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ちんこ投げ  作者: 海星
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ちんこ投げ フィフスチルドレン ~新たなる適格者~

 ちんこ投げは封印だ。


 私は好きになった男性のちんこを投げたくなってしまう。


 好きな男の子をからかいたくなってしまう女の子のようなものだ。


 でも誰も私の事を『ちんこ投げ上手の高橋さん』と呼んでくれない。


 言う訳がない。


 「高橋さんって本当にちんこ投げ上手だな」なんて言ってくれる男性はいない。


 すでに目の前にいるのはちんこを投げられた元男性の女の子なのだから。


 私の恋愛感情が実った事はない。


 ・・・というか、私の好きになった男性で未だに男性である人はいない。


 高校時代好きになった先輩の下駄箱に『放課後、体育館裏で待っています』という手紙を入れて先輩が来るのを待つ。


 そして体育館裏に来た先輩のちんこを投げる・・・私の高校時代のあだ名は「通り魔」だった。


 私は別に見境なく目に入った男性のちんこを投げていた訳ではない。


 私が投げていたちんこは全部好きになった人のちんこである。


 年上好みの私は先輩や先生のちんこを投げまくった。


 見ず知らずの人を路上で刺殺したらそれは重罪である。


 だが見ず知らずの人のちんこを路上で突然投げてもそれは犯罪行為ではない。


 『ちんこ投げ』は元々ロストテクノロジーであり、取り締まる法は今のところ存在しない。


 そのうちに法整備が進んで『ちんこ投げ』にもルールが課されるだろう。


 だが今は少子化が進む現代社会において『ちんこ投げ』は国策として推奨されている行為だ。


 今では信じられないが、歩きタバコやタバコのポイ捨てが許された時代もあったらしい。


 同様に自由に『ちんこ投げ』が出来ない時代もそのうちに来るのかも知れない。




 私は大学に進学した。


 受験生時代に好きになった家庭教師の先生は今は女の子だ。


 私が先生のちんこを投げてしまったからだ。


私が高校時代、ちんこを投げまくっていたのは私が「恋多き女」だったからだ。


「もう二度と恋なんてしない。


私の恋愛は相手を不幸にする」そう心に誓った。


でも恋は交通事故のような物なのだ。


いくら自分が気をつけていても、相手がある話なのだ。


私は学部の先輩に恋をした。


「決してこちらからはアプローチしない」と自分を律していると先輩に北海道旅行に誘われた。


私は天にも昇る心地だった。


私と先輩は道東を回っていた。


普通北海道観光デートと言えば札幌や小樽や函館だろう。


富良野でラベンダー畑を見るのもデートの定番ではあるけれど、もうラベンダーの季節ではない。


私は先輩のこのデート慣れしていない様子も好ましいと思ってますます先輩の事が好きになった。


根室に行った時に昆布漁が行われており、乾燥させた昆布を入れておく段ボール箱に何故かちんこが入っていた。


そのちんこを見て沸き上がってくる『ちんこ投げ欲』を私は必死で抑えた。


その後、私と先輩は知床へ行った。


知床岬に行く方法は二つある。


船で知床岬を目指す方法と、半日ほど歩いて知床岬を目指す方法だ。


私と先輩は歩いて知床岬を目指した。


遊歩道の脇には『熊出没注意』という看板が立っている。


「大丈夫だよ。


騒がなければそのまま熊も素通りするらしいよ。


恐いのは人間に餌付けされた熊が餌を人間にもらおうとして近づいてくる事みたいよ?


熊には絶対に餌はあげちゃダメだけど、もし餌付けされた熊に遭遇した場合は慌てず騒がず持ってきた荷物をその場に置いて熊が荷物に気を取られている間にそっとその場を離れれば良いみたいよ?


だから熊なんて何にも恐くなんてないんだ。


熊に会いたいくらいだよ?」先輩は胸を張って熊に会った時のうんちくを言った。


言葉には力がある。


「熊に会いたい」なんて先輩が言ったせいだろうか?


