死に至る病と生の天秤を左に傾けた絶望
割烹にも上げましたが、悪役の居ない悲劇を強いて言えば『悪役』になってしまった師匠の視点から。
「サラちゃん、元気?」
「元気よ、ジュリはどう?」
「詠太郎ちゃんが死んじゃって元気ないけど、使い魔とオルクスちゃんが居るから自殺はしないでしょ?」
北欧某所の結界の中の白亜の城。
人が入ることはないし、人が知ることは無いそんな場所だ。
そこにいる女装をした吸血鬼・サラと毒々しい赤紫の髪の九十九神・久遠が会話をしている。
話題は、吸血鬼の愛弟子でもあるジュリ=ローゼンマリアのことであった。
吸血鬼にとっては七百年会っていない愛弟子で、九十九神にとってはよき友人だ。
死に至る病と生の天秤を右に傾ける焔
彼女―ジュリは、生来の吸血鬼ではない。
うん、いい反応をありがとう。
と言うか知っていたのではないのかな?
だけど、そう叫ばれては私の聴力では少々きついわ。
800年前かな、彼女が八歳ぐらいの時らしいね、彼女の実父母が殺されたの。
貸してもらってた家ごと焼き討ちされたんだ。
魔女狩りなんて言葉が無かったけれどね。
ちょうどいい生贄だったんだろうさ、きっとね、彼らみたいな流浪の民は。
彼女は、私の友人であり実父の友人のクロイツに助けられたんだ。
フルネ-ムは、クロイツ=ロ-ゼンマリアと言う。
うん、彼女の吸血鬼としての親だね。
真祖に近い一族の出なのは勿論、実力も抜きん出ていてね、私が女なら抱かれに伺うところだね。
一応、私は女装家であっても、ノンケだかね、可愛い格好が好きなだけの。
・・・うん、当然いい顔をされなかった。
吸血鬼ってのは、夜に生きる連中の中でも選民意識まみれだったしうちの一族は更にそうだから、仲間に迎え入れるなんてことは、コミュニティでも許されてなかったの。
特に、うちの一族は数ある吸血鬼コミュニティの中でも、タカ派で、現代で半分以上を輸血用血液でまかなうようになっても、人間はエサとか普通に発言しているようなトコだから。
昔は推して知るべし、よね。
だけど、今、彼女が生きている通り、あの子は十四歳の年に、吸血鬼の仲間入りをした。
少なくとも、幸せだったって言ってたね。
不幸、ではないと言うべきかも知れないけれど。
人間にクロイツを殺された後も、私達が側にいたのだしね。
一番の幸福・・・正確には、今のあの子の胸に空いている喪失感、それを覚えていないその後の百年が幸せだったかもしれないね。
もちろん、修行は厳しかったかもしれないけれど、でも、ね。
・・・私が封じたアイツのことも含めて、あの子は幸せだったのだろうか?って思っちゃうの。
そうか、今でも夢に見て思い出そうとして泣いているのか。
少し詩的に言うのなら、そうだね・・・。
胸を吹きぬける風が、寂しさと知ってから、色々と調べたのだろうけど、私は教えようとしなかったからね、あの乾詠太郎がある意味、アイツだったとしても。
あの子が、徹底的に情報を洗ったとしても、せいぜい、そうだね、
・・・八百年程前、クロイツの養い子、つまり、あの子が一人の人間の魔導士を拾った。
一応、コミュニティには彼の名前は、ライアス=エンプティセットとしてぐらいは残っている。
それ以上は、記録にのこしていないし、その名前すら偽装だよ。
エンプティセット・・・『何者でもない』なんて、名前はね。
拾われてしばらくは、クロイツの実家の客人のリストに名を連ねていた。
しかし、その五年後に、行方不明になった。
・・・正史、記録には、これぐらいだ。
これぐらいしか残してないし、教える気がない。
まあ、後はその前後から私達が此処に結界に閉じられているというぐらいだ。
あの子が拾ったという、人間はライアと言う魂喰らいだった。
居るだけで、相手の生命力を吸い取ってしまう呪われた生き物さ。
そして多分、あの子と彼は恋人だった。
うん、そうだ。
相思相愛のラブラブカップル、と言うべき仲だったね。
多少、ジュリは耐性を持っていたのだろうね、その能力に対して。
だから、五年も保った。
うん、私はジュリから、彼と過ごした五年と前後合わせて十年の15年分の能力を奪ったんだ。
今は、思い出したがそれも此処十年ばかりの上に、断片的なものなんだろう?
