしたの? 僕、ちゃんと閉めておいたよね?」

「ん、もちろんピッキング。俺、小さい頃からこういうの兄貴に教えてもらってたからさぁ」

「へぇ、お兄ちゃんいるんだ……って!! それ犯罪っ!!」

「大丈夫大丈夫、可愛い小娘を守るためなら何なり致しますぞっ!」

「何なりって、やる事間違ってるわ!! 早く出て行け、この変態っ!」

「ぶ―……今から、なっちの制服のお着替え姿拝見しようと思ったのにー」

「しなくていいわ、この変態!! 出て行け、馬鹿っ!!」


クッションやらイロイロ投げる事によってやつを私の部屋の玄関口まで追いやった。なんちゅう奴だ。守ってもらうとは言ったが変態行動を許すとは言っていないはずだ。それなのにこの変態野朗は……。私が、制服を取り出し、奴を見送ろうと、玄関先を見つめていると、奴が最後の最後に振り向いた。


「……なっちの胸って結構あるよね」

「っ!! うるさいっっ!!」


なんちゅう事を言い出すんだっっ!! そりゃ、今は、今は女の格好しているから、胸の大きさはわかるけど。この上なく恥ずかしくて、奴が出て行く直前に、最後の最後に投げたクッションが、玄関のドアに辺り、コロコロと転がった。全く人騒がせな……。


制服に手をかけて、着替えかけるが、ふと、先ほどの言葉を思い出した。

「今の俺は――」その後に続く言葉は何なんだろう。強い、か? それとも、守れる、とか? あいつなだけに、どんな考えを持っているのかさっぱりだった。


一応、胸をつぶすためのものは、よく男装コスプレイヤーが使うというナベシャツとやらを使っている。どこでそんな情報仕入れたのか、糞親父が買ってきたのだ。これが結構つぶれるけれど苦しくないという代物で、結構気に入って着用するようになった。これをつけていればでかい胸が揺れることも心配しないですむのだから、楽なのである。


着替え終わるや否や、急いで鞄を持って玄関へ向かった。少し時間が危ないと思ったからだ。

靴を履いて、玄関のドアノブに手をかけたそのとき。


――ドンッ


ドアに何かが当たる衝撃があった。それも結構大きいから……人だ。それでドアにあてつけられるとしたら、一人しか考えられない。


「ったく、憎ッたらしい奴だなっ!! 何で理事長の息子と一緒に居るんだよ」

「あれか? 一緒にいると何もされないとでも思ったか? この編入生風情が!!」


……言葉の使い方まちがっていませんかー? まぁ、あえて触れないでおこうか。

多分、このドアにもたれかかっているのは、空だ。

っていうか、何で反論しないんだ、こいつ。本当ばかばかしいと思うのはわかるけど、反論ぐらいすればいいじゃないか! そう思って、ドアノブに力を込めかけたときだった。


「ばっかじゃねぇの」


空の声だ……。


「うっせぇなあ……。俺をお前等みたいな低脳と一緒にすんなよ」


そういって今頃、頭を掻いてそうだ……。


「お前等みたいに相手の後ろ盾を見て行動してるんじゃねぇ。

   俺は、あいつに借りがあるんだ

 てめぇらみたいな、自分の事しか考えてない阿呆と一緒にするんじゃねぇ」


あー今頃ニヤッて笑ってるな、こいつ。

そうか……借り、借りがあるから、私は守られているんだ、こいつに――


ダメだな、何となく、浮かれてたような気がした。


まぁ、言ってくれるじゃないの、私の護衛役さん。貴方だからそうだろうかと思ったけどちょっとショック。けど、しょうがないっちゃぁしょうがないよね。

さて、そろそろあけようかしら。


「なんだとゴラァッッ!!」


お、チャンス。

私はドアノブを握り締めて思いっきり勢いよく、あけた。


「どわっっ!!!」

「っ?!?!」


あけたその先の景色は、思ったとおりのものとなった。

目の前に前のめりに倒れる私の護衛役。そして、思いっきり鉄のドアに手を打ちつけた阿呆な低脳な奴。そして、男の手は真っ赤だった。


「って!! なっち!! 今、どうなるかわかっててあけたでしょ?!」

「え? 気のせいでは?」

「はぁっ……もう、戦う気が一気にうせたー」


空は空でうまいこと、体勢を整えてこけてくれたから、傷一つなしである。このこともある程度予想していた、なんていうと彼はますます怒るだろうか? いや、彼は“んなコトわかりきってるよ”とか言ってまた、私の頭をぐちゃぐちゃに撫でるのだろう。ようやく、彼の行動パターンが読めてきた。

