ちんこ投げ サードストライク ~背水の逆転劇~
「おじいちゃん、まだ逝っちゃダメ!」
「ワシも274歳か・・・大往生にも程があるじゃろ・・・。
ひ孫を老衰で見送ってきたんじゃ。
むしろ『何でお前まだ生きてるの?』ってもんじゃろ。
もう逝かせておくれ・・・」
「先生!おじいちゃんを助ける方法はないんですか?」
「医者が手を出せる部分が一切見当たりません。
彼にどこも悪い部分はないのです。
この歳まで足腰が丈夫で走り回っていたなどというのは脅威を飛び越えて化物じみています。
内臓も健康そのものです。
今回機能的に問題が出たのは心臓のみです。
でもそれは普通の事です。
『おじいさんの時計』と一緒で古くなったら当たり前に心臓は止まるのです。
今まで心臓が動いていた事の方が異常なのです。
もう本人の意向通りに安らかに逝かせるべきだと思います。
・・・ただ、一つだけ彼を生き延びさせる方法もあります。
お薦めは出来ませんが・・・」
「おじいちゃんが生き延びるんであれば、例えどうなろうともかまいません!」
「・・・わかりました。
では彼に『ちんこ投げ』の施術をしましょう。
彼の性別は女性に変わりますが、15歳に若返った彼が寿命で死ぬ事は無くなるでしょう」
「・・・待って下さい。
男性ですら274歳まで生きたおじいちゃんが男性より寿命が長い女性になったとしたら・・・」
「何があるかわからないので確定的ではないですが、単純計算してあと300年は生きるでしょうな」
「遺言を死ぬ前に良いように書いてもらおうと思ってたけど、延命どころか私より長生きするじゃないの!
『ちんこ投げ』は中止よ!」
「もう遅いですな。
彼のちんこを投げようと女性看護師達がすでに彼の股間の前にスタンバイしています。
今から彼女達にちんこ投げの中止を伝えたら暴動がおきますよ。
最悪、私のちんこを彼女達は投げようとするでしょう。
そうでなくても隙あらば彼女達は私のちんこを投げようとしているのです。
まさかちんこを投げられない為に貞操帯を着用するはめになるとは思いませんでした。
お陰で不倫は出来ず、夫婦円満ですが・・・。
コホン、話は脱線してしまいましたな。
では『ちんこ投げ』の施術を開始します」
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この世に科学で証明出来ない事はない。
オカルトなどは現実にはないのだ。
「幽霊の正体見たり枯れすすき」などと昔から言われている。
火の玉の正体はリン光、UFOの正体はプラズマなのである。
『ちんこ投げ』は「古来からの神秘」と言われている。
俺は『ちんこ投げ』を必ず科学的に証明する。
山倉長十郎の名にかけて。
因みにじっちゃんは山梨で葡萄農家を営んでおり存命だ。
「三郎や、もうワシの名に勝手にかけるのはやめておくれ。
ワシの知らないところでワシはオカルト研究家に毛虫のように嫌われておるそうじゃ。
こないだ葡萄狩りに来た、オカルト大好きの娘さんに唾を吐きかけられて初めて三郎がワシの名にかけて『オカルトなんて存在しない』と公言していると知ったんじゃ。
今年出来た葡萄を送るな。
今年は台風の影響で葡萄は不作じゃったが、無事だった葡萄は甘く出来が良いと評判なんじゃ。
三郎も大学での研究ばかりじゃなく、そろそろじっちゃんに孫を抱かせておくれ。
追伸、飼っている犬が三匹子犬を産みました。
かわいいので一度見においで。
長十郎」
俺はじっちゃんから送られてきた小包に添えられていた手紙を読んで決意を新たにした。
友人からは「何で決意を新たにしちゃうかな?
