30秒前
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『勇者召喚』
レリヒオン聖王国のみが行うことができる文字通り『勇者』を呼び出すための儀式である。
実際のところレリヒオン聖王国以外にも『勇者召喚』を行うことのできる国は存在する。
そもそも、召喚に必要なのは専用の魔法陣と膨大な魔力である。
そして、大抵の国家および国家レベルの組織はこの専用の魔法陣を所有している。
その魔法陣に多少の違いはあれど、どれも勇者を召喚することは可能である。
結局のところ問題になってくるのは魔力の方だ。
ただ普通に召喚を行おうとすると必要になる魔力は一国家の国民全員の保有する魔力量を足したものと同程度であると言われている。
勿論、そのようなことを行う国は存在せず、できるけどしない、そんな状況に落ち着いているわけだ。
では、なぜレリヒオン聖王国のみが召喚を行うことができるのか。
それは魔法陣の条件を2つ満たしているからである。
1つ、ディオサ・・・現在のレリヒオン聖王国の王都で行う事
2つ、月が最も近くなる日に行う事
この二つの条件を満たすことでようやく国に悪影響の出ない程度の魔力で召喚が可能になる。
だからレリヒオン聖王国のみが召喚を行うことが可能なのである。
そして今日、まさに『勇者召喚』がレリヒオン聖王国の王都で行われようとしていた。
場所は王城の一角にある塔の屋上。
塔の高さはおよそ50メートル。出入口は一カ所のみ。
つまりはそこさえ押さえてしまえば、高い塔であるがために外からの侵入者は入ってくることができない。
たとえ有翼種が上空から来たとしても『勇者召喚』のために屋上にいる高位の魔法使いたちにとっては単なる的にしかならない。
邪魔の入らないまさに『勇者召喚』にうってつけの場所と言えた。
塔の屋上にいる者たちは大きく分けて三種類、塔への侵入者を警戒する兵士、『勇者召喚』の魔法陣に魔力を注ぐ魔法使い、呼び出された勇者を自分たちの味方に引き入れるためのもの、である。
以前、呼び出された勇者がレリヒオン聖王国仇なしたことがある。
その時はまだ勇者が成長途中であったために被害は少なくて済んだが、そのことを教訓に最後の勇者を味方に引き入れるものが『勇者召喚』の場に同席することが当たり前となった。この者たちは貴族の令嬢、子息、宰相、財務大臣などであり、令嬢、子息たちはその容姿で、宰相、財務大臣は権力及び金で勇者を味方に引き入れることになっている。
「あと30秒です。」
魔力を魔法陣に注ぎ終え、勇者たちが実際に現れるまで30秒となったことを魔法使いは告げた。
初めに気が付いたのは最も魔法陣の近くにいた先ほどまで魔力を注いでいた魔法使いたちだった。
”魔法陣の真ん中に人が立っている”
それはあり得ないことだった。
どう考えても勇者が召喚されて魔法陣の上に現れるのはあと30秒後なのだから。
突然の事態に魔法使いたちは動けなかった。
塔の入り口からや、周りからではなく、いきなり魔法陣の真ん中に現れた。
そのことの異常性に気が付いていたからである。
そして男は手に持った剣を魔法陣に突き立て一言。
「簡易魔法『蛇眼』」
とっさに魔法使いたちは防御しようとしたが間に合わず、身動きが取れなくなった。
「我の邪魔をする奴がいるかもしれなかったから金縛りにあってもらったけど、大丈夫、傷つけるつもりはないよ。それにあと30秒もすれば金縛りも解けるし、勇者も現れる。この剣だって別に魔法陣を壊すためのものじゃないんだから。安心してよ。」
安心できるか!誰もがそう思ったが実際には動ける者はおらずただ時間が過ぎた。
30秒後、魔法陣が光を放ち始めた。
それは『勇者召喚』の際に必ず起こる現象で金縛りにあっていた者たちは少なくとも勇者は召喚されると、ほっと胸をなでおろした。
「『喰らえ』」
光が最も眩くなったとき男は言う。
それと同時に金縛りが解け、立ち上がり、貴族たちは邪魔にならないように後ろへ移動、兵士たちは槍を、魔法使いたちは杖を構え男に向ける。
「お前は何者だ。」
後ろに下がった宰相が叫んだ。
「・・・簡易魔法『記憶抹消』簡易魔法『門』」
男の答えは二つの魔法であった。
またもや、その場にいた者たちは誰も防御することはかなわなかった。
「ア・プ・・ル」
最後に男が何か言ったような気がしたが、彼らの意識は闇に包まれた。
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