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付き合う付き合わない 1

 ハルちゃんが帰った後、私とミノリ君はカエルのビイを猫用のゲージに入れ、買い物に行く準備をする。

 ムッとした顔のビイを無理矢理ゲージに入れていると黒猫が寄って来て「ミャァァァァァァァ!」不満げに鳴いた。

 月曜日にも見た黒猫だ。目の黄色い真っ黒な猫。

「この猫もしかしてミィって名前?」

 あの時ミノリ君の事を呼んだら代わりに返事をしてきたから。聞くとミノリ君が「違う違う」と首を振る。

「こいつの名前はキイ。なんかよくわかんないんだけど黄色い色がすごい好きなんだよね」

 そうなんだ…私も黄色が好きだけど。じいっと猫を見ながらそう思うと、猫もまっすぐに私を見返してもう一度「ミャァァァァァァ!」と不満げに鳴いた。



 ミノリ君も私を不満げな顔で見る。「これからオレの事ミィ君て呼ぶの止めて」

「ごめん…なんか…そうだよね、そんな小さい子呼ぶみたいに呼ばれたら恥ずかしいんだね?ごめんね」

「違うよ、そういうんじゃない。オレは約束はしたけど『ねえちゃん』とか呼ばないからね。バカみたいだから」

「あ…うん、まぁね、バカみたいだよね…それもごめん」

「りっちゃん本当にいいの?兄ちゃんは結構、もう塾の人たちにりっちゃんの事を彼女みたいな感じで言ってるみたいだし、このままあっという間に、あ、なんだやっぱ付き合ってんだ、みたいな感じになるようにするんだと思うけど、大丈夫?」

 大丈夫って聞かれてもなぁ…その、元カノのキヨミさんもこっちに来るらしいし、なのに濃厚なチュウはしちゃったし、泉田先生はマキちゃんが好きだし…

 キヨミさんとハルちゃんは二人で会ったりするのかな…



「前言ってたんだよね、兄ちゃん。中学の終わりくらいから。すげぇモテはじめて、すげぇ告られ出した頃、意味わかんねぇ意味わかんねぇってずっと言ってた。何の接点もないのに、いきなり『いつも見てました。付き合って下さい』とか、本当にそれまで一言もしゃべった事もないのに『好きです。付き合って下さい』って言ってくる子とか、もうマジで全然信じらんねぇってずっと言ってた。あの人見た目だけで寄って来られるのがほぼだから。そういう風に、呼び出してわざわざ告るのもおかしいって言い出して、呼び出されても行かないようになったし。いいなぁって思う人がいたら、少しずつでも近付いていって、だんだん話をするようになって、『あれ?いつの間にかいろんなとこ二人で行ってるね?これからもずっと一緒にいようか?』みたいな感じに自然な流れでそうなるのがいいって、たぶん友達にはモテてる自慢になるから言えないのか、オレにすげぇ言って来てた」

 …じゃあやっぱり早過ぎない?私たち。いくら幼馴染とはいえ15年近くブランクあったのに、私、チュウされるの早過ぎない?家に泊めるのももちろん超早過ぎた。それは充分わかってるし、泊めたからチュウされたんだし。大バカだ私。



 …いや違う。あの時、別に泊まってもいいって思っていたはずなのだ。そうじゃないと売り言葉に買い言葉でもきっと、そんな事は言わない。

 私はハルちゃんが泊まってもいいと思ってたし、チュウだってちゃんと嫌がらずに受け入れてた。前日に泉田先生に告ってふられて泣いてまでいても、夕べハルちゃんといっしょにいるうちに私は完全にハルちゃんを受け入れる体制になっていたって事だ。

 私はずるい。

 キヨミさんの事も相当気になっているのだ。



「キヨミちゃんの事気になってるでしょ?」とミノリ君に笑顔で聞かれる。

「私わかんないんだよ。あんな可愛いらしい人…その人とまだ繋がりがあるのに、私にあんな…」

「あんなチュウするなんて…みたいな感じ?そんなすごいのされたの?」

ぐぐっと私は眉間にしわを寄せる。

「どんな?」とミノリ君が嫌味に笑う。

「…」

「オレもしてみようか?」とミノリ君が言う。「兄ちゃんのと比べてみる?」

「バカじゃないの?」

「バカだけど、まぁまぁ本気。りっちゃんも気にしなきゃいいじゃん、たかがチュウくらい。ちょっと濃厚な感じのされたくらい、何とも思わなきゃいいんだよ。キヨミさんの事だって」

