人生の息抜きに珈琲はいかがですか?
これを読んで少しでもコーヒーに興味を持っていただければ嬉しいです。
梅雨入りが発表されてから3日が経過した。
肌にまとわりつくようなジメジメとした湿度にもいい加減慣れ始め、今年買ったばかりの雨傘が早速与えられた仕事にびしょ濡れになりながら喜んでいる今日この頃。
窓からの景色だけは良いと認めているこのアパートに住み始めて早2年……仕事にも少しは慣れて、毎日のような満員電車での戦いでは女子高生の少女を痴漢と人込みから守る騎士になったりと、中々にエキサイティングな日々を送っている私だが、
「これがなきゃやってられないよねぇ~」
ここで、決っしてお酒ではないことを明記しておこう。
ゴリゴリと、冷凍庫から出したコーヒー豆をミルに入れて手動で挽いていく。これが案外力仕事で、女の私にとっては中々に重労働なのだが、豆が挽かれる音と共にコーヒー特有の香ばしい香りが鼻腔を刺激すると、そんな苦労は惜しくないと思えるほどの多幸感に包まれるのだ。
豆を挽き終わると、あらかじめ用意しておいた円錐形のドリッパーに投入する。少し左右に揺すり、粉の表面を平らにしたらいよいよドリップ開始です。
粉の中心にポタポタとお湯を注いでいくと、ムクムクと泡が出てきます。これは豆が新鮮で良い豆である証拠です。
近くにある喫茶店で豆のまま買っていますからね!
おっと、そんなことを思ってる内に"蒸らし"が終わっていましたね。この"蒸らし"の行程がコーヒーをドリップする上でとても重要で、多くの人がこれを行わないことで失敗しています。
蒸らす時間は25~30秒ほどが良いとされていて、これをすることでコンビニに売ってるコーヒー(粉)でも、ある程度美味しくなります。
ポタポタとゆっくり注ぐのは最初の3回までで、それからは時間を見ながらそれに合わせてお湯の注ぐ量を調整しながら抽出していきます。私の場合は一人なので、30gの粉を300mlのお湯で3分かけて抽出します。これで大体大きめのマグカップ一杯分くらいです。
目的の量まで抽出したらドリッパーから溢れるギリギリまでお湯を注ぎ、すぐにドリッパーをサーバーから取り外します。こうすることでエグ味の少ない美味しいコーヒーが出来上がるのだ。
「よし、できた。あとは……」
そして私は、あらかじめお湯で温めておいたいつもと同じマグカップに、淹れたばかりのコーヒーを注ぎ、引き出しに入れてあるキット◯ットを一つ取ると窓際の近くにある座椅子に腰を下ろした。
窓の外では相変わらず雨が降っている……でも私は、そんな雨の日の音が好きだ。
ザァー、という雨音に紛れて遠くから電車の走る音や、車のクラクションの音が不思議な調和となり、心地よい旋律となって耳にとどく。
「ズズズッ……美味しい」
カップに口を近づけ、一口啜る。
このコーヒーならではのフルーティーな酸味の後から、チョコレートのようなまろやかな苦味が口一杯に広がる。
「ほぅ」
そして一息。
この瞬間のために今日という日を生きてきた……そんなことを本気で思ってしまう。
そしてキット◯ットを食べる。
サクッ、とした食感を邪魔することなく優しくまろやかなミルクチョコレートの甘味がサクサクを包み込んで、口の中で一つのハーモニーを奏でる。
「はぁ~……幸せ」
ふと、珈琲についての名言を残したフランス出身の政治家、ターレラン=ペリゴールの言葉を思い出した。
『よいコーヒーとは、悪魔のように黒く、地獄のように熱く、天使のように純粋で、愛のように甘い。』
この言葉を思い付いた時の彼はきっと、今の私のような気持ちだったに違いない。
いまだに鳴りやむ気配のない雨音に耳を済ませて、私はまた一口コーヒーを啜るのであった。