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Act,04―入学式Part,2―

「ねぇ、遊びに行こう!!」

「……どこに? 空、あんまり暴れるとまた怪我するよ?」

「わかってるって! 公園公園!! 砂場で城を作るんだよ!」

「まぁ、それならいいけど」


ニコッと笑ったその笑顔がまだ、未だに頭から離れなかった。

いい思い出、いい夢が見れた気がする。夢の中の彼はいつも笑っていて、いつも、俺をいい気分にさせてくれるのと同時に、悲しくさせた。もう、彼が居ないんだということを何度思いなおしたことか。その回数は到底数え切れるものではなかった。


夢を見終わって、一息をついて目を開けた。

視界に移るのは、白い天井と白いカーテンと白い布団。それらで思わせるのは病院だが……病院なんかに、俺は居ただろうか? 俺が居たのは確か、学校……あぁ、そういえば、昨日、母親が夜中ずっと電話で話しているのを聞いていたから寝不足で、その状態でリンチされかけたから、抵抗で体力使って……って、俺手加減したかな? 眠たいからキレたような……、ま、俺が生きているからいいかな。


起き上がってみると、そこは案の定、保健室と思わせるもので、そこに居たのは、俺より小さい可愛らしい男子学生と、保健の先生と思われる30代のオッサンだった。


「あ、おきた!! 大丈夫? 喧嘩終わってから、君、倒れたんだよ?」

「……君が運んでくれたのか?」


俺より小さいその体で、俺を一人で運んだのだろうか?


「うん、結構重たかったけど大丈夫だったよ」

「あちゃ。俺より小さいのにすまない」

「全くだよ、大の男が何、女に運ばれてんだか」


保健医が何も思わず、そういった。

保健医の方を向いて、俺は首をかしげて、そのかわいらしい男子学生を指差した。


「……えっと、彼は、女?」

「……あ」


あ。

じゃないと思うような気がする。それを聞いた瞬間、可愛らしい彼の顔が仁王みたいな形相になっていたのは言うまでもなく、思いっきりその保健医をにらんでいた。なんだ、彼、女だったのか。そう思わせるところは節々にあるな、と思った。まったく、本当に女の子に運ばせるなんて、馬鹿なことをしてしまった。


「ちょ、信じないでよ!! 君、僕は男だよ?!」

「……えっと、今更一回聞いた事を否定されても、うん、無理だと思うな?」

「いやぁぁぁぁっ!!! ちょっと何してくれてんのよ、この馬鹿大和!! あんたはいつもそうじゃない、そうやって人の秘密をどんどんばらしてっ!!!」


うん、この二人はだいぶ仲がよさそうだ。そして、口を滑らしてしまった保健医、か。楽しい設定だな。別段、俺は人の秘密をばらそうとは思わないし、そうとも思える節があったから、聞いてもあまり、驚かなかったんだが……。まぁ、彼女はバレて欲しくはなかったんだろう。彼等が言い合いをしている間、俺はおいてけぼりで、俺の口止めはどうするのだろうと思った。

多分、その事もあるし、俺は多分まだここに居た方がいいんだろうと思い、そこに居座った。


ふと、右手がズキズキするなぁと思ったら、右手が少し赤くなっていた。

あぁ、商売道具防ぐために、あの太いごつごつした手をこれでとめたんだったっけ?

多分、突き指くらいはしているだろうな、これなら。そう思って、起き上がり、のこのこと保健医の近くにある引き出しを探り出した。


「本当、最低最悪、ありえないっ!!」

「だから、ごめんって言ってるじゃんかよっ!!――……って、どうかしたか?」

「あ、いや。……喧嘩、続けてもらえますか? 俺、別に保健医要りません」

「ちょ、いやだって、俺を売りにだすなっ!!」

「自業自得ですよ、先生」


売り出した彼は案の定、逃げたことに対しても起こられ始め、本当見ていると、どちらが年上かわからないくらいだった。俺は俺で、自分のいたベッドに戻り、湿布を貼ってまだ終わりそうにない、その言い合いを止める気もなく、もう一眠りすることした。

何となく、今日はいい夢が見れる日だな、そう思ったからだ。


ほら、また彼の姿が見えた――







――何時間経っただろうか。


いつの間にか、陽が落ちかけているぐらいの時刻になっていて、俺は自分の時計を見て、おきた。そろそろ言い合いだって終わっているだろうと思い、見た時計の手をどけて、起き上がろうとしたが、目の前には、彼女の顔が合った。


……この子は襲って欲しいのだろうか?


