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ホームムービーの白い女

 私が大学院二年の夏休み。もともと不規則だった生活リズムにさらに拍車がかかり、完全な夜型生活となっていた私が、その日、研究室に顔を出したのは夕日が影を長く映しだす夕方だった。

 研究室の扉を開くと、デスクトップPCの前に白衣姿の小野山(おのやま)高野(こうの)がおり、インターネット上の動画を見てるところだった。

 小野山と高野は、私の二つ下の後輩で、現在四年生である。彼らが私の所属する研究室に配属されてから知り合ったのだが、その年の四年生たちの中では、比較的私と仲が良い方であった。ちなみに小野山は一浪、高野は二浪してこの大学に入学しているため、年齢は小野山が1つ下、高野は同い年である。

「あ、○さん。おはようございます」

「おはようございまーす」

「うん、おそよう」

 私の所属する研究室では、その日最初に会った際の挨拶は「おはようございます」と言うのが暗黙の了解となっていて、配属されて当初は、どこかのアルバイトみたいだと思った記憶がある。今はとても早いとはいえない時間だったため、私は存在しない挨拶の言葉を口にした。

 私は自分の机に荷物を置くと、引き出しから白衣を取り出して袖を通しながら、「何観てんの?」と彼らに問いかけた。

「ああ、これですか?」と小野山。

「心霊動画です」と高野。

「どんな?」

「んーとですね、ちょっと待ってください」

「何か、友人たちを撮ってるホームムービーに、白い女の霊が映り込んでるみたいです」

 小野山と高野は交互に私の質問に応えてくれた。小野山はそれほどでもないが、高野は大の心霊好きだった。あいにく、二人とも霊感は無いようだが。

 私は適当に相槌を打ってディスプレイを覗き込んだが、動画はロード中で、映像は流れていなかった。

「何か、クソ重いんすよ」と高野。

「時間が時間だからしゃーねーべ」と小野山。

 動画を読み込むまでの間、私たちは三人で適当に駄弁(だべ)っていた。五分ほど経って、ようやく動画の読み込みが終わったらしく、それに気づいた高野が「やっとだよー」と言いながら動画を再生させた。


 暗い夜道を、男三人が歩いている。一人がビデオカメラを持ち、二人を写しているようだ。

 三人は酔っぱらっているらしく、映像はガクガクと揺れ安定感が無い。

 三人はやけに陽気に大声で喋りながら歩いていた。三人組の会話から察するに、近くの自動販売機に飲み物を買いに行く途中のようだ。目的の自動販売機に着くと、三人とも普通に飲み物を買い、来た道を引き返して再び歩き出すところで映像はブラックアウトした。


 それだけならただのつまらない映像だが、確かに、先ほど高野が言った通り、ブレまくる映像の端々に時折白い何かが写り込んでいた。最初は画面左側に、次は画面右下側に、二人組のうちの一人のすぐ脇から写り込む場合もあった。

 その白い何かが写り込むたびに、小野山は「うお、映った!」「また映った!」と、ややテンション高めにコメントしていた。

 対する高野は、この程度の心霊映像は慣れているらしく、無言でただ見つめていた。観終わって一言、「ていうか、あれ、人間の形には見えなくないっすか?」とツッコミを入れだす始末である。

 映像が終わると、彼らはもう一度再生しだしたので、私はその場を後にした。

 気分が悪かったからだ。

 小野山も高野も気づいて――というよりも、見えて――いなかったが、私には見えてしまった。

 チラチラと写り込む女の幽霊とは別に、もう一体写り込んでいたのだ。背中をこちらに向けているが、首だけが百八十度ねじれこちらを向いた男の子が、終始画面に写り込んでた。動画を見ている間中、私はその男の子とずっと見つめ合っていたのだ。

 根拠はなかったが、この幽霊二人は親子なのだろうと思った。幽霊で、母親を男の子という組み合わせは、ジャパニーズホラーの傑作ともいわれる某作品に似ているな、そんなことを考えながら、私は手洗いをして実験の準備に取りかかった。

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