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ちんこ投げ  作者: 海星
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ちんこ投げ 第六章~飛翔編~

困った。


ちんこを投げられて、女になって途方に暮れているというのも多分にある。


だが、それ以上に今まで行っていた力仕事をこの華奢で小柄な体で出来る訳もなく・・・というか、屈強の男でも音を上げるような仕事を女になった今でも出来る訳がない。


親方には申し訳ないけど明日、退職願いを出そう。


俺は職場に愛着がある。


だから一緒に働いていた仲間に迷惑がかかるのは耐えられない。




親方は「そうか・・・お前は見込みがあると思って目をかけていたんだが・・・残念だな」と言った。


俺だって一生の仕事だと信じて硝子職人を目指していたのに、こんな終わりかたは残念でならない。


「・・・で大きなお世話かも知れないが、お前はこの後どうするんだ?」と親方は言った。


「とりあえず『都立ちんこ投げ女学院高等学校』に進学します。


硝子職人になろうと高校には行かずに中卒で働いていこうと必死で仕事を覚えていた矢先の事なんで、信念も決意も曲げるみたいで嫌なんですが、役所で聞いてきた話によるとちんこを投げられた者は『ちん高』に行くのが義務みたいなんで・・・それに『ちん高』は全寮制です。


入寮者には『衣・食・住』など生活全てが保証されるそうです。


ここで国の方針に逆らって行き倒れるより、国の方針に従って生活の保証を得た方が得策でしょう。


まだそこまでしか考えていませんし、今はまだそこまでしか考えられません」俺は親方に言った。


俺と親方は言葉にはしなくても同じ未来を目指していると思っていた。


親方に、親方とは別の未来の展望を語る日が来るとは・・・。


親方は短く「そうか・・・じゃあ息災でな」と言うと背中を向けた。


俺は仕事場の二階を借り、寝泊まりしていた。


ただ帰って寝るだけのスペースには着替えと布団以外、何の私物もなかった。


皮脂が黒く染み付き、汚れていた布団は親方の奥さんが始末してくれるらしい。


そして、ちんこを投げられて身体のサイズと性別が変わってしまった俺に合う着替えは手持ちの物ではなかった。


親方の娘さんの小学校高学年の服がブカブカだけど、辛うじて着れる・・・という事で、唯一の手荷物であるリュックサックには親方夫婦からもらった娘さんの服だけが入っていた。


俺は本当に娘さんの服をもらっても良いのかわからなかった。


親方の娘さんは第三次世界大戦で戦死したらしい。


一人娘の荷物も部屋も当時のままにしているという意味を考えると、俺にくれようとしている娘さんの服は親方夫婦にとって本当に大切な物だと思う。


「やっぱりこれらの服、俺はもらえません。


もらって良い訳がない!」俺は娘さんの服を親方の奥さんに返そうとする。


「いいの、あなたに受け取って欲しいの。


あの人はあなたの話をする時、楽しそうに笑顔を浮かべてたわ。


あの人が笑うのは娘が生きていた時以来よ。


あなた以外に絶対に娘の服をあげないし、さわらせないわ。


あなたが娘の服を受けとる事に後ろめたさがあるなら一つだけ約束して?


必ずまたここに来なさい。


そしてあの人に『ただいま』って言いなさい」親方の奥さんは服を返そうとした俺に言った。


そして翌日、俺は長年寝起きした仕事場の二階を後にした。


「服と布団の始末を頼んでしまって申し訳ありません。


親方、奥さん、長い間ありがとうございました。


それじゃ・・・行ってきます」


「おう・・・元気で行ってこいよ」


そう言うと親方は背中を向けた。


親方は多くを語らなかったが、その肩は細かく震えていた。


________________________


どうやってたら男に戻れるのだろう?


『クリ拾い』は『ちんこ投げ』と対を為す存在ではなかった。


藁にもすがる気持ちで『クリ拾いツアー』を多くの者が申し込んだが、同じ事を考えた人は多かったようで、『クリ拾い』に向かう観光バスに乗っていた約八割が、『都立ちんこ投げ女学院高等学校』の同級生であった。


おかげでみんなが寮母に栗をおみやげとして持って帰ってきたので、しばらく栗ごはんが続いた。


しばらく『ちん高』では各自の悪足掻きが続いた。


医師や専門家達は「男に戻るのは不可能だ」と言っていたし何より国が女体化に積極的で男性に戻る事を全く研究していなかった。


なので男性に戻る研究は自力で自費を使って行う以外になかったのだ。


だが、医学的にも科学的にも素養のない人間が金を使って自力で何の研究が出来て、どうやって男性に戻れるのだろうか?