ヒグマがいた。


しかも、人間に餌付けされたんだろうか?ノシノシとこちらに近づいて来る。


「あ、あ、慌てず、に、に、荷物を置いて、こ、こ、この場を離れよう」先輩が平静を保ったフリをしながら言うが、私も先輩も何も持っていない。


完全に準備不足だ、


熊撃退用のグッズなどは『熊スプレー』『熊鈴』などけっこうある。


遊歩道の脇にだって熊を追い払う『熊ベル』が置いてある。


私達は撃退グッズどころか熊の注意を引き付ける荷物すら持っていないのだ。


後悔してももう遅い。


目の前まで熊は迫っているのだ。


一つだけ熊を引き付ける匂いを放つものがあった。


先輩のちんこだ。


もう迷っている時間はない。


私は先輩のちんこを千切ると熊に向かって投げつけた。


しばらくクンクンとちんこの匂いを嗅いでいた熊は、パクっとちんこを食べた。


「先輩、今のうちです!」私は先輩の手を引くとその場を離れた。





こうして大学に入って最初の私の恋は北の大地で終わりを告げた。


_______________________


無人島にて


「潮の流れでどこかで投げられて海に浮かんでいるちんこがこの湾に集まってくるみたいね」


「これが全部ちんこ・・・壮観だな」


「でもこのちんこのおかげで食べる物に困ることはないわ。


ちんこの皮で着る物も作れるのよ?


そういう意味で、このちんこには感謝しなくちゃね!」


ポジティブに空元気な事を言う女性は元看護師らしい。


「ちんこ投げのプロになりたい」という夢を抱いて看護師を辞めたという。


夢を捨てきれず、パトロンになってくれる金持ちを探してこの船旅を申し込んだらしい。


運悪く船は転覆、ジャーナリストである俺と救命ボートで漂流した後、この無人島へ辿り着いたのだ。


俺はちんこ投げの闇について調べている最中だった。


ちんこ投げを国策にしようとゴリ押しした政治家がこの大型クルーザーに乗る・・・という情報を得て、俺はこの船旅に参加した。


「なぜ国は急に『ちんこ投げ』を推奨しはじめたのか?


そもそも『ちんこ投げ』とは何なのか?


なぜ『ちんこ投げ』は未だに謎に包まれているのか?


なぜ『ちんこ投げ』の謎を解明しようとしたジャーナリストは全員失踪するのか?」


今回、船は謎の沈没をした。


衝突した訳でも座礁した訳でも嵐に巻き込まれた訳でもない。


突然爆発音が船内に響いたと思ったら、すでに船は沈み始めていた。


救命ボートに乗ったのは俺と元看護師の女性だけ。


爆発音を聞いて起きた時には既に船内に残されていたのは元看護師の女性と俺だけだったのだ。


元看護師の女性も匿名の警告で「『ちんこ投げ』のプロを目指すのは諦めろ」と脅しの電話がかかっていたらしい。


「こりゃ『邪魔者は消す』の要領で、消され損なって生残っちまったかな?」俺は呟いた。


俺は元看護師の女性に大型クルーザーが不自然な沈没をした事を言わなかった。


俺は彼女の明るさに救われている部分が大きい。


もし彼女が「自分は国家権力に『必要ない』と判断された人間だ」と知ったら、彼女から明るさは消えるだろう。




俺と元看護師の女性は焚き火を囲んだ。


焚き火には枝に刺されたちんこが焙られている。


ちんこは今晩の晩飯だ。


「・・・ねえ私達、生きて帰れるかしら?」


元看護師の女性が珍しく弱気な事を言う。


「・・・あぁ、帰れるさ、帰れるに決まっている!」


俺は自分に言い聞かせるように夜空を仰ぎながら言った。


__________________________________


 国は『ちんこ投げ』を推奨した。


 全国各地で『ちんこ投げ』は行われた。


 Jリーグのように最初、女性の間で『ちんこ投げ』は大流行した。


 そして『ちんこ投げブーム』が去っても、ちんこ投げは確固たる地位を築いていた。


 そして最盛期で「女性の約70%がちんこを投げた事がある」と女性誌のアンケートが出た。


 国の思惑通り2億人いた日本の人口の約1億8000万人が男性だったが、その後の統計調査では1億3000万人が女性になった。


 男女半々がベストで多少バランスが悪いように感じるが、国の計画では男性は3000万人の予定だった。


 野生動物のハーレムではオスがライバルのオスを噛み殺す事もある。


 だがオスが減るのは種の保存に全く影響を与えないのだ。


 オスなどは近親交配にならない程度の数が残っていれば良いのだ。


 必要なのは子供を産み、種を残すメスである。


 国からしてみると「予定より男の数が減っていない」のであり、「男性の数が減ってしまった」と焦る事は全くないのだ。


 そして『ちんこ投げ』は意外な副産物を産む。


 それは高齢化の歯止めである。


 次々とちんこを投げられた青年、壮年、中年、老年男性は15歳の少女になった。


 つまりどういう事かと言うと問題になっていた高齢化社会がグンと若返ったのだ。


 


 