ミノリ君をじっと睨みつける。「ミノリ君はお兄ちゃんの事好きなんだよね?」

「へ!?」とびっくりした顔をした後にミノリ君はケラケラと笑った。

 その笑い声に少しひるむが私は頑張って言う。「いろいろ張り合おうとしたり、ちゃちゃ入れようとしてるけど、お兄ちゃんの事好きだって思ってるのも、私は感じる…。むかし隣にいる時もね、羨ましかったよ二人の事。いいなって思ってた。兄弟がいるのって」

「ふうん」と気のない様子を見せてミノリ君は相槌を打つ。

「取りあえず」と私は言う。「そんな事はもういいから早く買い物行こう」



 結局私はもう2度と乗らないと決めたミノリ君のバイクの後ろにまたまたがる事になった。

「りっちゃん、ぎゅってつかまってよ?おっぱいが超密着するようにぎゅっ…」

「いいから。もう早く出して」

 やはり私は曲がり角ごとに悲鳴を上げ、私が悲鳴を上げるたびにミノリ君は笑ったり、わざとらしい程車体を傾けて曲がったり、変な所でわざと加速度をつけたりした。

 嫌な兄弟だ。

 そして最終的に郊外にある広いホームセンターに着いた時には「うるさいよ、りっちゃん」と言われた。

「…ごめん」



 ヘルメットはずしてミノリ君に渡し、それをバイクにキーで固定してもらうと、「ハイ、行くよ」と普通に手を取られる。

「ミノリ君」とそれをやんわりとその手をはずす私だ。「手を繋ぐのはちょっと…」

「手ぐらいいいよね」

「いやぁ…ちっちゃい子じゃないんだから手はつながないよね」

「何それ。大きくなってからの方が手ぇ繋ぐの楽しいじゃん」

「ハイキングとかしてて登れない所で手を貸してもらうとかだったらわかるけど」

「何その変な例え。りっちゃん意固地だね~~。うちの兄ちゃんだけじゃなくてさ、奥田先生とかからも告られてたんでしょ?ちゃんと彼氏もいた事あるのに男慣れしてない感じを出してくるよね?まだ付き合ってない兄ちゃんとはチュウまでしたのに」

「…まぁ…そうだけど」

「じゃあやっぱ兄ちゃんの事は受け入れてるって事だよね?兄ちゃんとはチュウもしたけど、オレとは手も繋げないっていう…」

「ちょっと!止めてよ、人の居る所でそんな話するの」

じぃっと私を見つめるミノリ君。微妙に目を反らす私。


 「でもそれならなおさらでしょ?」と反論する。「ハルちゃんと…そういう事したのにミノリ君とまで手を繋いだらおかしくない?」

「おかしくないよ。そういう事したけどまだ兄ちゃんと付き合ってはいないんでしょ?…『そういう事』だって~~~。言い方ヤらしいな」

 チュウはしたけど付き合ってはいない。…けどそれだったら何をもって付き合ってるっていうんだ?どっちかが『付き合って下さい』って言ってもう片方が『はい、わかりました』って答えて?それで今日から彼氏と彼女になるって変な感じだなって、さっきのハルちゃんの話を聞いたからそう思うわけじゃないけど。

 元カレの時は言われたな。ちょっとふざけるみたいな感じで「オレたち付き合っちゃおう」って。私も好きだったから凄く嬉しかった。ふざけるみたいな言い方が余計嬉しかった。

 今考えるとバカみたいだ。



「だけどそんなにいろんな人と手を繋ぐっておかしいでしょ!?ミノリ君は誰とでも繋げるの?」

 なんか手を繋ぐぐらいでこんな事まで言ってるのが、まさにハルちゃんとの飲み会の帰りと同じだ。

ハハ、とミノリ君は笑って「バカだなりっちゃん」、と言った。

「りっちゃんだから繋ぎたいんでしょ?わかんないの?誰とでもは繋がないよ」

 この兄弟すごいな。…やっぱこういう事言い慣れてんだろうな。うっとうしい。

「無理!」と私は言った。「なんかもういろいろ無理だから、そんなミノリ君の口車には乗らない」

え~~、と言うミノリ君に畳みかける。「ハルちゃんもそうだけどミノリ君も私の事バカにし過ぎ。私の方が年上なのになめてるよね?あんたたち兄弟。ホラ!さっさと買い物して帰ろ」


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