第8話 駿河で商売を始めた西陣経康 さて何を売る?
西陣経康は、駿河に滞在することをいいことに、この駿河に、店を開いて、商売を始めることを、思いついたのだった。
「この商売を成功させて、一攫千金だ、くふふ…。」
そして、思いついたら、即実行にうつすのが、商売人の性というもの。
そして、本当に、店を開業するための資金と、店を建てるための土地を、いともあっさりと確保し、
いよいよ、この駿河にて、商売を始めることにしたのだった。
しかし、実際に商売を始めてみて、まずは何を売るか、ということを考えてみないことには、何も始まらない。
まずは食べ物屋でも始めるかと考える。
米はまず必要だ。続いて野菜とか…。あとは魚だ。このあたりではどんな魚がとれるのだろう…。
続いて、着物だ。この時代のことだから、高貴な身分の人たちは、たいそう立派な着物を着ているだろう。
いや、値段は安いかもしれないが、一般庶民向けの着物を扱おうか。
そして考えた末に、それらのもの全てを取り扱う、なんでも屋のような店を、この時代の駿河にて、開業することになった。
「そうだ!それがいい!なんでも屋のような店を開業すれば、どんな品物でも扱える!
…しかし何でも取り扱うことになると、それだけの商品を納入するためには、それだけ人を雇わなければならなくなる。
だから、どうしたって、人件費がかかるわけだ。」
西陣経康はまず、商売スキルを身につけるため、屋敷の近くにある神社にお参りに行った。
「どうか、どうか、この商売が成功しますように。」
西陣経康はお賽銭を入れる。
すると、どこからともなく、声がした。
「その願い、かなえてやろう…。」
「えっ…!」
いったいどこから声がしたのだろう。それはわからないが、お賽銭を投げ入れた途端に、この声がした。
もしかして、本当に、この神社に奉られている、神様が願いを叶えてくれるというのか…?
「うーん…。どこからか声がしたような気がしたけど…。
やっぱり思い浮かばない…。まっ、いいか。」
それから西陣経康は、さらに戦で扱う武器や鎧兜なども扱うことに。
この戦国乱世の時代、戦のための刀、槍、弓矢、鎧兜などは、必ず必要になると、考えたからだ。
とはいっても、いわゆる一山いくらという値段の、無銘の、量産品の刀、槍、弓矢、鎧兜などなのだが。
武器が大量に出回った、戦国時代においては、この手の武器防具類は、大量に扱われたという。
それから、骨董品なんかも、扱うといいというアドバイスを、いただいた。
特に高値がつくのは、古美術の壺や、あとは仏像や掛け軸なども、高値で取り引きされるという。
ただし、骨董品は、その人気の高さゆえに、偽物も極めて多く出回っていると聞くが…。
この時代は、鑑定書なども、効力を発揮しない、無意味な紙切れ同然の扱いになってしまっているから、
だから、実際には、本物だろうが、偽物だろうが、客が求めるままに、売ったもん勝ちなのだ。
「よーし!これで取り扱う品物は、ひととおり決まったな。」
そして、西陣経康の店は、開業に向けて、急ピッチで、準備が進むことになったのだ。
そして開業の日を迎えた。店構えは、当時としては珍しい、2階建ての家。
食べ物屋、着物屋、武器防具屋、骨董品店と、用途にあわせて、複数建ち並び、ちょっとした商店街のような感じになっていた。
「さあさあ!よってらっしゃい!見てらっしゃい!」
店の中は客でごった返し、店の外には、まさに長蛇の列といった感じで、店の者たちは皆、てんやわんやの大忙し。
「こりゃ初日から大盛況だな。」
そこに現れた行商人が言った。
「ほほう…。こんなところに、こんな店ができていたとは…。」
開店当日からこの賑わい。
このまま気ままに商売でもやりながら過ごそうかと、思い始めていた西陣経康だった。
 