 だが急な変革は歪を産む。


 夏の暑い時期、オッサンはランニング一枚の裸同然の恰好でブラブラする。


 ランニングを着ていれば良い。


 上半身裸で縁側で涼んでいたりする。


 オッサンは素っ裸で風呂から出て来て冷蔵庫の中の麦茶を一気飲みする。


 パンツをはいていれば良い方だ。


 


 急増した少女たちに国は「裸、もしくは裸同然の恰好で外に出ない事、風呂上りに裸でウロつかない事」という通達を出す。


 だが元オッサンには「ランニングシャツやタンクトップの何がいけないのか?」がわからない。


 「そのランニングシャツやタンクトップは男だった時の物だろう?ブカブカで横から見えちゃいけない物が見えているんだ」そう一人ひとりの少女に言ってまわらねばならなかった。


 元々飲酒、喫煙の習慣があった者

もいる。


 新しく発行された身分証明書に書かれている年齢は「15歳」なので成人の身分証明カードがないと買えない酒・たばこはもちろん手に入れられない。


 ちんこ投げで体内はリフレッシュされる。


 オッサンだった時のニコチン依存症は収まり、タバコは吸いたいと思わなくなっている。


 問題は喫煙ではなく、飲酒である。


 女性でも飲酒の習慣がある人は少なくない。


 ちんこ投げ後、アルコールの許容量は格段に落ちたが、元オッサンの中には「安上がりに酔える体になった」とプラスに考える者も多くいた。


 当然、未成年の飲酒は法律で禁じられている。


 だが昨日まで飲酒OKで今日から突然飲酒NGと言われ、納得出来る訳がない。


 みんなが納得出来ないからこそ、禁酒法があった時代のアメリカでは密造酒でマフィアのアルカポネが勢力を伸ばしたのだ。


 コンビニでは「何で俺にカップ酒を売ってくれないんだよ?」という元オッサンと


 「未成年にはお酒の販売はしていません!


 それとあなた、何でそんな裸同然の恥ずかしい恰好をしているんですか!?


 乙女の恥じらいを持ちなさい!」というコンビニ店員の争いがそこらじゅうで繰り広げられた。





 これではいけない。


 政治家たちは頭を抱えた。


 人口、少子化、高齢化問題は確かになくなるかも知れない。


 でも日本から「乙女の恥じらい」「大和撫子」というものが消えてしまう。


 考えた政治家達は『被ちんこ投げ者高等再教育無償化計画』を衆議院の全会一致で可決する。


 子供は学校で社会生活を学ぶ。


 男子と女子では学ぶ事は違う。


 学校で女性として学んでいない元オッサン達に学校で社会生活を学ぶ機会を与えよう、という計画だ。


 元オッサン達が学校なんて面倒くさい物に通うワケがない。


 高等教育でありながら、ちんこ投げされた者にとっては義務教育である。


 オッサンだった時に中卒で働いていたとしても必ず高校にはいかなくてはならない。


 いや、高校を卒業すれば高校卒業認定資格が無料で手に入る。

 

 本当に文句があるのは「苦労して大学まで出たのに何が悲しくてもう一度高校に通わなくてはならないのか?」という者だ。


 だがそれはどうしようもない。


 ちんこ投げされた者達は決定的に学校で女性として学ぶ社会性が不足しているのだ。


 中卒の者にいきなり大学教育をする訳にもいかない。


 もう一度、中等教育を施すわけにもいかない。


 そして何より、15歳が通う学校という事で高校が一番しっくりくる。





 そういう思想のもと、東京都江戸川区に第一号の『都立ちんこ投げ女学院高等学校』略して『ちん高』が設立される。


 都立高校でありながら制服をデザインしたのは有名デザイナーであり、フェティッシュで女子受けを狙った制服だった。


 「良いなぁ、可愛いなぁちん高の制服・・・


私も着てみたいなぁ・・・」と女子高生達が思い、『元男』という色眼鏡で見られないようにだ。


 だが世間では「そんな配慮をするなら『ちん高』って名前を何とかしろ」という意見が多かった。


 こうして全国に『ちんこ投げ女学院高等学校』は増えていった。


 余談だが近年の研究で15歳未満のちんこは投げれない事が判明した。


 研究者達は「15歳未満のちんこを投げられた者は15歳になるのか?そのままなのか?」と議論をしていた。


 結論は「15歳未満のちんこは深い木の根のようなものがはっており、抜く事も千切る事も出来ない」だ。


 なので、15歳未満では男子の数は多く、男子校が必要なくなった訳ではなかった。


 『ちんこ投げ女学院高等学校』は少子化の影響で廃校になった小学校、中学校、高校の跡地に作られた。


 将来的に足りなくなるかも知れないが、今のところはそれで『ちん高』の数は足りている。

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