03
「その後、もう一度「選び」ができないか試したんだけど、ダメで。今度はリボンをつなぎにして植物から生気をもらうっていう形を試したのだけど、それも植物とリボンがうまくつなげなくて失敗。最初に見つけたときにかけた魔法でしばらく急場しのぎをしていたのだけど、ほかに手がなくなって…。仕方なくリボンを媒介に私の魔力を生気に変換させて送れる回路を魔法で作ったの。だから契約をしたわけじゃないの…。」
そこまで語り終わって見れば、カップの中のお茶はすっかり冷めてしまった。真剣に話を聞いていたニックは情報を整理するかのようにため息をついた。
「状況はなわかったよ。花の妖精に生気を与える媒介を作るなんて、初めて聞いた。やっぱり君はすごい魔女だね。」
「それ、嫌味で言ってるでしょう。」
「半分はね。でももう半分は本気で感心してるんだ。」
ニックはくすくす笑って答えた。しかしその笑顔にはうっすらと困惑の色が見て取れる。そしてテーブルの上の妖精のほうに視線を送る。話の長さにつかれたティナはティーポットに寄りかかって寝息を立てている。
「本当に驚いたよ。契約しないで事を解決しようとしてるあたりは君らしいけど…それで、相談したかったっていうのは?」
「うん。それなんだけど・・・」
ベルは視線を落として、小さく息をつく。
「できれば、大人にしてあげて、その後はきれいさっぱりこの関係を解消したいのよ。でも、どうも成長が遅いみたいで…。そもそも季節外れに目覚めた挙句、お花とリボンを間違えちゃうおバカだから、成長が遅いのかもしれないんだけどね。」
半分冗談めかして笑って見せる。しかし、奥底の部分では最初に感じた不安感を取り除けていなかった。あの時感じた胸のざわつき、そのことが気がかりで、早く手放したくてしかたがない。なのに、やはり何かがそれを許さない。
「確かに、見つけたのが3ヵ月前だとすると、成長が遅れてるのは間違いないね。実際、花の妖精は選びによって花を選ぶけど、花だけの生気じゃなくて、花を通して大地のエネルギーも吸ってるから。単純に成長に必要なエネルギーが足りていないんだと思う。ただ…」
「ただ?」
「いや、ちょっと気になる事があってね…僕が、ここに来た理由なんだけど」
「教授に頼まれた調べもの?」
「そう。それなんだけど・・・」
そこまで言うとニックは急に考え込んだように押し黙った。不安感をあおるのその様子を慎重に伺いながら、ベルは彼が次に語りだすのをじっと待つ。そして再び顔をあげた彼に、まっすぐと向き合う。
「ベル…、今はちょっとはっきりしないことが多すぎて、説明できないんだけど…。明日、明日の午後とか時間はあるかな?」
「え?ええ、大丈夫だけど。」
「じゃぁ、また明日、ここに来るよ。色々見てもらいたいものがあるんだ。話の続きはその時でもいいかな?」
先延ばしにされたことで不安そうな表情を浮かべたベルに、ニックは申し訳なさそうに眉を下げる。しかし、この様子だとこれ以上はつっこんで話せないようだと悟って小さく頷いた。
「・・・わかったわ。」
「ありがとう。じゃぁ、僕は宿に戻るよ。」
そういって早々に席を立つ。それにつられるようにベルも立ち上がり、玄関まで送る。扉の向こうはまだ雨がたたきつける音がしている。着てきたレインコートはすっかり乾いていていたが、これからまたずぶぬれになってしまうだろう。
「宿まで少しあるでしょう?足元に気を付けてね。ここは街みたいに道は舗装されていないから」
「ありがとう。大丈夫、これでも生まれはここと同じくらい田舎なんだから。転ばないようには気を付けるけど。」
ニックはくすくす笑いながらレインコートを着て、戸を開ける。戸の向こう側の雨音が大きくなって、冷たい空気が流れてくる。少し肌寒い雨の季節を感じながら、手を振って去っていく彼を見送る。彼が来る前に感じていた妖精に対する不安感。ニックの登場によって解消できると思った「それ」は、以前にもまして膨らんだだけだった。雨の音がそれを煽り立てるように感じて、彼の後ろ姿が見えなくなるころに扉を閉める。その不安感に一度蓋をするように。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
またブクマ・評価をしてくださった読者様にも感謝です。
少しずつ更新していこうと思っていますが、更新スパンはまだはっきり決めていません。
落ち着いたら1週間に一度くらいの更新を目指したいと思います。






