我が名は…
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以前の名は分からない。
それは我が代償として払ったものであるから。
この一人称の〈我〉だってそうだ。
何かを得るには代償が必要だ。
何を当たり前のことを。
だから我に未練などない。
我は気が付いたら魔法陣の真ん中にいた。
そう我は異世界に勇者として呼ばれてやってきたのだ。
では、予定通り始めよう。
まずは魔法陣の中心に手に持っている剣を突き刺す。
この剣には30秒後にやってくる勇者たちの持っているであろう強力無比な武器と違い名がない。
だがその代り特徴がある。
この剣は”力”を吸収、放出、そして成長する。
そして我はこれから”力”を神から奪う。
「簡易魔法インスタントマジック『蛇眼』」
忘れずに周りにいる者たちの動きを止めるための魔法を使う。
効果は金縛り、時間は30秒、防御レジストは不可能。
ただし悲しいかな、簡易魔法インスタントマジックは一度のみしか使えない。
つまりはこれで打ち止めである。
とはいえ、一度、この時に使えれば問題はない。
『蛇眼』はその効果を発揮し、周りにいた兵士、魔法使い、貴族たちの動きを封じた。
「我の邪魔をする奴がいるかもしれなかったから金縛りにあってもらったけど、大丈夫、傷つけるつもりはないよ。それにあと30秒もすれば金縛りも解けるし、勇者も現れる。この剣だって別に魔法陣を壊すためのものじゃないんだから。安心してよ。」
無駄になることは分かっているが声をかけてしまった。
これは、きっと自分への言い訳なのだろう。
それにしてもやはり、一人称が変わると会話に違和感がある。
追々直していくしか・・・あるまい。
そんなことを思っているうちに時間が過ぎて、我の立っている魔法陣が光り始めた。
これを待っていた。
光がさらに眩くなり視界が真っ白に染まった時に我は剣に命じる。
「『喰らえ』」
剣は我が命じたとおりに、予定していた通りに魔法陣とつながった神の元から”力”を吸収する。
このようなことは予想していなかったのであろうが、さすがは神であった。
すぐに魔法陣と神との繋がりが切れた。
だが十分だ。いや、十分すぎるくらいだ。
さらに、すでに金縛りの解けた兵たちがこちらに武器を構え始めている。
彼らに用はないので早々に退散するとしよう。
「お前は何者だ。」
兵たちの後ろに移動した男が我に向かって叫んだ。
「・・・簡易魔法インスタントマジック『記憶抹消リスタート』簡易魔法インスタントマジック『門ゲート』」
男に答えようにも今の我に名はない。
この剣と同じように。
だから予定通り、二つの魔法を使い、この場にいる全員の記憶の消去と”冥界”への移動を行う。
魔法を受けた者たちは副作用で眠りに落ちていく。
そして『門ゲート』で開いた冥界へとつながる漆黒の門。
それを開き片足を踏み入れた時にふと思いついた。
「アンプルール」
何かが、かけていた何かがカチッとはまったような気がする。
そうだ、我が名はアンプルール、第零勇者アンプルールだ。
眠りに落ちた者たちを背にアンプルールは門の奥にその姿を消した。
パスがなくなった。
どうしよ( ゜Д゜)
取り敢えず、♧5!