第一話
「なあ、翔太、俺、死のうかな」
「翔太、お前の葬式行って顔見たよ、死んだっていうのにさ、幸せそうな顔してたな、まぁそりゃそうか」
「俺たちブサイクはさ、生きてたってなんもいいことないんだよな、このまま生きてたってまたいじめられるだけだ、だからさ、俺も死んでお前のとこ行こうと思う」
「死んでも地獄に行かないよな、だって悪いことなんかなに一つしてないから、でも俺たちにとってはこの世界こそが地獄だったから、別に平気だけど」
「よし、腹は決まった、俺今ビルの屋上にいるんだよ、ここに立って初めてわかったよ、ここから飛び降りることがどれだけ怖いか、でも、それでもお前はやったんだよな」
「行くよ、天国で会えることを願って」
・・・・・・・・・・・・
「えと、ここどこ?」
俺はビルから飛び降りた。
普通なら即死だ。
ということは天国か?
周りを見るが、死人一年生の俺にはよくわからない。
俺が今いるのは洋服の建物にはさまれた細い道のちょうど真ん中。
今俺がちょうど向いている側の出口は騒がしく、たくさんの人が通っているのが見えた。
「天国ってもうちょっと静かなとこだと思ってたんだけど」
体のあちこちが痛むが、何とかその重い腰を上げる。
「、、、、、、痛む?」
死んでも、痛むものなのか?
俺の思ってたものと違う。
道の出口へ歩き出したが、体が痛むので壁にもたれかかりながら行くことにした。
その時、
「どうしたの、大丈夫?」
後ろから声がした。
体を90度回転させ顔だけをその声がした方に向ける。
そこには美しい女性が一人。
そのあまりの美しさに心臓が強く鳴り始める。
「あ、あの体が、痛く、、、、、、て」
ふっ、とそこで意識が途切れた。
「おしぼり替えますよー」
そんな声が聞こえた気がして、目を覚ました。
この体を包み込むような感覚は、ベッドと掛け布団か。
体を起こすと額から何かが落ちた。
「まだ寝てないとダメだよ、ほらおしぼりも落ちちゃった」
俺の左側に若い男が椅子に座っていた。
その男にまた手で無理矢理寝かせられる。
「あのここはどこですか?」
「マリーナの家の二階だよ」
「えっと、マリーナさんって誰ですか?」
「突然倒れた君をここまで連れて来てくれた人だよ」
思い出した。
あの美人の。
それで俺は気を失って。
それにしても、女性が一人で連れて来てくれたなんて、大変だったろうな、またお礼を言わなきゃ。
「あなたが俺の看病を?」
できればマリーナさんに看病してほしかったけど。
そんなこと言えるわけもなく、その思いは心の中に閉じ込めておくことにした。
「うん、マリーナに頼まれてさ、君二日も寝てたから泊まりきりで、もう大変だったよ」
そんな嫌みを彼は笑顔で言った。
そんな姿からは優しさがにじみ出ていて、いい人なんだということがわかる。
「すいません、ありがとうございました」
「いえいえ」
また笑顔で言った。
彼の笑顔には癒し効果があるのか、心があったまる。
「あのあなたは?」
「マリーナの幼なじみのコンタだ、よろしく」
コンタはまたもや笑った。
やめて、眩しい、眩しすぎるよ兄ちゃん。
「俺はいおり かい です、よろしく」
「イオリ、良い名前だな」
名前?
伊織は名字だ。
ここは外国なのか?
今俺はどこにいるんだ。
もうはっきりと聞くしかない。
「ここって天国ですか?」
「はぁ、君、本気で言ってるの?」
半笑いで言われた。
俺はいたって真面目です。
「そんなわけないじゃん、ここはメンディルっていう国、まあ言わなくてもわかるか」
「メンディル?」
「そう、メンディル、ハンターが集う国だよ」
ハンターって、そんな漫画みたいな。
「あ、そうそう、君を着替えさせたときに、君の服から紙切れが落ちたんだよ」
自分の体を見てみる。
本当だ、学生服を着てたはずなのに、今はパジャマを着てる。
良いにおいがする、もしかしてマリ
「それ俺のパジャマだよ」
お前のかよ!!