空は、後ろを振り返り、阿呆な奴等を見渡して勝ち誇った顔をする。そして、私を先に歩かせて、歩き始める。頼もしい護衛役だこと。


「……空、あんまり必要以上に暴れないでくれない?」

「何で? 暴れるって楽しいよー」


あれか、私を守るのは楽しいからっていう理由も含んでるな、こりゃ。


「だって君にはやる事があるでしょう?」


後ろを振り返り、そういうと、彼の顔は一度はキョトンとなったが、もう、次の瞬間には口端をあげてにぃっと笑い、私を手招きした。何かと思って近づくと、相手も容赦なく、私に近づいて、耳元で囁いた。


「お姫様を守らなきゃ、ね?」

「っ!!」


くっそー……不覚にも、頬を赤らめた自分がにくい。本当、憎い。

奴はただ、私をからかっているだけじゃないか。


「うるさいッ! 言った私が間違っていたっ!!」

「えーなんでー」


そういって早歩きする私を追ってくる彼は、まるで犬のようだが、狼の用でもあった。そう、綺麗な顔の仮面をかぶった狼、そんなところだ。


そんな事を考えていたからか、それとも、元からそんなことには気付かなかったのか。

どちらかなどわからないが、確実に後ろの連中は二人をにらんでいた。


もちろん、私たちは、それを知る由もない――


「くっそ……理事長の息子といえども、やっぱり気にくわねぇ」

「だな。……どうしますか? 新羅(しらぎ)さん?」


阿呆の一人があるドアを見つめた。

そこは、一番端にある、黒関那智の部屋、城嶋空の部屋、その次部屋にあたる。

表札には、新羅(しらぎ) 和成(かずなり)と書いており、別段他の生徒とは変わらぬ部屋だった。だがしかし、阿呆共からしたら、上の立場らしく、全員が、彼を敬うような形を取った。まるで、相手が王様かのように。


その新羅(しらぎ)、と呼ばれた男はにやっと口角を吊り上げて一言


「好きにしろ」


金髪の髪が四方八方にたてられて、まるでライオンのような少年新羅(しらぎ)。悪ガキ大将とも思えるその振る舞いに、阿呆共は目をひからせる。自分の大将が世界で一番だ、といわんばかりに――






――教室に着いた空と那智は自分の席へと着いた。


幸い、黒関の「く」と、城嶋の「し」で、那智は空の斜め後ろの席に着くことが出来た。


しかし、入るや否や、なんともいえない、視線という視線を全て受けた。まるで、いい意味での注目の人。悪い意味では、にらまれている。それも、やはり自分よりも空のほうだった。そりゃ理事長の息子だから、というのもあるが、やはり彼はカッコイイ。だからこそ、彼の方が注目度が高かった。


 だがしかし。


奴の顔はそういう周りの人とは裏腹に、この上なくにんまりしているのだ。何だ、こいつ。なんて事誰もが思っているコトは、言うまでもないだろう。


「どうかしたの? なっち」

「え、いや……あの……。うん。いや、なんでもない」


何で。

どういう神経でこんな風に居られるんだ? っていうか何、この営業スマイルとも言わせない的な感じの満面の笑みはっ!! 反対に恐ろしい。何を考えている? 何を楽しんでいる? 奴は目立つ事がすきなのか? いや好きじゃなかったらそりゃ、こんなところにはこないだろうけど。


「何ー? 何で俺がこんなのか聞きたい?」


確信犯かよ


「そりゃ、凄く聞きたい」

「ははっ、正直者だねぇ、なっちは」


なんだこいつ。一回ぶん殴って欲しいのか?


