初☆デート
わっほ~い、夏休みだ!! マイスイートエンジェル夏休みだ!! テンション上がるな、コノヤロー。でもやっぱ私ら受験生だからね。そんなウカウカしてられんのです。なんたって受験生だもんね。なんちゃって受験生じゃないよ!!
それでその空気に便乗して私もお家で大人しくお勉強していたのですが、楓から呼び出しが。久しぶりだなぁ。一週間ぶりくらい? 一週間も会ってないとメチャクチャ久々な気がするな。と思って待ち合わせの喫茶店で楓を待っていたら、なぜか広田くんも一緒に楓とやってきた。
「久々美、久しぶり」
「よぉ、元気だったかー?」
「二人とも久しぶりー。元気ありあまっちゃってるよ! 最近家にこもりがちだったし」
あははー、と笑うと向かい側に座った二人は不思議そうな顔をした。なんだ!! なんなんだ、その顔は!? お家で勉強してちゃダメなのか? のか!? 私、受験生なんだぞ。実はまだ進路決まってないけど受験生なんだぞっ!!
って言ったらまた溜め息吐かれそうだなぁ。
「アンタ、東雲とは会ってないの?」
「え……? うん、でも毎日メールはしてるし、たまに電話もするよ」
「まぁ、素敵。……じゃなくて、デートもしてないわけ?」
「そうだね。二人とも忙しかったから」
あ、言ってたらなんか会いたくなってきた。別にさっきまで会いたくなかったわけじゃなくて、本当のこと言っちゃうと常に傍にいてお話ししていたいくらいなんだけど、それよりもっと会いたくなってきた。でも用事もないのに呼び出すのは申し訳ないし、ウザイだろうし。
楓は私の前に二枚の紙切れを出してきた。広田くんがその隣でニヤニヤしている。ってか、コレ!! え、うそ、コレ!! いいなぁ、欲しいなぁ……。東雲くんと行きたいなぁ。
「あんたたち隣の家なんだから、それを最大限に活用しなさいよ。これ、あげるわ」
……へ?
「デート、してないんでしょ? 二人で行ってきたら?」
「……えぇぇぇぇ!?」
何言ってんだ、こいつ!? あげるって!! そんなコレって、一介の高校生がほいほい人にあげられるものじゃないんじゃ……。それをあげるって、奥さん!! で、でも、東雲くんと……。
「東京ドリームランド……」
「そ、ドリームランド。行くでしょ?」
「え、いや、でも、それ高かったんでしょ? もらえないよ」
「高かねーよ。福引だもん、な?」
「は?」
「この前和哉と買い物してたときにもらったのよ。でも私たち、この日は二人とも別で予定入ってて行けないから、アンタたち代わりに行ってきて」
楓は私に無理矢理チケットを握らせて、ニコッと笑った。あぁ、東雲くん、どうやって誘おう……。
ってなわけで、今日は東雲くんを誘ってデートです。初めてのデートでドリームランドって、けっこう豪華だと思うんだけど、どうなんだろう……? 私が貧乏なだけなのかな? でもせっかくのデートなので楽しもう!!
「東雲くん、ドリームランド来たことある?」
「うん、少しだけ。小塚さんは?」
「私はけっこう来てるんだー。友達とか家族と。だから割と詳しいんだよ」
「そっか。それじゃあ小塚さん、頼りにしてるからね。いろいろ案内してね」
「うん、任せて!」
わーお、わーお! 東雲くんが私を頼ってくれている!! いつも私が頼ってばかりだもんね。だから今日はたくさん恩返ししよう。頑張るぞー!
東雲くんは最近、私の不可解な意気込みだとか百面相だとかに慣れてきたらしくて、トントンと私の肩を叩くとゲートが開いたことを知らせてくれた。よし、東雲くんとともに夢の世界へレッツラ・ゴーだ!!
