二周り
かごめかごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
夜明けの晩に
鶴と亀が滑った
後ろの正面だあれ?
「…かーごめかーごめ…」
辺りにかごめ唄が響きはじめ、かごめかごめが始まった。
「かーごのなーかのとーりーはー」
「いーついーつでーやーるー」
「よーあーけーのばーんーにー」
「つーるとかーめがすーべったー」
「うしろのしょーめん」
「だーあれ?」
唄が終わった。だが、どうすればいいのか、分からない。このまま誰かの名前を口にすべきなのか。だが、口にして、もし、実際に何かあったら。何かあってしまったら。それなら、何も言わずに、黙っていた方が良いのか?いや。それも何かある気がしてならない。Aだけでない。皆、その事を思案しているようだった。そして誰もが、静かに、だが確かに、少しずつ、恐怖に蝕まれていた。誰もが、この身の保障の無い遊びをしてしまったことを、後悔していた。
暫く、沈黙は続いていた。だが、
「H」
重く、だが鋭く張り詰めた空気に、その一言は響いた。輪の中に居たAの、乾いた口から、精一杯の、掠れた声から発せられた名は、「H」だった。
言ってしまった。この時、Aは後悔と罪悪感を覚え、身動きができなかった。いや、正確には、身動きを取りたくなかった。後ろに居るのが誰なのか、振り向き、確かめることなど、とてもできなかった。「言ってしまった!」「答えてしまった!」「何かあるのかもしれないのに!」「皆に何かあるのも知れないのに!」「Hに何かあるのかもしれないのに!」「俺に何かあるのかもしれないのに!!」Aの声にならない、声にできない叫びであった。
Aだけでない。誰もが、言ってしまった、と、思っていたであろう。誰も何も言わない。そんな静かな時間が流れてゆく。いや。時間すら、全てが停止したかの様な空間。ただそれだけの世界が、そこにはあった。
誰かの名を口にすれば何かありそうで、かと言って、誰の名も口にしなければそれも何かありそうで。その様な状態だからこそ、皆、Aの行為が、そして言葉が、異様な程に気になったのだ。
しかし、暫く、皆、様子を伺っていたが、何事も無かった。だが。一つの恐怖の終わりと共に、また新たな恐怖が浮かび上がってくる。すなわち、Aの答に答えるか、否か。
心の奥底から、さらに、滲み出てくる恐怖。再び、恐怖に蝕まれてゆく。おそらく、誰もが精神的疲労を感じているであろう。
その時であった。
「は…」
それは微かな声であった。しかし、確かに皆に聞こえた。全員の意識が、声の方へと向けられる。
「はず…れ…」
Iであった。