「……襲って欲しいの? 寝起きの男の顔の目の前に居たら、普通危ないんだよ?」

「ちっ、違う!! ただ、ずっと寝てるから心配になってっ!!」

「そう? ま、気をつけてね」


そういって、起き上がるも、保健医の姿はなく、彼女はずっと待っていてくれたみたいだ。また悪い事をしてしまったな。何かお礼をせねば。


「あの……さ、さっきの事……」

「あぁ、別に口外しようなんて思ってないよ? 大丈夫大丈夫、心配しないで」


ベッドの上からちょうど届く位置にあった彼女の頭をぐしゃぐしゃとかき回すと、彼女はそのぐちゃぐちゃになった髪を押さえながらキョトンとした。多分、ずっと口止めをどうしたらよいか考えていたのだろうけれど、別に口止め料なんていらない。人の秘密を知ってしまったのなら、それを口外しないまで、先ほどの保健医のような失態をしなかったらいいだけの話である。思いっきり考えてくれていたことに対しては、多少の努力賞をあげたいが。


いつまで経っても、下を向いて考えこむ彼女に、俺は多少なりのため息をついてから、ベッドの上で伸びをして、ベッドから勢いよく飛び降りた。そうであるのに、何も反応を示さない彼女を見て、目の前で手を振ってみると、ようやく、こちらを向いた。


「寮に戻らないの?」

「あ、うん、戻ろっか」

「じゃ、行くか」


しかし未だに、俺の事がなぞなのか、ずっと後ろを歩いて、ずっと俺をじっと見ながら歩いている。全く何がしたいんだ、この子。面白い子だとは思うが、自分の世界に入るともう、何も見えなくなるんだな、全く。


