終末の勇者 第一話 勇者は無職になった
よく晴れた昼下がり。早坂瞬はベッドで横になっていた。
「こんな風に昼間から寝てるなんて、俺ってばニートだなー」
ふと、そんなことを呟いてみる。
別にやることをやらずに寝ているというわけではなく、まだ傷が癒えていないので、横になったまま動けないというのが本当のところだ。
なので、彼はニートというわけではない。無職ではあるが。
しかし、彼もずっと無職だったわけではない。
むしろ休む間もなく働き続けていたので、体を動かさない日があることに違和感を覚えるのだ。
この世界に召喚されてからの一年間は、勇者として魔王を倒すために戦う毎日だった。ついに魔王を倒した後ものんびりする暇などなく、魔王軍残党を倒すために戦い続けていた。
その間、たとえ戦闘がなくとも鍛錬を欠かしたことはただの一日としてなかった。
それは、自分が死にたくなかったから。
それは、仲間を死なせたくなかったから。
それは、この世界の人々を死なせたくなかったから。
だが、瞬は守ってきた人間に裏切られ、瀕死の重傷を負った。
そして逃げていたところをこの村の人々に助けられたのが三日前。
「この先どうすっかなー」
襲われたのは王の命令だろう。
とすれば、もう王国に戻ることはできない。
しかし、このままこの村に留まれば、追っ手が差し向けられたときにこの村が危険にさらされる。
傷が癒えたらこの村を出て行くとして、その先の行く当てはない。
近いうちに今後のことを決めなければならないだろう。
「まあ、しばらくは追っ手も来ないだろうし、ゆっくり考えるか。のんびりするのにもそのうち慣れるだろうし」
慣れることに関しては人並み以上の瞬である。
実際この退屈にも慣れはじめ、退屈なりの楽しみを見出してきたところだった。
ここは山奥の小さな村だが、静かなだけではなくそれなりに賑やかさもある。
耳を澄ませば聞こえてくる様々な音。それだけでも瞬の退屈を紛らわすには十分だ。
小鳥たちのさえずり。
過ぎ去る風の音。
威勢のいい男たちの声。
巨大な獣の咆哮。
けたたましい鐘の音。
「ん?」
ここまで聞いて、いつもとは違う音が混じっていたことに気がつく。
獣の咆哮と鐘の音だ。
瞬は慌てて起き上がり、窓の外を見て状況を理解した。
体長八メートルはあろうかという巨大なクマが村を襲っている。
「ヒュージベアか」
山間部では珍しいモンスターではないが、その屈強な見た目の通り力が強く、場合によっては討伐隊を組織して対応しなければならないこともある危険なモンスターである。
普通は大きくても体長六メートルといったところだが、この個体はそれをはるかに上回っている。皮膚も相応に強度が増しているとすれば、銃弾も通用するかどうか。
村人が相手をするには荷が重い。
「正直傷が痛むけど、恩は返さないとな」
この程度のモンスターなら今の状態でも相手にできるだろう。
そう判断すると、瞬は枕元に置いてあった愛剣を掴んで部屋を飛び出した。