記念品
その日は、私の家に友人たちが集まった。人数は私を含めて六人。
私の通う大学は山の上にあり、また、大学近辺の町はそれほど栄えていない。ただ住むだけなら特に困らないが、大学生にとっての娯楽となるような施設設備は皆無といってよかった。電車に三十分ほど揺られれば、地方都市と呼べるくらいの街に行くことも可能ではあるが、そう毎度毎度、講義が終わった後に遊びに出かけるほど、時間も金銭も余裕の無い学生がほとんどであった。
そのため、この大学に通う学生の遊びの大半は、人の家に集まってテレビゲームをしたり、飲み会をしたりであった。
私はもっぱら人の家に行くことが多く、自宅に人が来ることはあまり無かった。来るとしてもせいぜい一、二人であったため、私の家に六人も集まるのはかなり珍しい光景であった。
この日は多少の酒を交えつつテレビゲームを行っていた。四人同時でプレイができる、キャラクター格闘物、テニスゲーム、レーシングゲーム、武器で殺し合いをするゲーム等、いろいろなゲームを行ってかなり盛り上がっていた。六人で四つのコントローラーを交代で回しつつ、賑やかな夜は更けていった。
それは、突然降ってきた。
――ポトン。
私の住む借家は、台所から部屋に入ってすぐ右側に本棚がある。その日、私の家に集まった友人の一人である福本は、そのとき、その本棚から三十センチメートルほど離れて、体育座りの要領で腕で膝を抱えるように座っていた。
その福本の膝と腕の隙間を、何かが落ちた。
「え?」
短い疑問の声を口にし、福本はその落ちた物に目を向けた。
それは、使いかけの消しゴムだった。おそらくこの日本においてもっともよく使われるであろうメーカーの消しゴムが、降ってきたのだった。
本棚からは多少離れていたため、本棚の上段部から落ちてきたとは思えない。福本の膝と腕の隙間は十センチメートルも無い程度だった。真上から落ちてこない限り、その隙間を通るのは難しい。
誰かがそれを投げる素振りも見られなかった。そして何より、その場にいる六人全員、その消しゴムには全く見覚えが無かった。
私は、このような不可解な現象に対して少なからず興味があるため、テンションが上がってしまった。
「え、何この消しゴム? どっから落ちて来たの? やべぇ、ちょっと面白い」
そう言った私に対して、福本はテンション低めに、「え……、俺はちょっと怖いんだけど…」と呟いていた。
◇ ◇ ◇
似たような体験は、高校生のときにもあった。
ある朝、目が覚めると、私は右手に違和感を覚えたことがあった。両手を握りこんで眠っていたようなのだが、右手の握り拳の中に何かがあった。拳を開いてみると、そこには汚い五円玉が一枚あった。
その五円玉は、前日の昼間にたまたま外で拾ったものだったのだが、とても黒ずんで汚れていたため、たまたま通りかかった神社の賽銭箱に投げ入れたのだった。製造年月が一致していたため、同一の五円玉であると私は瞬時に判断した。
そのときも、その不可解な現象に、早朝から珍しくテンションが上がったものだった。
ちなみに、その消しゴムも五円玉も『不可解現象体験記念品』として、今も私の手元で保管されている。