もう楽しくて仕方ない。いっぱいアトラクションに乗って、いっぱいおいしいもの食べて、いっぱいお土産買って、それでいっぱい東雲くんの新しい一面を見つけられた。意外とジェットコースターがダメだったり、思った通り甘いもの苦手だったり、なぜか金銭感覚がおかしかったり。おもしろいなー、楽しいなー、とか思ってフラフラしてたら……、は、はぐれたー! どうしよう、迷子だ!! 私のバカ。歩きながらパレードなんかに見惚れてるからだ。お昼のパレードより夜のパレードの方がよっぽど豪華で綺麗なのに、欲張って昼も楽しもうとか思ってるからだ!! 私のバカー!! つか、落ち着け。落ち着け、私。とりあえず、電話!! と思ってかばんの中から携帯を見つけ出すけど、意味がなかった。全然意味ない。だって、だって……、東雲くんの携帯、私のかばんの中にあるんだもん。わー、どうしよう!? 望みは絶たれた!! 東雲くん、どうしようー!! こういう時ってあんまり動かない方がいいんだよね? ウロウロすると行き違いになっちゃうかもだし。あれ、待てよ? 東雲くんもそう思ってジッとしてたらどうしよう!?
とにかく東雲くんが近くに見えないかとキョロキョロしてみるけど、案の定やっぱり見つからない。見える位置にいたら絶対分かるのにな。小塚レーダー最強なのにな。でも、その代わりって言ったらすごい失礼だけど、東雲くんじゃなくて平野くんを見つけた!! すごいな、すごいな、小塚レーダー。こんな広くてゴチャゴチャしてるとこで友達見つけちゃったよ。わほーい!!
「あれ?久々美じゃん」
「平野くん! ……と、お姉さん?」
「違ぇよ。彼女だよ」
えー!? すっごい大人っぽいなぁ。大人の色気が出てるよ。大学生かな? 綺麗な人だなぁ。平野くんも背が高くて大人っぽいから、二人並んでると大人のカップルみたいだ。いいなぁ。
ポケーッとして彼女さんに見惚れていると、彼女さんはニコッと笑った。わおわお、メッチャ綺麗!!
「はじめまして、三井理奈です。よろしくね?」
「あ、はい、小塚久々美です! よろしくお願いします!」
なんだか緊張してしまって私は背筋をビシッと伸ばしながら挨拶した。それでまた笑われる。わー、恥ずかしいっ!!
「なんで敬語なんだよ? タメだぞ、こいつ」
「え、うそ!?」
「あら、私ってそんなに老けて見える?」
「見えるな」
「ち、違うよ、違うよ!! 大人っぽくて綺麗だったから、大学生かな、と思ったんだよ」
一人ですごく慌てちゃってワタワタしていると、また理奈さんに笑われてしまった。しかも今度はクスクス笑いじゃなくて大笑いだ。それでも綺麗ってずるいと思う。
「き、清輝、もうダメ! くーちゃん、超可愛いんですけどっ!」
「え、何? どうしたの、理奈さん!?」
「おい、あんまりからかうなよ。コイツ、全部本気にしちゃうからさ」
「何、平野くん、それってどういう意味!?」
「正直者で面白いってほめてんだよ」
「ほめてる!? それってほめてるの、平野くん!? けなされてるようにしか思えないよ!」
「んー、けなされてるっていうより、からかわれてるんじゃないの?」
理奈さんがまた綺麗な笑顔を私に向けて言った。笑顔は一緒だけど口調がさっきと違う。あれ、なんで? でもなんか、こっちのがしっくりくるなー。
「ごめんね。さっきのキャラ作ってたんだ。本当はこんなん。全然大人っぽくなければ、おしとやかでもないんだよねー」
理奈さんはさっきまでみたいなクスクスっていうのじゃなくて、もっと豪快な笑い方をした。なんとなく理奈さんのキャラがつかめてきたぞ。
って、そんなん言ってる場合じゃなかった。東雲くんを探さなきゃ!
「あのね、平野くんたち、東雲くん見なかった? はぐれちゃったんだけど……」
「げ、マジで? 見てねぇなー。ごめんな、久々美」
「携帯は?」
「それが、東雲くんの携帯、私のかばんの中に……」
「あー、なんかお前ららしいな」
平野くん、本当にそれ、さっきからどういう意味……? ものすごくバカにされてる気分だよ。いや、確かに私ってバカなんだけど、東雲くんは違うよ。私と一緒にしてはならないくらい賢くて、本当は勉強だってできるに違いない。やらないから分からないだけで。(この前ちょっと教えてあげたら、めちゃくちゃ飲み込み早かったもん)
「待ち合わせ場所とか決めてないの?」
平野くんの言葉にちょっとだけムッとしてたら、理奈さんが気の利いたことを言ってくれた。そうだ! 待ち合わせ場所が……。
「き、決めてない」
「ダメじゃん」
「ですねー……」
平野くんにつっこまれたけど、今度ばかりは反論できない。ホント、ダメダメですねー。だって私、ダメ人間界の王様だもんね。ベスト・オブ・ダメ人間。ダメ人間の象徴。ダメ人間の鑑。あー、もう、ダメだー!!
