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空帝遺物  作者: 水芦 傑
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管理局長、バーバ

「速やかに、検査場へと移動してください!」

 拡声器で声量を大幅に増幅された声は、ドナサン達が乗る雲艦に響き渡るほどだった。渡航場は既に雲艦の姿が殆どなく、ドナサン達の雲艦だけが取り残されている。

 その雲艦を囲むように大勢の人たちが雲艦を見上げていた。

「大丈夫かな?兄貴達…」

 珍しく心配そうな表情を浮かべるニルをシロネが優しく包み込む。

「大丈夫よ。ヴァナさんたちはきっと何とかしてくれるはず」

 根拠のない言葉ではあったが、ニルを笑顔に戻すには十分すぎるものだった。

「そうだよね!兄貴達が捕まったりすることもないよね!」

「僕はレッシュが心配ですがね」

 マクロノが会話に割って入ってきたのだが、表情は心配しているようには見えない。

「まあ、必要があれば、その時は僕が暴れるから心配ご無用だよ、こっちは」

 寧ろ、暴れさせてほしい、そう言っているようにしか聞こえなかった。

「皆、振り落とされないように捕まっていてくれ」

 簡易操縦席に座るドナサンがゆっくりと雲艦に命を吹き込んだ。雲艦がうねり声をあげ、起動する。

 各自は近くにあった何かにしがみついた。

「全速力で行くぞ」

 ドナサンの言葉に呼応するように、ゆっくりと雲艦が浮き上がる。

「聞こえているのか!!聞こえているなら答えなさい!!」

 拡声器の声がドナサンの耳には届いているが、それを意に介することはない。

「ドナサンがんばッ!」

 ニルの陽気な声に、ドナサンは頷くことだけで答えた。

 完全に地上との距離を取った雲艦は、まるで放たれた砲弾のように一気に渡航場から上空へと飛び上がっていった。




―――――――――――――――




 圏境管理局 監視統制室


「バーバ管理局長!」

 監視統制室に飛び込むように入ってきた男は息を切らしていた。それほどまでに重要な報告があった。

 監視統制室には数十名の職員が机に向かい、仕事に勤しんでいる。また目線より上の高さの壁には無数のモニターが掛けられており、三方がモニターに囲まれている。

 無数のモニターが映し出すのは管理局内の映像だ。それを監視し、トラブルに対処することこそ、ここの存在意義であると言っても過言ではないだろう。

 数百にも及ぶ監視カメラが管理局内の映像を逐一この場に運ぶことで、ネズミ一匹でさえその動向を追える程の監視体制がここには敷かれていた。

「報告です!」

 息を切らす男に対応したのは四十代ほどの彫の深い顔立ちをした低身長の男だった。

「それが、個人雲艦がこちらの指示に従いません!そして、その個人雲艦の所有者の二人組が管理局内を暴れ回っています!」

 報告には少しの誇張も含まれているが、男の報告に間違いはなかった。それでも管理局長、バーバは呆れた顔で掌をひらひらとさせた。

「まったく、使えん男だな。そんなことはこちらでも把握している。もう下がれ」

「すみません。了解しました」

 罵倒されたが、立場上言い返すことができない男は指示された通り、監視統制室を後にした。未だ、それほどの事態に陥っていないのにも関わらず、男があれほど慌てていたのはバーバの機嫌を損ねないためだったのだろうか。

「おい」

 バーバは目の前にいた男に声を掛けたが、それ以上何かを発することはなかった。

「はい?」

 男は返事をしただけなのだが、それでもバーバを失望させるには十分だった。

「すぐに映像を出します!」

 怪訝な顔をする男の隣の男がバーバの真意を汲み取り、すぐに映像を展開させた。バーバの正面には他のモニターとは違い、一際大きいモニターが四つ設置されていた。

 そのうちの二つに、それぞれ渡航場の様子とヴァナ達の様子が映し出された。ヴァナ達の方の映像は目まぐるしく視点が変えられ、その様子を正確に捉えていた。

「情報を」

 やはり、バーバの言葉足らずだったが、失望させた男が今度はその少ない情報をしっかりと読み解き、更にもう一つの大きなモニターにヴァナの上圏履歴の情報を映し出した。

「六人で上圏か…しかし、あの女…どこかで見たことあるな…」

 ヴァナ達が走る映像を凝視し、バーバは記憶を辿っていた。そんな時に渡航場の映像に変化があった。

 先ほどまでは映っていた雲艦が一隻、その姿を消した。

「面白い。逃げられるとでも思っているのか」

 退屈しのぎにはなりそうだ、と小さく呟いたバーバは誰ともなく、近くの男達に指示を出した。

「軍用雲艦を十隻、出撃させろ」

「はっ。ですが、現在軍用の雲艦がすぐに出せるのは五隻ほどです。残りは整備中であり、乗組員の確保も…」

 言い訳、というわけではなかったのだが、事実を述べただけの男はまだバーバの性格をよくわかっていなかった。

「だったら、今すぐ整備をやめさせろ。乗組員どもを叩き起こせ。それくらいも指示がないとできんか?」

「はいッ。申し訳ありません」

 バーバの指示通りに、男は仕事を始めた。

「それと、局内の兵士を増員させろ。私は少し気になることがあるから、出る」

 それだけを言い残し、バーバは監視統制室を後にした。

 緊急事態は未だ変わらないのだが、バーバがいなくなったことで監視統制室内の緊迫感が少し緩和されたことは言うまでもないだろう。



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