プロローグー一つの終幕
最近異世界モノが流行っているようなので書いてみました。
ラノベ系統の話を書くのは初めてなのですが、楽しんでいただけるようにがんばります。
ご意見ご感想お待ちしております。
人間は、急に環境が変わっても、時間さえあればその環境に適応できる。
つまり、人間は『慣れる』。
その点において、彼には非凡な才能があったといえるだろう。
突然この世界に召喚され、勇者として世界を救ってくれと言われた。
命を懸けて、魔族と戦ってくれと言われた。
諸悪の根源である、魔王を倒してくれと言われた。
首尾よく魔王を倒しさえすれば、元の世界に帰してやると言われた。
どう考えても拉致と脅迫にしか思えなかったが、彼はためらうことなくそれを受け入れた。
彼はこんな異常な状況にさえ『慣れた』。
この世界で生きることに慣れた。
魔族たちと戦うことに慣れた。
勇者であることに慣れた。
そして彼は、魔王を倒した。
彼がこの世界に召喚されてから、わずか一年後のことだった。
たった一年。だが彼にはもう、元の世界に戻る気はなかった。
彼は慣れすぎてしまったから。
この世界の自分を受け入れ、今の自分でいるのが当たり前になってしまったから。
だから、彼は帰らなかった。
この世界で、一人の人間として生きていこうとした。
だが、この国の王はそれを許さなかった。
王には人望がなかった。
欲望にまみれて、心の底から腐っていた王には人望がなかった。
王には力がなかった。
下級魔族の集団は相手にできても、それ以上とは戦えない軍程度しか王には力がなかった。
だから、人々の希望である勇者は邪魔だった。
彼に国民のほとんどを味方につける人望があったから。
彼には魔王すら倒す力があったから。
勇者の持つそれは、持たざる王にとって脅威だった。
もし理由があれば、彼は王である自分に牙を向けるんじゃないかと考えた。
国の腐敗を正すためだと思えば、やりかねない。
王にはただでさえ、彼を異世界から拉致同然に召喚し、脅迫まがいのことをして勇者に仕立て上げたという負い目があった。
彼がそのことを根に持っていれば、なおのことやりかねない。
魔王が倒された今、王にとって勇者は邪魔だった。
だから、元の世界に帰ってもらわなければならなかった。
この世界からいなくなってもらわなければならなかった。
なのに、勇者はこの世界に残るという。
用済みの危険物が、この世界に残るという。
だから、王はこう考えた。
危険物は、処理しなくては。
そして、王は彼に命令した。
かつて魔族が支配していた、山奥の砦に向かえと。
表向きは、魔王軍の残党を制圧するために。
真意は、背後から襲って彼を暗殺するために。
そして、計画は実行された。
結果、彼は瀕死の重傷を負って谷底へと落下した。
そのため、死体は確認できなかったものの、計画は成功したことになった。
勇者は魔族の不意打ちによって殉職を遂げたことになった。
王は形だけの哀悼の意を表明し、これを口実に魔族の領地へと侵攻を開始した。
再び始まった戦争の中、彼は再び歴史に姿を現す。
新しい『魔王』として。