いざ、宮殿へ~、何これ?
「では皆の者、各宮殿で存分に励むが良い。次の機会、演芸会にてまた合おうぞ」
魔法使いの一言で、その場は解散になった。
多くの者がゾロゾロと会場を出て行くが、俺と悪魔のミカンは残っていた。
というか、悪魔のミカンが動かないので、俺もここにいた。
「どうしたミカン、会場から出ないのか?」
「えっと、私たちは一番最後です。気品がある人から宮殿を後にするんです」
「へぇー、そんな決まりがあるのか」
「いえ、ありませんよ。何いってるんですか?」
ミカンに不審な顔をされる。
「?」
俺は驚いてミカンをみる。
「どういうことだ?」
「へへへっ・・・なんとなく気が引けるんです。偉い人といると疲れます。だから後からでます」
この子が気が弱かっただけらしい。
(しかしこの子、悪魔なんだけど、なんかだとっても頼りないな)
会場から人がいなくなり、兵士の人が箒を持ってきて、後片付けを始めだす。
「お前ら、まだいるのかよ。掃除のじゃまだ」っと視線で抗議を受ける。
「おい、ミカン、もうそろそろさすがに出た方がいいんじゃないか。兵士の人もこっちをチラチラ見てるし」
「そうですね。では、皆がいなくなったので行きますか。人がいないと安心しますね。ふふっ、気持ちが良いです」
「そうかもしれないな」
笑顔のミカン。
(気が弱いのか、それとも逆に異常に強いのか分からない)
俺はミカンの後をついて、大広間を出た。
王城から暫く離れると・・・ミカンが大きな建物の前に止まる。
綺麗な建物、まさに宮殿と言うにふさわしい建物だ。
インドの世界遺産みたいな建物。
俺は思わず気分が高揚する。
宮殿と聞いていたので、ひそかに期待していたのだ。
「これからここで過ごすのか~」と、色々妄想してしまう。
「ここなのか?こんな豪華な建物に住むのか?ミカン?」
念のため確認すると。
「違います。こっちですよ」
ミカンが指さすのは、お化け屋敷のようなおんぼろ小屋。
ポツンと隣に立っていた。
風が吹けば吹き飛びそうな家だ。
「・・・・・」
(ぼ、ボロイ)
「こっちが黒薔薇の宮殿です」
「・・・・・・」
「こっちですよ。あの・・・その・・・聞こえてますか?」
ちょんちょんと俺の服の袖をひっぱるミカン。
遠慮がちだ。
だが俺は・・・
「いやだ、俺はこっちの豪華な宮殿が良い。あのボロ屋は宮殿って名前じゃないだろ。
どちらかというとお化け屋敷だ」
豪華な宮殿に入ろうとするが。
「ダメです。そっちは黄薔薇の宮殿です。他の宮殿に勝手には入ってはいけません。わ、私が怒られちゃいますー」
全力で俺を引き止めにかかるミカン。
(案外力が強いぞこいつ)
で、ミカンの言葉で思い出した。
「はぁ?ちょっと待て、今、黄薔薇っていったか?あの猫を選んだところか?」
「そうです。乱華さんの場所です」
「おい、おかしいだろ、なんで俺が猫以下なんだよ?」
「そ、それはですね・・・・」
「はぁー」っとため息をつくミカンだが、すぐに笑顔になる。
「人生色々あるけど、一緒に頑張りましょう。見かけは微妙ですけど、住めば都ですよ」
ニコっとするミカン。
どうやら結構ポジティブらしい。
純粋な笑顔に癒される。
(はぁー。しょうがない。まぁ、中は凄いのかもしれないしな。魔法だってあるぐらいだし)
俺達はボロ屋敷、黒薔薇の宮殿に入った。
中を見て放心。
「・・・・・・・・・」
(中もボロボロだった。おんぼろ屋敷だ。時々足が床をぬけた)
危うく地下?に落ちそうになった。
何故かこの家、地面の下が空洞になっているっぽい。
廊下を歩く際に・・・
「そこ気をつけてください。足抜けます。落ちたら暫くあがってこれません」と注意される。
とんだトラップハウスだ。
で、ヒヤヒヤしながら歩いていると、居間のような場所に到着。
「ニャーニャーニャー」
たくさんの子猫たちがよってきた。
(な、なんだここは?猫ハウスか?)
「よしよし、いいこだね」
猫を撫でるミカン。
俺も猫にもみくちゃにされる。
肉球でパンチされる。
(誰だ?今殴った猫は?)
俺は戸惑いつつもミカンに聞く。
「み、ミカン、この子たちはなんだ?」
「この宮殿に住んでるんです。私は動物に好かれるみたいなんですよ・・・・ふふふんっ」
鼻歌交じりで売れしそうなミカン。
「ふんふん~♪、ふんふん~♪」っとリズムよく歌っている。
「ネコちゃん、ネコちゃん、元気ですか~♪」ってな感じで。
俺は頭に上ってきた猫を剥ぎ取って。
「そういえばミカン、聖女に選ばれた猫もいたな。すぐ横の豪華な黄薔薇に選ばれた」
「そうです。本当は私、猫を選ぼうと思ったんです」
「!?」
(!?)
「でも、乱華さんにとられちゃいました。私が先に指名していれば」
悔しそうな顔をするミカン。
「え、まさか、俺、2番手・・・」
「はははっ」
苦笑いするミカン。
「でも、私はあなたが一番です」
(おい、ミカン、それ無理あるだろ・・・そういうのはもっと前にいわないか・・・まぁいいか)
「というか、俺は男だけど良いのか?」
「はい?」
俺の質問の意味が分からなそうなミカン。
「聖女って普通女だろ」
「そのことですか。別にいいですよー。誰も気にしません」
(まぁ、確かに王城ではそうだったけど)
「どういうことだ?」
「聖女は慣習のようなものです。昔は女性だったんですけど、今はどっちでもよくなりました」
(なんだろう、現代で言う看護師みたいなものだろうか。この世界も色々あるのだろう)
ミカンは猫たちと離れて、立ち上がる。
そして俺を見る。
「では、さっそく行きますか?」
「行くってどこに?宮殿にきたばかりだろ?」
「お花を見に行くんです」
「花?」
(家庭菜園でもあるのだろうか?)
「はい。各宮殿にあるお花さんです。とっても大事なものなんですよ」
「花をみてどうするんだ?」
「黒薔薇の恩恵をうけるのです。これですよ」
ミカンが服をめくって腕にある呪印を見せる。
黒薔薇の模様が描かれている。
「なんだこれ?」
「黒薔薇の印です。この呪印をもらうと、色々な能力が開花するんです」
「ほーう、綺麗だ」
俺が見ていると。
「あ、あの・・・その・・・」
もじもじしだすミカン。
「なんだ?」
「恥ずかしいのであまり見ないで下さいっ!」
(いや・・・)
「お前が自分で見せたんだろ」
「そ。そうですが・・・・肌をさらしたく・・・・ないんです・・・・泣きそうです」
恥らうミカン。
本当に涙目になっている。
というか、全体的に恥ずかしがり屋さんのようだ。
ミカンは服を戻すと、ニコッと笑顔になる。
「あの・・・そういえば、まだお名前をきいていませんでしたね」
そうだな。
俺は名乗っていなかった。
「俺か、俺は南雲スバルだ。よろしくな、ミカン」
クリクリとした瞳で俺をみるミカン。
「そうですか、スバルさん、宜しくお願いします」
「こちらこそ」
「では、移動しましょう」
「おう」
―――俺達は、お花の元へ移動した。