メリーブラッククリスマス! 今年もサンタから子供達を守ります!!
ーーサンタの住居、部屋にはいくつもの巨大な水晶が。水晶には眩い光で照らされたクリスマスイブの街並みが映し出されている。
和気あいあいとはしゃぎ回る四人家族や、高校生カップル、様々な人々が笑顔で作られた光の下を歩いている。
「フォフォフォ、そろそろ準備に取り掛かるかの」
重い腰を上げ水晶の部屋を後にする。ソリを表に出し、巨大な白い袋を乗せ二匹のトナカイを繋ぐ。
一年に一度の大仕事、プレゼント配りが始まろうとしていた。
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「むう、いよいよ始まるか欲望の奴隷共め。今年こそ全員止めてやろう」
部屋にはたった一つの巨大な水晶。そこには明るい街などなく己の敵の姿が映っていた。
黒い袋と白い袋をソリに乗せ、大きいトナカイを一匹繋げる。巨大な水晶もしっかりとソリに固定されている。
「えいや!」
掛け声と共にムチを振るう。トナカイは駆け出した。地面を踏み締めるように空中を駆けていく。
お伽話の白い髭を生やした老人の容姿とは似つかない木こりの様な風貌の老人が星々の下を駆ける、自らの過ちから子供達を守るために。
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「よいせ、行こうか」
ムチを優しく振るう。二匹のトナカイは空を駆ける。白い髭を生やしたお伽話から出てきた様な老人をソリに乗せている。世界を救済する、その一心で起こった過ちの残留思念。
これはサンタとブラックサンタの人々の救済の物語。すべての始まりはイエス・キリスト、彼の数奇な運命が起こした最初で最後の過ちだった……
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「よいさ、よいさ、願いを叶えましょう」
白い髭を生やした老人はソリの上から白い袋の中身である光の粒を街にばらまいていた。
いい子が寝付いた深夜。その光の粒は健気にプレゼントを期待する子供達の元へ吸い寄せられ子供達の体に溶け込んだ。
「この地域も終わりかな、イエス・キリストの御加護があらんことを」
次の願いを持つ子供達が待つ街に向かいソリを走らせた。滞在時間は半刻、全ての子供達の元へと駆けつけるためにムチを振るった。
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「間に合わなかったか! 急ぐぞ!」
荒々しいムチの振り方でトナカイを鼓舞する。それに応えるようにトナカイも速度を上げた。
木こりの様な老人が到着したのは白い髭を生やした老人がその街を発ってから十分。着々と距離を詰めている。しかしそれでも既に五カ国にも及ぶ地域がその被害を知らぬ間に受け、願いを叶えていた。
「追いついたぞ! こんなことは止めろ!」
光の粒が天を舞う街の上空で二人の老人は対峙していた。
「フォフォ、サンタを邪魔する無粋者よ、今年も来たのですか」
白い髭をさすり口元は笑っているがその目だけは全く笑っていなかった。
「ブラックサンタ、貴方が何者であろうとその存在を子供達は望まないのですよ」
「お前は間違いを起こし続けている」
そう、過去の過ちの災厄が二千年後のこの世界で振りかかろうとしている。
「フォフォフォ! サンタ! 子供達の望みを叶えるこの存在に間違いなどありません!! それを邪魔する貴方こそ存在そのものが間違いなのです」
『望みを叶える』この魔法のような言葉。
誰もが望み羨む物があるだろう。それを努力無しで手に入れることが出来る。
(それこそがクリスマス、私の存在意義!)
「消えてもらいますよブラックサンタ! 去年のサンタとは一味違います!」
「我が子よ、それが間違いだということになぜ気付かない。クリスマスはそんなものでは無い」
「何を言いますか! 我等が父、イエス・キリストの生誕祭。神の子であるあの方の願いこそ人類の救済! 我等がそれを叶えるのです、あの方が私達の願いを叶えてくださったように!!」
「ああ、悲しき我が子よ。全ては私の過ちが原因、全てを還してやろう」
白い髭を生やした老人は自信が信じる力の現れである白い袋を、木こりの様な老人も己が信じた力の現れである黒い袋を互いに向けあった。
「消えろ消えろブラックサンタ!」
光の放流が木こりの様な老人を襲う。
「欲望の奴隷共よ! 楽になれ」
努力。それは時に神の力さえも押さえつけ、予想外の結末をもたらす人類最大の力だ。
二つの力が交差する時、二千年前の真実が語られる。
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二千年前ーーエルサレム
人々は悲しみの渦に飲まれ、ある墓の前で何千、何万という数の人々が涙を流し続けていた。
原因は数日前のある人物の処刑だった。神の子と謳われたイエス・キリストが処刑されたのだ。教祖ともなる彼の死を乗り越えるのは並大抵のことではない、人々は神の子の力を信じ彼が神の力で蘇るその事だけを望んだ。
その光景を天から見ていたイエス・キリストと神は難しい顔をしていた。
「お主の死は文明を衰退させかねんな」
「しかし死とは平等に訪れるものです。残された人々はこれを受け入れ前へ進んでいくべきです」
とは言ったもののあまりにも地上は悲惨だった。
「ではお主に神霊となる資格を与える。この時代を正しい方向に導いてくれ」
「分かりました。神よ感謝します」
こうしてイエス・キリストの有名な逸話、再誕が実現されたのである。
神霊として地上に降臨した時の信徒達の表情、その喜びようは今でも覚えている。その喜びに当てられイエス・キリストは一つの過ちを犯した。
それは神霊の力を使い全ての願いを叶えていったことである。信徒達は願うことだけが生きていく中で必要なこととなった。その過ちにイエス・キリストが気づいたのは再誕してから四十日後だった。
イエス・キリストは別れを告げひっそりと人気が全くない森から彼らを見守った。案の定、神を崇めるキリスト教は続きそのお陰もあってか文明が衰退することはなかった。しかし一度神の奇跡に触れたものは堕落し、努力を忘れその生涯を終えていった。
あまりにも強いその願いは霊となってこの世界をさまよっていた。そして約一万の欲望に飢えた霊が集まりこの世に顕現した。
これが望みを叶える存在、サンタクロースの誕生である。
そしてイエス・キリストは己の過ちの尻拭いをする為に立ち上がった。約一万、全てのサンタクロースを消滅させるには毎年一度、これを一万年繰り返すしかない。
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聖夜の星々が輝く空の下でまた一つのサンタクロースが打倒された。しかしブラックサンタとて鬼ではない。
願いを叶える努力、日々の頑張りの御褒美として小さな喜びを…明日からの努力を支える喜びを全世界の子供達に届ける。
ーー昔話はこれで終わり。今年も子供達の枕の側にはプレゼントが届けられていることだろう。その影には努力を願う一人の老人がいた事を忘れてはならない……