「何が楽しいって、この状況が何よりどれより楽しいよ?」

「……そう……」


ただため息をついた。周りの人間はこれでもかという程顔が変形していた。

いま、この状況でお前はこの教室の大半を敵以上の物にしたんだぞ……。

いや、確信犯だからこれも承知の上、ってか。よくやるな。

ため息をつく私に、空はクスリとまた笑う。けど、やはりそれはこの部屋に入ってきたからのあのなんともいえない笑顔とはまた一味違うものだった。


そのときだった。


後ろのドアが仰々しく音を立てて開いた。もちろん、皆そこへ視線を送る。


何事かと振り返れば、そこには……奴がいた。

奴は、何人ものしもべ的な阿呆共を連れて、教室に入ってきた。


新羅(しらぎ)……和成(かずなり)……」

「え、何? なっち、知り合い?」


空がそう聞いてきたものだから、もちろん首を振る。今の世代の芸能科の奴となんて一切のつながりはない。そうであるのならば、とっくにこいつの考え方をねじ伏せているだろう。


彼は、今、人気急上昇中のアイドル歌手だ。


そして、そうでなければ私が目をつけるはずがない。彼の苗字順から行くと、案の定、私の隣、尚且つ城嶋空――彼の後ろに来た。そして、目の前に居る、空をにらみつけた。


「……ん? なっち、知り合いじゃないんだったら、彼、誰?」

「この人は新羅って言って……って待て待て待て!! 空?! この人知らないの?!」


思わずその場で席を立ち上がってしまった。


「え? 知らなきゃならないこと?」

「……いやいや、彼のことは衆知の事で、知ってなきゃオカしい事だよ……?」

「……へぇ……そりゃ、仰々しくここにも入ってこれるわけだー」


彼は何を言っているのだろう?

空は、後ろを振り返り、新羅の方向を向きながら頬杖をついて、にっこりと笑った。


新羅 和成。

彼は、SIというユニットグループの一人で、今年出てきた新人だ。カリスマ性・ビジュアル性どちらも長けている二人の曲は売れに売れた。二人の活躍は華々しいものだとどのメディアも取り上げているというのに、何で知らないんだ……


「もしかして、テレビとか一切見ない派?」

「何その宗派的なの」


クスッと笑った彼は、私の方を向き直って話す。


「特定のものは見るよ?」

「その特定の中に彼等は移っていなかったの?!?!」

「え? うん、何で?」

「……もういい……」


私がうなだれているのに、空はというと、納得していないのか首をかしげているだけだった。


だが、もっと納得していないのが居た。

新羅本人である。


新羅は、その場で口をパクパクしたまま、青ざめていた。


「ちょ、おまっっ……本気で俺の事知らないのか?!」

「え? あーうん。初めまして、だよね、うん。前にあったことあるっけ?」


そういう問題ではない


「ねぇよっ!! くっそっ!!」


案の定彼は腹を立ててその場を立って出て行ってしまった。

取り残された空は、またもや、キョトンとして、その後を目で追っていた。

そう、一言で言うと「何で?」見たいな感じ。


「うーん……わっかんね。せっかく喧嘩買おうとおもってたのに」

「へ?」

「いや、あれ、ここのリーダー格でしょ?」


そういうことはわかるんですね、貴方。


確かにそのとおりだった。

何度か、ここの寮に入る前に視察をしていたのだが、どう見てもみんな彼等、SIを慕っていた。片方の一人は今、ドラマを撮っている途中だからここにはいないらしいが、二人に絶対的な権利があることは間違いなかった。そして、このクラスのイジメの主犯は彼、新羅であることも。



そういうことは解るけど、絶対世間知らずだろうな……空は。



先行きが全く見えない現状に、ただため息をつく。


けれどまぁ……彼だからこそ、そういうところがあってもいいのかもしれないな、という諦めもついて、その日の授業に取り組んだのだった。






ただ、新羅は一度も戻ってはこなかったが――












―阿呆共とライオン―終了

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