じっちゃんは『やめておくれ』って言ってるんだろ?」と言われたが・・・。
本当に行間の読めない連中だ。
この手紙から滲み出る「孫を応援する祖父の気持ち」を読み取れないとは。
「お前って『目に見えない物は信用しない』って言ってオカルト否定してるわりに実際には見えない行間を読み取るのは否定しないのな」などと友人は言うが何を言っているのか本当に理解できない。
言わなくてもわかるのが日本語の美しさだろう。
オカルトを否定する事と日本語を否定するのは同義ではない。
「君と出会えた奇蹟がこの胸にあふれてる。
きっと今は自由に空も翔べるはず」
実際に恋人に出会った者が舞空術を獲得する訳ではないのだ。
実際の文が真実である保証などは全くない。
なので俺は行間を読み取る事を否定はしない。
週刊誌が対決を煽る。
『オカルト完全否定大学教授vsカリスマちんこ投げ女性』
女性は熟練のちんこ投げの経験者であり、今まで数多くのちんこを投げてきた者ではあったが「カリスマ」ではなかった。
対決にあたって、雑誌の編集部が作り出した女性の「肩書」であった。
この時、俺は「カリスマはメディアによって作られる」と言う事を知った。
俺は女性と向き合った。
彼女は看護師であるらしい。
女性は居心地が悪そうに「私は何をすれば良いのですか?」と言った。
「そんなに緊張しなくてもかまいません。
俺の目の前で『ちんこ投げ』を見せて下さい」俺は女性に向き直り言った。
心の中で俺は「見せられるものならな」と付け足した。
超能力者も「目の前で能力を見せろ」と言うと、言い訳がましく「今日は調子が悪い」などと言って対決から逃げるものなのだ。
今回もこの女性は「調子が悪い」などと言って対決を避けるだろう。
・・・そう思っていた。
女性は「わかりました、ではあなたのちんこを投げます」というと俺のちんこを投げた。
窓から投げられたちんこは隣の食品工学部の研究室に置いてある「ソーセージ製造機」の肉を挽肉にする工程のところまで飛ばされたようだ。
製造されたソーセージは大学の購買で安価に売られ、貧乏学生の強い味方となっている。
成分表示一覧には「合挽き肉」と書かれている。
何の合挽きであるかは詳しく書かれていないが、牛肉と豚肉とちんこの合挽き肉であった事は買った学生は気付いていただろうか?
じっちゃん・・・孫は俺が産まないと見せられない事になっちまったよ。
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単なる私のジャーナリストとしての知的欲求である。
決して『ちんこ投げ』の存在を疑っている訳ではない。
どういうメカニズムであるのだろうか?
モロッコなど海外で男性器を切除してしまう人も過去には数多くいた。
地方に行くと、温泉宿でタイのニューハーフショーが開催されており、信じられない事にそのニューハーフショーが地上波のCMになっていたりする。
それほどまでに男性器を切除したニューハーフは市民権を得ているのだ。
だがそれと『ちんこ投げ』は明らかに違う。
海外で男性器を切除した人は「男性器を切除した男性」であるのに対し『ちんこ投げ』でちんこを投げられた人は「ちんこを投げられ女性になった元男性」なのだ。
男性器を切除した者は「女性になりたいという強い願望がある者」が多いのに対し、ちんこを投げられた者は女性になりたかろうがそうじゃなかろうが否応なしに女体化する・・・という特徴がある。
性転換した者とちんこを投げられた者の明らかな見た目の違いとは、喉仏があるかないかである。
いくら男性器を切除して豊胸手術をしてヒゲを永久脱毛したとしても、絶対に隠せない部分が『喉仏』なのである。
ちんこ投げで生まれた女性は遺伝子研究で性別が変わった元男性本人である事は認めざるを得ない。
今まで言われていた『性転換』とは明らかに質が違う『性転換』が存在する事も認めざるを得ない。
だが納得出来ない事がある。
「『ちんこ投げ』でちんこを投げられると何故女性に変化してしまうのか?