「こういう時ってどうしたらいいんだろうね? とりあえず、シンデレラ城とか行ってみる? はぐれたときの待ち合わせ場所っつったらあそこでしょ?」
理奈さん、ナイス! 待っててね、東雲くん!
バカだ。何してんだ、俺は。分かっていたのに。小塚さんが人よりボーッとしていることだって、ちょっと目を離すとフラフラしてどこかへ行ってしまうことだって、ちゃんと分かっていたのに。それなのに目を離してしまうなんて。小塚さんも小塚さんだけど、俺も俺だ。小塚さんがいないことに気がついて来た道を戻ったときには、小塚さんはどこにもいなかった。携帯は小塚さんに預けてしまったし、もう最低だ。携帯の意味ないじゃないか、このアホめ。くそ、イライラしてきた。のど渇いた。ん、あれは……。
「コーラくださーい!」
「150円になります」
俺はスタスタとそいつに近づくと、後ろから冷えたジュースを取り上げた。ふたを開けて飲み下すと、のどがヒリヒリする。なんで炭酸なんか買ってんだ、バカ。お茶とかスポーツドリンクとかにしろよ。
「渉、何すんだよ!? 俺のコーラだぞ!!」
「知ってるよ、そんなこと」
「知ってるならなんで取るんだよ」
「那央の物は俺の物でしょう?」
「でたよ、ジャイアニズム!! もういいよ、もう。……で、渉はなんでここにいるの?」
今さらそれを聞くか。あんまり言いたくない。初デートに来て彼女とはぐれるなんて、めちゃくちゃカッコ悪いじゃないか。でもこいつ、使えるかも……。
「そんなの那央には関係ない。それより、携帯持ってない?」
「ひっでーなぁ。あるけど、なんで?」
「小塚さんのアドレスか番号知ってる?(知ってたら知ってたで腹立つけど)」
「知らねー。なんで? もしかして、はぐれたとか……」
「……うん(なんでこいつ、こういうときに限って鋭いんだろう)」
「マジで!? 携帯は?」
「小塚さんのかばんの中」
「うっわ、意味ねー!!」
「うるさいよ、那央。殺されたいの?」
「すんません」
那央のくせにこの俺をバカにするなんて、いい度胸してるよ。どうしてくれよう。戻ったら絶対にただじゃおかないんだからな。でもなんだかんだで、結局小塚さんに止められそうな気がする。あの子は優しい子だから、俺が誰かを傷つけたり、俺が誰かに傷つけられたりするのを嫌がる。そのくせ自分は危ないところに何の準備もなしに突っ込んで行くから、かなり危なっかしい。心配で心配でしょうがない。だから絶対目を離しちゃいけないのに、俺ってホントにバカだ。
「くーちゃん、どっか行きたいとか言ってなかったの?」
「そういえば、写真撮りたいって言ってたかな……」
「どこで?」
「……シンデレラ城」
三人でシンデレラ城に行ってみたけど、東雲くんは見当たらなかった。人が多くて探しにくかったから、お城の周りを3回くらい回ってみたけどいなかった。
「いないな……」
「そうだね……」
なんだか意気消沈で、私たち今すごくこの場の雰囲気にあってないような気がする。本当にどこにいるんだろう、東雲くん。私がボーッとしてるから呆れておいてっちゃったのかな。今日は私が東雲くんの役に立つぞって思ってたのに、結局迷惑をかけてしまった。しかもデート中の平野くんと理奈ちゃん(さん付けはキモイって言われた)まで巻き込んじゃって、バカみたいだ。この迷惑人間め。もうこれ以上二人の邪魔するのもダメだよね。
「二人とも、ありがとう。あとは私一人で待てるので」
「え、でもくーちゃん……」
「大丈夫だよ。私ここでジッとして東雲くんが来るの待ってる」
「バカ言うなよ。お前一人じゃ心配だって。変なのに絡まれたらどうすんだよ」
「そうそう。ここに便利な用心棒いるんだから使っときなよ」
「大丈夫だよ! もし変な人が来てもキックするし、人いっぱいいるから、叫べば助かると思うし」
いっぱいいっぱい説得して、二人はやっとデートに戻ってくれた。本当にいい子たちだ。今度何かお礼をしよう。
あぁ、本当に、どこにいるの、東雲くん。
あぁ、本当に、どこにいるの、小塚さん。
