付き合う付き合わない 2
私たちは頑丈な留め具を買い、ホームセンターの外の売店でたこ焼きを1パックずつ買って食べ、また塾長の家に帰る。
ミノリ君が今日は、本当はどこへ連れて行ってくれるつもりだったのかと聞くので、夕べもショックで特に何も考えていなかった私は少し困り、「…映画とか?本屋とか公園とか…」と適当に答える。…まぁ適当だけど、どうせそういうとこくらいしか行けなかったと思うし。
じゃあ、と言ってミノリ君が提案した。
「家に帰って古いビニルプールを出して、温水にしてビイを泳がせてやりたいんだけど」
私が1日連れまわしてつまらない思いをさせて、2度と誘わせないようにするのが目的で今日の約束をしたのに。
…まぁいいや。そういうのもよくなかったし。ミノリ君はお兄ちゃんに対抗して面白がって私を誘ってたんだから、無視するのが一番だったのだ。
仕方ない。ビイも狭い水槽にずっと閉じ込めておくのは可哀そうな気がするもんね。
が、ミノリ君が言った。「昼間運動させとかないで水槽の蓋固めたら、今度は水槽のガラスぶち破りそうな気がするんだよね」
そっか…ビイは凶暴だな!
庭の隅の小さい物置のような納屋からミノリ君がビニルプールとホースを取りだしてきて庭の平らな所へ設置する。水色のビニルプールと黄色いホースだ。
私がホースで水をためておく間にミノリ君がポットのお湯を持ってくるというので、ビニルプールの脇に立ち、中にホースの先を入れて水がたまって行くのをぼんやりと眺めた。
4月とはいえ結構暖かくなって来た午後、太陽の光に水色のビニルプールの中で水がキラキラと揺れる。が、少し指を入れてみるとやはり水はまだ冷たい。
むかし、これよりも一回り小さいビニルプールをうちの狭い庭に出して、ハルちゃんと水浴びしたな…
ぼんやりたまって行くビニルプールの中をしゃがんで見つめていると、ピンポーンと塾長の家のドアチャイムが鳴った。
家の奥にいるミノリ君が出る気配がない。
もう一度ドアチャイムが鳴る。が、まだミノリ君は出ない。
どうしようかと迷う。ここからミノリ君に叫んだら、今ドアチャイムを鳴らしたこの家のお客さんに聞こえて、それなら私が玄関の方へ廻って上げたほうがいいんじゃないかとも思うし、訪ねて来た人がセールスとかではなくここの家に親しい間柄の人だったら、見知らぬ私の事を不審がるんじゃないだろうか。
それでもミノリ君がまだ出て来ないので私はいったん蛇口を閉めて、勝手口の方へ行ってからミノリ君を呼んだ。
それでも返事がない。…じゃあもういいや。チャイムの人も帰って出直すだろう、と思っていたらこちらの方へ廻ってやってくる人が2人。一人は知っている人だった。知ってるって言うか、『見た事ある人』だ。
キヨミさんだった。
マジで!!
心の中で叫ぶ私。
そりゃ叫ぶよね。
ほんの2時間もしない前に話を聞いた、しかも「今度来る」って聞いてた、夕べ家に泊めてチュウをした幼馴染の元カノ、しかもかなり可愛い元カノが、私がその幼馴染の祖父母の家の庭でビニルプールに水を貯めている時に来るなんて、もう微塵も考えつかなった。
そうか今日来るか。
ハルちゃんと一緒に帰れば良かった!
近付いて来る二人に動けない私だ。ビニルプールの前にしゃがんだまま。
キヨミさんともう一人は30代前半くらいに見える男の人だ。やせ形で背はまぁまぁ高い。黒い長袖のシャツとジーンズを履いている。
この男の人は、ミノリ君が話していた『リョウさん』なのだろう。
キヨミさんは今日も、あの写真の中の彼女と同じようにとても綺麗だった。綺麗っていうか…『チャーミング』っていう感じ。白にオレンジの小花が散っている、ふわっとしたブラウスに、細身のジーンズを履いている。
私より少し身長は低いみたいだけれど、私よりずっとスタイルが良い。
「「こんにちは」」二人に言われて、もちろん私も「こんにちは」と答える。自分でもずいぶんぎこちなく聞こえた。
超気まずい。人見知りとネガティブさが一度に作動し始めた。
会う事はないはずのハルちゃんの元カノと万が一会う事があったって、今ここでっていうのはとても気まずいような気がしてならない。
…いや、こっちは気まずいけど、向こうは私の事知らないわけだから落ち着こう。
「あの…少しお待ちください。呼んできますので。玄関に廻って頂けますか?」
そう言った私に男の方が「りっちゃん?」と言った。
「「え?」」
え、と言ったのは私とキヨミさんだ。
「りっちゃん?」とキヨミさんが私を指さして言う。
うぅわ、キヨミさんにりっちゃんて呼ばれた!
「あ、ごめんなさい」キヨミさんが言った。「指さしちゃった」
慌てて、すぐ呼んできますと、もう一度言う私に「あ~大丈夫、僕行ってくるから」とリョウさんと思われる男が勝手口の方へ行ってしまった。
どうするんだ私。キヨミさんと残っちゃったけど…