「あのさー、ずっと見られてると俺の体に穴開いちゃうよ」

「あ、ごめん。何か、君が不思議すぎて考え込んでしまってた」


なんて馬鹿正直なんだ、この子。


「そう、そんなに俺、不思議? 質問の一つや二つかまわないよ?」

「あ、いいの? じゃぁ、何で、そんなに変なの?」

「……あの、その質問。ごめんだけど答えられないなぁ、俺自身自分を変だとは思ってないからさ」

「あ、ごめん」


けど馬鹿正直な子って好きだな、面白いし、この子も結構変わっているような気がする。


「そういや、君って……何年生? 同い年かな?」

「あ、同い年だよ。それに同じ学科で、芸能科。よろしく」

「ほう、同じ学科、という事は、君も芸能界を目指してるんだね?」

「うん、黒関 那智っていうんだ」


……ん? 確か黒関って言うと、あの面白い理事長もそうだったような。


「理事長の子供か何か?」

「……気のせいでしょ」


にこっと笑った彼女の顔には、黒いオーラがあった。


あぁ、嫌いだけど、一応家族かなんかなんだ。面白い、本当馬鹿正直だ。


「それで、新入生組、か。ほかに編入生で芸能科って居るのかな?」

「いや、いないよ、僕等だけだ」

「ふーん……」


あぁ、そうか。

理事長の親戚かなんかにはみすみす手をだせやしないよね。

そうじゃなかったら……あの人と同じように、彼女も崩れているかもしれないもの。


俺は別段、普通の一般家庭の男の子だもんな、いじめの対象にはもってこい、と。


まぁ、みすみすやられないけれど。

寝てしまったのは失態だった。


「あ、君の口からちゃんと名前聞いてない!」

「あ、ごめんごめん。俺の名前は、城嶋 空。えっと、呼び捨てでいいけど……、君の名前は呼び捨てしていいのかな?」

「もちろん!! っていうか、秘密を明かしてしまったわけだから、うん、好きに呼んでいいよ」


あぁ、ちょっとそこがまだ気にかかるか。

俺の方が結構迷惑かけてて、恐れ多いんだけどな。


「ん、じゃぁ、なっちでいい? 那智、って呼び捨ては詰まるから」

「なっち、の方が詰まるでしょ」


笑った顔は、あぁ、女のこだなぁと思わせた。くつくつと笑う様子は女の子そのものだった。


「その笑い方じゃダメだよ、もっと豪快に笑わなきゃ」

「あぁ、ごめん、忘れてた」

「一応、意識があるんなら、それでよろしい」


笑って相手の頭をまた、ぐちゃっと撫でた。面白いようにぐちゃぐちゃになる髪を見て、俺はただ満足げにした。可愛らしい妹分が出来たような気がして、ここでも生きていける気がしたのだ。


可愛らしいその子は、俺の後ろをヒョコヒョコと歩いて着いてくる、悪い言い方で金魚のフンだったが、可愛らしいからアヒルの子供とでも言っておこうか。


まぁ、これから先、ここで何とかいきていけそうな気がするし、

夢に向かって進むことも出来る気がする。


「そういや、なっち、君、寮は……?」

「あぁ、一人部屋だから何も問題ないよ!!」

「……けど、男子寮?」

「まぁ、そこはしょうがないというか……」

「ふぅん……」


ひょこひょこと歩く彼女は、何を思ったのか、俺の横を歩き出す。何か結論がついたのだろうけど、俺の方があんまり納得していないのも事実だ。


「それって危ないよな」

「うーん、ま、危ないけど何とかなるかなぁって」


いやいや、男の怖さを一切解っていないな、この子。どれだけ強くたって男は男だし女は女だから、凄く危険なのに。理性がブチ切れたオスなんてものは、野獣である。


「んー……心配だから、守ってあげるよ、君の事」

「は?」


いきなり言い出したことにとりあえず戸惑う彼女。そりゃそうか。普通そんなこと言わないか。けど、可愛い妹分のためなら何となく、守ってやりたい気持ちになったのだが……? 何か可笑しいのか?


「守る……って僕を?」

「うん、君を。ダメかな?」

「いや、ダメとかそういうのじゃなくて、いいの?」

「いや、単純に、男って守るものがあると強くなるんだよ。だから、って訳じゃないけど、見守ることぐらいしたいなぁ、って。ま、人が守ってやるって言ってんだし、正直にお願いしますって言えばいいんだよ」


何となく恥ずかしくなった気もしたせいか、俺は、相手の頭をぽんぽんと叩いてから、先に早足で歩き出した。何か、結構恥ずかしいこと言ったか、俺。うん、っていうか言ったな。やってしまった……な。あちゃぱー……。


ま、いっか。



後ろを振り返ると未だ、俺の抑えたところを抑えている彼女が突っ立っていた。


俺よりも、こいつの方が変わってるんじゃねぇの、と素直に思った俺は、彼女を呼んだ。


「おーぃ、早く行こう。何ボーッとしてるのさ」

「あ、えっと、うん、ごめん」


イロイロ言っちゃったから混乱してるのだろう、と思う。



まぁ、何とかなるでしょう。


俺の場合はもっと強くならなきゃいけないんだもの、大丈夫大丈夫。


ただ、母親からの電話は程ほどにすればいいだけの話だろうから。






寮へ変える道のりはなんだか華やかで、

これから先、何があったとしても、大丈夫のような気がした――







俺にとっての彼女は、ただの一人の女の子でしかなくて



過去の因縁とか、そういうの、どうでもよかったのにな――







―入学式 Part,2―終了


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