それ以上思い出すのは、無いと思いたいね。
私や他の先生が言うには、眠りの呪い解呪する為に眠っていたと、聞かせている。
正直言ってね、私はあの子に死んで欲しくなかった、それ以上でもそれ以下でもない。
あのまま、放って置けば間違いなく、あの子は死んでいた。
それ以上でもそれ以下でもないのさ。
寸分違いなく、正に禁じられた恋というところだね。
それでも、ジュリとライアス、吸血鬼と魂喰らいは、愛しあっていた。
肉欲にまみれていれば、公に糾弾できただろうけれど、陳腐だけれど、『魔女』として処刑できたと言うことよ。
だけど、あの子の言葉から察するに、せいぜい、キスまでで。
一緒に過ごしたり、眠ったりするのがこの上ない幸せ、と言うような二人・・・だったと思う。
今で言う、中学生のようなそんな初々しい恋だったと思うわ。
「何故、そう言えるのか、って顔しているね。」
「・・・ええ、そーね。詠太郎ちゃんは良い子だったけれど」
「だけれど、その元まで良い子じゃないかも?」
「そうだ。」
「・・・手を貸して。
私が、何故、あの子とライアが相思相愛だったか、それを断言した理由を教える。」
怪訝そうに、かつ、グロス単位で苦虫を噛み潰した久遠。
信じられない、と言うよりも、信じたくないのだろう。
昔、久遠が久遠として生まれたばかりの頃に主をなくした原因がそれなのだから。
そう、サラは聞いている。
ため息を一つ、吸血鬼はそんな彼の様子を見て、手を差し出すように言う。
差し出された手を手に取り、呪を唱える。
そして、久遠の脳裏にフラッシュのように幾つかの画像が映し出される。
どれも、真正面からかすぐ側でのジュリの画像だ。
-『サラ師匠、見て見て、ファス先生に習って作ったの。』
幼い少女が、視点の主・・・サラに、自分で彫金した指輪を差し出している様子。
褒められてとても嬉しそうだ。
-『むぅ、映璃比女先生のイジワル-。
サラ師匠、映璃比女先生がイジメるの。』
鏡の九十九神とサラと少女の会話。
よくある、そんな姉妹のようなやり取り。
-『ん-とね、私は、ライアがなんだとしても、大好きだよ。
ずっとずっと一緒にいたいな。』
晴れやかな微笑で、少女が青年に告げた。
相手は、あの穏やかな祓魔師に似ていた。
だけど、似てもつかないほどに陰鬱そうででも、穏やかな微笑の青年。
サラは、そんなところを視てしまった。
-『許さないわ・・・私は、絶対に貴方達を許さない。
師匠も、先生も絶対に許さない、許したりなんかするもんか。』
そぼ降る雨の中、銀髪の少女が、怨嗟の言葉を唸り叫ぶ。
異変に気付いた少女が駆けつけた時には既に遅かった。
彼女自身の魔力の鎖に、その人は戒められていた。
-『呪われろ、師匠よ、この世界よ!!
未来永劫、この世界が続き続ける限り、この場所に囚われ呪われるといい!!』
絶望と憤りと哀しみに、頬を濡らし、少女が生まれて始めて吐いた呪いの言葉。
自身の望まぬ呪力が、愛しい人の枷となった。
-『・・・あの人の縛鎖になるなら、この命なんていらない。
あの人のいない世界なんか、色が無いのに・・・。
ごめんね、貴方は自由になって・・・でも、最期まで愛してたよ、ライ。』
涙を拭わずに、少女は笑い、そしてその自らの胸に短剣を突き立てた。
・・・もっとも、少女のその願いは叶わずに、愛した人は封印に囚われ続けているのだが。
-『あれ?私、どうしたの?』
-『眠りの呪いを解くのに、眠っていたんだ。』
-『そうなの?』
再び目覚めた少女は、全てを忘れさせられていた。
愛した人のことも、その人と過ごした日々も。
全ては、記憶の闇の彼方に。
「・・・というわけだ。」
「・・・・・・っ。」
画像の中の前半の可愛らしい外見年齢相応の笑顔と後半の怨嗟の悲しみの顔に、久遠は言葉を失った。
久遠が知っているジュリは、面倒見はいいがそっけないというか、クールで穏やかな少女なのだ。
だけれども、今のフラッシュをみた後では、それさえも虚構なのかもしれない。
「・・・事実なの?」
「私が嘘をつく道理が無い。 利は無いのだから。」
「騙して、利用しようって腹じゃ・・・。」
「ないね、それなら、黙ってればいい。」
あくまでも、静かに、事実を述べていく。
少なくとも、隠していること-話していないことはいくつかあるが、嘘はついていないのだ。
「・・・多分ね、そのオルクスって子が寿命を迎える頃。
後、二百年かそこらしたら、そろそろ、私達が封じた彼女の記憶が解ける。」
「そうすれば、ジュリちゃんがサラちゃんを殺すってこと?」
「そうなればいい、あの子にはその資格はある。」
「・・・・・・っ。」
「ジュリをよろしく頼むよ、久遠。」
今は、まだ、途上にある物語。
そして、ジュリが自身の死を持ってしか、彼女が愛した『ライ』の封印が解けないことを知らない頃の一幕。
ただ、悪役は居らず。
愛しい子に生きていて欲しかった故の。
子に与えた死に至る病と生の天秤を右に傾けた焔。
一応、ジャンル:恋愛だけど、語り手が恋愛するの書いてねぇな。
これも、ちょっと違うし?
後、一応だけど、裄瀬家シリーズと同じ世界列で書いてるけど、本気に同じ世界なだけレベルに酷ぇわ。
需要があれば、一応、プロット自体は、ジュリサイド、魂喰サイドありますので、一報ください。