しばらくすると諦めて女性である事を受け入れる者が増え始めた。


その諦めこそが政府の思う壺であったのだ。


「女性である事を受け入れれば、こんなに楽しい事が待っている」とあからさまに女性である事を受け入れた者への贔屓が続いた。


女性用水着を着用する者はウォータースライダー付きのプールで楽しい水遊びが待っていて、女性用水着の着用を拒む者は灼熱の暑さの中、隣の水を抜いたプールのプール掃除をやらされた。


こうして無意識に「男に戻ろうとすると地獄が待っている」と生徒達は刷り込まれた。


実際男に戻る方法などはなく、女性である事を受け入れた方が色々と楽なのは国の謀略とは関係なく真実なのだが。



70%以上の生徒は既に高等教育を一度終えており『ちん高』では普通の学問も行われたが「女性としての立ち振舞い」が重要視された。


公立高校なので、それほど校則は厳しくなかったが女性らしさや言葉使いには厳しく、校内や寮内で男性のような言葉使いをしていると正座二時間と反省文を400字詰めの原稿用紙に10枚書かねばならない。


そして全寮制というのが罠だった。


寮の部屋にはそこら中に鏡があり、嫌でも自分が女である事を自覚する作りになっていた。


寮則は緩く、決まった部屋着はなかったが寮母による普段着のチェックがあった。


「以前裸同然の恰好でウロついている人が多くいたので、外を出歩く恰好をチェックする必要がある」というのが表向きの理由で、本音では女性である事を意識させる恰好を寮母はさせていた。


寮母は五年前に『陳投寺』へ行き、住職の丹洪(たんぽん)にちんこを投げられた元文部科学相の役人であり、諏訪湖に丹洪がちんこを投げ込みブラックバスにちんこを食べられた者だ。


寮母は『ちん高』が出来る少し前にちんこを投げられて女性になったが、当時「ちんこを投げられた者を15歳女性として扱う」などの明確なきまりはなかった。


キャリア官僚であった寮母は女性になり、若返った事でキャリア官僚の地位を失う。


そして『ちん高』の前身である『家政予備校』で寮母をしていた。


キャリア官僚をするほどの元エリートで事務処理能力も非常に高く「別に寮母なんてやらなくても引く手数多だろう」というのは自分本人でもわかっているが、官僚をしている彼氏に「お前にしか頼めないんだ」と言われてしまうと、どうしても断れない。


「流されてるな、利用されているな」とはわかっているが、彼氏の困った顔を見ると思わず「今回だけだからね」と彼氏の希望を聞いてしまう。


寮母に色々と相談する生徒達が多いが、実はその相談内容が寮母の彼氏を通じて、文部科学相に全て流れている事は寮母自身も知らない。


「お前は彼氏に秘密を作るのか?」と言われ、相談してきた生徒に申し訳ないと思いつつも、彼氏に生徒達の相談内容を寮母は話している。


寮母は彼氏が出来た事を幸せだと感じていて「生徒にも女性である事を受け入れて、幸せになって欲しい」と真面目に考えているのだ。


________________________


「先生、今日のお料理は何ですか?」


「今日ご紹介する料理はみんな大好き、ちんこの煮っころがしです」


「うわ~、聞いただけでよだれが止まりませんね!」


私はチャンネルを変える。


ちんこマン「いじられすぎて力が出ないよ~」


白くネバついたジャム子さん「ちんこマン、新しいちんこよ!」


このチャンネルもだ。


私はイラついて更にチャンネルを変える。


「今日は大磯海岸の『ちんこ拾い』に来ています!


ここにいる山田さんはちんこ拾いの名人なんですよ~!


山田さん、ちんこ拾いのコツを教えて下さい!」


「新鮮で千切りたてのちんこはまだ生きています。


ですからそういったちんこはピューっと海水を吹くんです。


そういったちんこは食べると美味しいですね」


「ちんこを美味しく食べるにはどうしたら良いですか?」


「ちんこを美味しく食べるために、千切ったちんこは必ず上の口から食べて下さい」


このチャンネルもだ。


どのチャンネルもちんこ、ちんこ、ちんこ・・・国のプロパガンダが行き渡っている。


私はかつて官僚として文部科学相の役人をしていた。


なので、役人達がプロパガンダを撒く手口は心得ている。


きっとちんこ投げは国の重要な国策なのだろう。


そして、この『都立ちんこ投げ女学院高等学校』はその国策を担うモデルケースなのだろう。


そこで私は寮母をしている・・・と。


私に寮母を押し付けた官僚の彼氏には申し訳ないけど、可愛い寮生を守れるのは私だけだ。


私は決意を固めた。

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