シンデレラ城に向かいながら小塚さんを探してみるけど、やっぱり見当たらない。一人で探すより二人で探すほうがいいに決まってる。それでも俺は那央をおいてきた。ここまで来てなんで男二人で歩かなきゃならないんだっていうのもあるけど、小塚さんは俺一人で見つけたいから。
どこだ、どこだ。視界の中にあるのが当然だったものが急になくなってしまうのは、すごく落ち着かない。大事なものが取り上げられてしまったみたいに気分が悪い。実際、小塚さんは俺にとってすごく大事なものだから、それは当然なんだろうけど。こんなのは初めてで、本当におかしい。だって俺はどちらかというと、視界に人が入って気に入らなければボコボコにするような奴だったし、今までこんなふうに思ったことは一度だってない。これはきっと、うん、間違いなく小塚さんのせいなんだけど。あぁ、それなのになんで今俺の隣にあの子がいないんだろう。早く、早く。見つけなきゃ、俺の大事なあの子を。
シンデレラ城が少しずつ大きくなる。白塗りの壁が視界に広がる。いた! 小塚さんだ!! 遠くからでも分かるよ。ベンチに座って、ただボーッと自分の足元を見つめている。少し眠そうだ。あぁ、どうしよう。本当に、俺、どうしてしまったんだろう。一人視界に入れただけで、こんなにも安心してしまうなんて。あ、俺、息切れてる。結構走ったし。カッコ悪いな。こんなので小塚さんに会いたくない。
小塚さんより少し手前で立ち止まって息を整える。傍から見たら俺は今すごくカッコ悪いだろうな。そんなのいちいち気にしたりしないけど。ただ、小塚さんの前くらいはカッコつけてもいいじゃないかと思う。いつだってあの子の一番は俺で、俺の一番はあの子じゃなければダメなんだ。
「……小塚さん」
落ち着いてから声をかけると、小塚さんはびっくりしたみたいで、俯かせていた顔をすごい勢いであげた。あぁ、俺の世界で一番大切な女の子だ。誰だ、こんな顔をさせたのは。俺だ、世界一愚か者の東雲渉だ。
「ごめんね、東雲くん。私、ボーッとしてて」
そう言いながら、小塚さんは勢いよく立ち上がった。なんでだ。謝りたいのはこっちなのに。
「違う、俺が君のこと気にせずに歩いちゃったから。ごめん。不安な思いさせたね」
「ううん、大丈夫! あ、いや、大丈夫じゃないんだけど、平野くんと理奈ちゃんがね……」
「平野?(……と理奈ちゃんって誰?)」
「そう、平野くんと理奈ちゃんがデート中にも関わらず助けてくれてね」
「あいつ、彼女いたんだ。どうでもいいけど」
「うん。すっごく美人で、でも嫌な感じのしない気さくな子なんだよ。憧れちゃうなー。私もああいうふうになれたらいいのに、なんて、なれないのは分かってるんだけどね!!」
小塚さんは、わははとか言って笑うけど、俺はあんまり笑えなかった。小塚さんをおいて行ってしまった罪悪感というか、申し訳ないなってこともあるんだけど、小塚さんは小塚さんのままがいいって思うのもある。俺はどんな小塚さんでも好きになる自信があるけど、やっぱりきっと今の小塚さんが一番好きだ。美人で気さくな小塚さんも素敵かもしれないけど、今俺の目の前にいる表情がコロコロ変わってふわふわしてて、優しくてかわいい小塚さんが一番素敵だ。
「それでね、二人がシンデレラ城に行ってみたら、っていう画期的なアドバイスをくれて……」
「小塚さん」
「ん、なぁに、東雲くん?」
「写真、撮りたいんでしょ、シンデレラ城の前で。せっかくだから、今撮ろうよ」
「あ、そうだね! じゃあ、私頼んでくるよ」
そう言って返事を聞く前に走っていってしまう君が、やっぱり俺は一番好きだよ。
「はーい、二人とももっと寄ってー」
「こうー?」
「ダメダメー。もっともっと近づいてくんないと入んねぇよ」
「こうー?」
「あー、もう、ダメだなぁ。もう面倒くさいから抱きついちゃえ、くーちゃん」
「え、あ、え……?」
「……小塚さん、やらなくていいから。那央、さっさと撮って。君、本当に殴られたいの?」
「……ごめんなさい」