Act,02-偽り・嘘-
―青空学園in理事長室
「待て待て待て糞親父!!!」
「何故、待たねばならぬのだ? 鳴かぬなら殺してしまおう、ホトトギス!!」
「私はホトトギスでもなけりゃ、織田信長を父親に持ったこともねぇぇぇっ!!」
「じゃぁ、いつYESの返事は聞けるんだい、我が娘」
「あんたの娘じゃありません」
「じゃぁ、目の前のレディ」
「うっさいわ、この糞が!!」
怒鳴りつけて、怒り狂って、叫んで。
この繰り返しを先ほどから何度したことだろう。目の前の糞親父に何度腹を立てたことだろう。何で、なにゆえ、こんなにも体力を酷使する必要があったんだ?本当、いらついてしょうがない。
「だから、何で私がそんなことしなくちゃいけないのっ?!」
「んーー……、それはシークレット! 重大シークレットなのだっ!」
「……ねぇ、織田さん、今から包丁で貴方刺し殺していいですか?」
「いやん、やめてよ、娘に殺されただなんてマスコミの餌じゃないかい」
こんの糞理事長め。
本当いらつく。
何の理由もなしになんで、わたしが。あんなことをしなきゃいけないのっ!!
「まぁまぁ、黙って俺のためだと思ってさぁー、その制服着てよ」
「いや。何が好きでアレを着なきゃいけないの?」
「……俺の趣味?」
「殺してほしいの?」
思わず近くにあった花瓶を持ち上げてしまった、あぶないあぶない。本気で殺すことろだった。何も、私がこんな糞を殺してまで刑務所に行く必要なんてないんだから。
「とりあえず、お願いだから着てよ、んで、男のフリ、して?」
「何で。理由も聞かないでしなきゃいけないの? そんなにひた隠しにする程重要な秘密?」
「もち」
言っている事はふざけている、としか思えないのに、この糞理事長、本当に真剣な顔でそれを言う。本当にむかつく。真剣なことを解って、素直にうんと言ってしまいそうな自分も、なおさらむかついた。
「……いつ、その秘密は私にもわかるのかな?」
「来るときがくれば、来なかったら、わからないままだ」
「私が男装してこの青空学園に通っていることで、来るものは来ない可能性のほうが大きいわけね?」
「そういうことだ。よくわかったな、偉い偉い」
よし、このまま行けば何か教えてもらえるかもしれない。
「来るものは……何? 人? 物? それとも私の中の何か?」
「それは、答えられないよ」
少し悲しそうに言う理事長をもう攻めることはできなかった。父親が何を抱えているのかはわからないけれど、私に隠さなきゃいけないことなのだから、私に関係することだという事は、間違いないはずだ。高校入る手前でこんなことになるとは思わなかった。
「……ちょっと待って。私が入るのは芸能科よ? もしかして、芸能界も男で通せ、なんて事は言わないわよね?」
「言うとしたら?」
「……いや、絶対嫌よ。私は女優になるのが夢だって何度言ったと思っているの?」
「ごめん、女優から俳優に夢、変えてみない?」
「嫌にきまってるじゃん。そこに行ってまで隠さなきゃいけないの? 私が変装したり本名を変えたりしたらすむことじゃないの?」
「……それですまない、としたら?」
「……何よ、それっ」
「お願いだから、頼む」
そういって、目の前で土下座をする父親の姿を誰が望んだのだろう。誰が、こんな状況に陥らせたのだろう。間違いなく、私だ。
「……やめてよ、土下座なんか」
「ここまでしないと、お前はやってくれないだろう? だから」
顔をあげようとしない父親に、ただただどうすればいいのか困るだけの私。
けど、考えてみれば、別に面白い事かもしれない。
ただただ秘密が気になるけれど、それはそれ、これはこれだもの。
女優と俳優…。一見違うように見えるけど、やることは同じじゃない。
一応、役者、という事は変わらない。きっと、出来るはず。
いや、出来る
役者を目指す、と思えばいいのよ。そうそう、男女兼用の役者なんてそういないはず。
そう考えれば、凄い高みにいけるのかもしれないじゃない。自分が目指す役者にたどり着けるのかもしれない。あのテレビの中の人たちよりももっと上の技術を……普段から練習するんだと思えばいいんじゃない。
「わかった。やる。やるけど、寮は一人部屋ね」
「了解っ!! ありがとう、那智!!」
土下座した父親は、起き上がって、私の手をとった。
恥ずかしくて手を跳ね除けたけれど、父親がそこまでして何かをしようとしていることは嫌でもわかったから、自分が少しでもそれの助けになるのならば、そうとも思えた。
「今年の芸能科って編入生何人?」
「えーっとな……」
ルンルンの理事長は、自分のデスクを荒らしながら、今年の芸能科高校一年生のリストを出してくれた。
「きっと編入生は君と、もう一人だけだ」
「えーっと、誰?」
「彼だよ、城嶋 空。大阪から来る子。成績優秀者で、入学式のときの新入生代表も彼だ」
「へぇ……」
深い深い青色の目を持った彼は、照明写真ごときの中でキラキラとまばゆく光っているように思えた。なんともいえないオーラがある、とも思えた。黒い漆黒の髪は、肩上まであって、髪の毛もそれなりにいじる、それなりの高校一年生、そういう印象があった。
「……彼なら大丈夫そうだね」
「あぁ、結構精神力ありそうだろう? 芸能科の編入生にもってこいの人材だよ、特に今年は、ね」
「そうだろうね」
見ててそう思った。
彼は簡単に折れるような子じゃない。照明写真の中で此方を向く強い兆しが、凄く目に突き刺さる。強い願望、強い意思を持っている子特有の、目。
彼はそんな目でもって、ここへ向かっている。
この子に会うのは、楽しみだ。
ほかは、どうでもいい。どうせ、ナルシストばかりの人を卑下することしか脳がない奴等ばかりだから。
「……あいつら、毎年毎年ひどくなっていくけど、どうにかならないの?」
「そのために、君を入れる、と言うことも忘れないで、那智」
「そうだったねー……私、小さい頃の芸能科の奴等は大好きだった」
「小さい頃は、じゃなくて、今も、にしてよ」
「できるかなぁ……」
虚空を見つめ、目の前の大きな課題を見て、ため息をつく。
うち青空学園は中等部と高等部の二部に別れ、高等部には、普通科、理数科、芸能科の三つが存在する。そこの芸能科っていうのは、20年ほど前に出来たものなのだが、最近の芸能科は本当変な噂しかない。
たとえば2年前の話だ。
編入生10人を入れたが、内部性のイジメによりほとんどの編入生が退学、又は、不登校になっている。それが何年か前からか常識になってしまい、今じゃぁ、ろくに編入生をとれていない。そして今年はたった二人。私が入らなければ一人だったわけで、本当、ありえない。
それに、来るのは大阪からだから、こんな汚い噂をしらない子なんだろうとも思った。だが、彼なら大丈夫だ。彼なら、ココを生きていける、そう思った。
そう、この強い目を持っている彼なら。
彼の名前でもある、青い空を見て、目の前の道が多少なりと見えてきたと思う。
どうにかして、あいつらの心を立て直さないと。
私は、どれだけ打たれても、大丈夫なんだからっ――。
このときは、この強い瞳を持った彼を誰も疑おうとはしなかった。
だがしかし。
後々、彼の存在がとてつもなく私たち家族にかかわっていることに気付かされることになる。
偽り・嘘。。。終わり