『ちんこ投げ』とは一体どういうメカニズムなのか?」
今まで『ちんこ投げ』の現場は花嫁修業の一環で、男子禁制とされてきた。
男性がちんこ投げの秘密について語る事はタブーとされ、そのメカニズムはちんこを投げられた本人ですらわからなかった。
もちろん『ちんこ投げ』を行っている女性はそのメカニズムを理解しているし、逆に「『ちんこ投げ』のメカニズムを知らないとちんこは投げられない」という。
私は『ちんこ道本家』という深窓の令嬢が花嫁修業をする時に訪れる道場を訪れた。
茶道が『千家』『裏千家』に別れているように、ちんこ道も『本家』と『裏筋本家』に別れているという。
「ごめんください」
「ちんこがあるものがこの由緒ある『ちんこ道本家』の敷居を跨ぐとは何事ですか!?」
現れた『ちんこ道家元』はそう言うと、私のちんこを投げた。
「達人は保護されている」などと有名な格闘技漫画で言われているが、 達人が達人と呼ばれているのにはやはり深い理由があるのだ。
私はちんこを投げられた事にその場では気付かなかった。
なので私はちんこを投げられた瞬間をシャッターにおさめる事をすっかり忘れていたのだ。
私はジャーナリスト失格だ。
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「趣味はひとり旅だ」
それは彼女のいない者の悲しい言い訳かも知れない。
俺だって彼女がいたら一緒に旅行に行っていたかも知れない。
でも彼女がいないからこそ、一人で旅行するしかないのだ。
だが、一人旅には一人だからこその気軽さもある。
「今日は疲れが溜まっているから、午前中は宿泊先の旅館でゴロゴロしよう」なんて判断は同行者がいる旅行ではけっして出来ない判断だ。
「この旅館、食事も美味しいし眺めも最高だな~。
もう一泊しようかな?」などという急遽の予定変更も一人旅では同行者に配慮する必要はない。
若い時はもっとアグレッシブに旅行を楽しんでいたが、最近ではもっぱら温泉宿で温泉に浸かっている時間が長くなった。
今回もこの諏訪湖を一望できる温泉宿へ一人で来たのだ。
温泉と言えば、繁華街に必ずと言って良いほど、風俗街があるものだが、寂れた温泉にいる風俗嬢など若い娘を望める訳もなく、それより何より俺は「色気より食い気・・・食い気より温泉に来たならのんびりと休みたい」という考えの持ち主だった。
友人達は俺の事を「枯れている」「ジジくさい」などと酷い事を言ったが一度風俗に行かないだけで、近場で一泊旅行が出来るのだから、旅行好きとしてはその費用は節約したい。
何に価値を見出だすか・・・の違いでしかないと俺は思う。
「ようこそおいでになりました」女将は愛想良く言う。
美しい女将だ。
こんなひなびた温泉宿の女将をやらせておくにはもったいない。
「この温泉宿の周りに観光出来る場所はありますか?
基本的に温泉目当てで来たんですけれども、一日中温泉に浸かっている訳にもいかないですし、せっかく旅行に来たんですから観光地にも行こうと思っているのですけど・・・」俺は女将に聞いた。
思いついてすぐに行動に移した一人旅だし、最初からプランは立てていない。
そして何より、宿で地元の人にオススメの観光地を聞こうと思っていたのだ。
「諏訪湖のほとりには『千人風呂』と言われる大きな温泉があります。
でも温泉ではなく純粋な観光地をお探しですよね?
信州そばのそばうち体験も人気はあるんですが、そばうちは体力を使うんですよね。
ゆっくりと温泉に入って休まれるつもりの方向けではないように思います。」
そうだ!『陳投寺』に行かれてはいかがですか?
『陳投寺』は歴史ある尼寺です」女将は親身に考えてくれているようだ。
「『陳投寺』ですか。
聞いた事があります。
俺みたいな歴史音痴でも聞いた事があるくらいだ。
有名な尼寺なんですね。
でも大丈夫なんですか?
尼寺と言ったら普通男子禁制ですよね?」と俺。
「『陳投寺』も男子禁制の尼寺です。
ですので男性の方が『陳投寺』に行かれる前にここにちんこを置いていっていただくのです」女将は『ちんこボックス』と書かれた『貴重品ボックス』の隣の箱を指差した。
温泉に入る時、持ってきた貴重品や財布を『貴重品ボックス』に入れ暗証番号を設定するのだ。
正しい暗証番号を打ち込まないと『貴重品ボックス』は決して開かない。
だが、その隣にある『ちんこボックス』とは一体何だ?
「勉強不足のせいか、俺はその『ちんこボックス』という物を知りません。
そもそもちんこは着脱可能な物なのでしょうか?」俺は女将に尋ねた。
「いいえ、千切ったちんこは二度と体にくっつく事はありません。
ですが心配しないでください。
千切られたちんこは普通投げられ消息不明になる事が多いのですが、この宿では千切ったちんこは投げず『ちんこボックス』で大切に保管いたします。
この宿の特別サービスとして、希望者のお客様には無料でちんこをブローチに加工しています。
ですので是非ご安心してわたくし共にちんこをお預け下さい」
そう言うと女将は俺のちんこを千切って微笑んだ。