しかもなんで食い気味?!
心の中をよまれたみたいで、いや、なによりもこのパジャマがコンタのものだったことにより、俺の気分はだだ下がりだ。
「はい、これ」
部屋の隅に置かれた机から紙切れを持ってきた。
見てみる。
君は異世界に転生した。
これからこの世界で生きていく君に、私から大量の魔力を授 けた。
魔力の使い方は誰かに聞いてほしい。
あともう一つ、この世界は、この前まで君の生きていた世界 とは決定的に違うところがある。
まあ詳しくは言わないが、君にとって、とても生きやすい世 界であることは間違いない。
それに気付いたとき、君はびっくりするだろう。
それでは、調子に乗らないことを祈って。
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「どうした、なにが書いてあるの?」
こいつやべぇぞ、って顔で聞いてくる。
まず落ち着くように自分に言い聞かせる。
心に余裕ができたので、この紙切れに書いてある通り魔力について聞くことにする。
「あの、魔力って誰でも持ってるんですか?」
「いや、魔力を持っているのは限られてる、持ってたとしても少しだけとかな、それがどうしたんだ?」
「あ、まあ、別に」
と、てきとうにごまかしてみると、
「うあぁぁぁぁぁぁ!!!」
いきなりコンタが叫び始め、その勢いで後ろに倒れた。
それにびっくりした俺もつい 「うわっ」 と言ってしまった。
「あのどうしたんですか?」
「いや、だって君、魔力、持ってるだろ、それで俺が驚いたのはその魔力量、今までそんなに魔力持ってるやつに会ったことねえよ」
俺、本当に魔力を授けられたんだ。
「ていうか、なんで俺が魔力持ってることがわかったんですか?」
「俺ハンターやっててさ、ハンターの大半は魔力もったやつだから自然と感じとれるようになったんだよ、ついでに言っとくと、俺は、魔力を持ってないよ」
「そうなんですか」
「君はハンターになるべきだよ、絶対に活躍するって!」
これから長いことハンターになるべきと薦められた。
本当に長いこと言われたけど、悪い気はしなかった。
でも、大事なのはその後だったんだ。
「コンタ」
綺麗な声。
思わず本能的にその声のしたほうを向いた。
部屋の出入口、そこにはあの美女、マリーナがいた。
「マリーナ、どうした?」
「コンタ、ありがとう。あなたもお疲れでしょ、もう帰っていいよ」
「ん、あ、そうか、じゃあ、イオリも、またな」
俺も 「ありがとうございました」 と頭を下げる。
コンタが部屋を出るのと入れ替わりにマリーナが部屋に入ってきた。
マリーナはさっきまでコンタが座っていた椅子に座る。
「私マリーナって言います、具合のほうはよくなりましたか?」
「え、あの、ああ、はい」
美女を前にした緊張でうまく言葉が出ない。
「そうですか、それはよかった」
それからしばし沈黙が続いた。
俺はなにを話せばいいのかわかんなかったし、
マリーナのほうをちらっと見ると、なぜか恥ずかしそうな、緊張したような顔をしていた。
その顔はとてもかわいかった。
近くで見てみて、美人というよりもかわいいというほうがあっていると思った。
まあ、どっちだって変わらないか。
そんなことを考えていると、マリーナのほうから 「よし」 という小さくも力強い声が聞こえた。
「あの、イオリさん、私言いたいことがあって」
マリーナさんは妙に緊張しているようで、顔も少し赤かった。
そう、まさに告白しようとする少女のように。
「あの」
「一目惚れしました、私と付き合ってください!!!」
沈黙。
「えぇぇぇぇぇぇ!!!」
その沈黙を俺の叫びが切り裂いた。
俺、今日何回叫んだんだ。
ていうか、なにがおきてんだぁ~!
拝啓 翔太様
ブサイクにも春が来たかもしれません。
いや、来ました!
つたない文章ですが、ここまで読んでいただきありがとうございます。
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