第4話 野盗と村人と未来のシェルター(2)
一行は、村の中で一番大きな家である、村長の屋敷で、宿泊することになった。
一部の村人の中には、最初は少々警戒するような者もいたが、西陣経康らの働きかけにより、敵ではない、ということがわかると、すっかり意気投合し、うち解けていった。
「あのー。我々は決して、怪しい者ではございませんので…。」
村には家々の他、田畑が広がり、いかにも古き良き日本の農村風景、といった感じの村だった。
「このあたりには、野盗なども出没するようですが…。
なんと!あなたがたは、その野盗を退散して、ここまで来られたと!?
いやはや、さようでございましたか。
どうりで、お強そうなお侍様と、お見受けいたしてはおりましたが…。」
村人たちとたわいのない会話をしているうちに、あっという間に、夕暮れ時となり、そして夜のとばりがおりた。
夜になるとこのあたりは真っ暗闇となる。
当然、街灯などあるわけがなく、明かりを照らすのは、月明かりと、星明かり。
それと、たいまつや、ろうそくの光だけだ。
北条早雲と、西陣経康、それとお供の者たちと、村長と、その家族たちが集まり、夜食をいただく。
明かりは外のたいまつと、食事どころの広間の、ろうそくの明かりだけ。
これだけでは薄暗く、お互いの顔も見えにくい中での食事。
少々不気味な感じもする中、まずは村長があいさつをする。
「このたびは、遠路はるばる、この村にお越しいただき、まことにありがたく存じます。
何もない村ですが、今夜は食事を用意しておりますので、お召し上がりください。」
すると、使用人と思われる者たちが、食事を持ってきた。
食事の献立は、大盛の米のご飯と、野菜の入った汁、それと、川でとれた魚を焼いたという、焼魚だ。
あとは、漬物というか、お新香というか、これもこの村でつくっているらしい。
山奥の村にしては、食材は豪華だなと思った。
あとは、水はいくらでも飲めるらしい。
「このあたりの水は、汲んでそのまま飲めるくらい、きれいな水ですからねえ。さあ、どうぞどうぞ。」
村長は、この村の水はきれいな水だと、いかにも自慢げに言った。
それじゃ、もう腹も減ったし、いただくとするか…。
「それでは、いただきます。」
一同、食事の時は、黙々と、言葉を発することなく、いただいた。
「ごちそうさまー!」
お腹いっぱい食べた後は、眠くなってきた。
もちろん時計などないから、正確な時刻はわからないが、もう夜も遅くなってきたな…。
一同、就寝時間に入る。そして皆、眠りにつく。「おやすみなさーい。」
そして深夜。皆が眠りについた頃、あたりには、フクロウの鳴き声だけが聞こえる。
そして、空には明けの明星が輝き、日は昇り、翌朝を迎えた。
翌朝の朝食も、昨晩の夜食と、あまり変わらないような感じだったが、おいしくいただけた。
「して、これからどちらに参られるおつもりですかな?」
村長が訪ねる。すると、早雲は、
「この先、関東に赴き、我らの国を築く。
狙いは、伊豆、そして、相模だ。」
関東に行くことが目的だと話す。さらに、自分たちの理想の国を築く目的の地として、伊豆、そして相模をあげた。
そして朝食を済ませると、早雲たちは、この村をあとにすることに。
もちろん、西陣経康も、同行することに。
「目指す先は関東、そして伊豆、相模に、拠点を築くということ。
たしか、ここから山を下れば、大きな町に着く。
大きな町か…。久しぶりだな…。
大きな町なら、いろんなものが売ってるだろうし、情報も聞き出せるかもしれないな。」
西陣は、内心、とりあえず早雲の一行についていけば、食いっぱぐれることはまずないと、思っていた。
そしていよいよ出立の時を迎えた。
「それでは我々はこれにて出立する。」
「ご武運をお祈り申し上げております。」
村長や、その他の村人たちに見送られながら、早雲の一行は、村をあとにした。
それからしばらく進むと、西陣は、
「そうだ、万が一、道に迷ったりして、宿泊先のあてもなくなってしまって、途方にくれるようなことがあったら、これを使うといいよ。」
そう言って西陣が取り出したのは、仮設のシェルターというものだった。
「な…、なんだこれは?」
「これはシェルターと呼ばれる、臨時の時に使う、仮設の宿泊施設ですよ。
今回はたまたま村が見つかってよかったですが、またいつ同様のケースがあるとも限らない。
そういう時のために、このシェルターというものを、用意しておくといいですよ。
実際、僕らも、このシェルターをよく使うことがあるんですよ。」
「何…!?シェルターとな?
…そのような便利なものがあるというのか…。」
このシェルターを見て、早雲はすぐに勘づいた。
「そなたは、もしや、この時代の者ではなく、
この時代の、ずっと後の時代、つまり、未来の時代から、ここにやってきたのか…?」
そこまで勘づかれたら、仕方がない。
西陣は、早雲と、お供の侍たちに、今までの事のいきさつを、ありのままに話した。
皆最初は驚いたような表情だったが、その後すぐに、事のいきさつを理解してくれたようだった。
「なるほどな。にわかには信じられないような話だが…。」
ようやく全てを理解して、うち解けたといった感じだった。
そして、山を下り、ようやく次の目的地の、大きな町に、たどり着いた。