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許すところと許さないところ 1

 ダンっ!!と派手にドアを開ける音で跳ね起きた。

 「ぬふぁ?!」と変な声を上げながら。

 「あら」とドアを開けたのは母さんだった。「ハルちゃんいない」

 ハルちゃん?…ああ!ハルちゃん。ハルちゃんは下だよ。と言う私の答えを、私は起きたばかりでちゃんと言葉に出来てない。

「ハルちゃんが応接間にいないから」と母さんが言った。「一緒に寝てんのかと思った」

寝てないわ!

「どこ行ったんだろ?」と母さんが言う。「帰ったのかな」



 眠れない眠れないと思いながらいつの間にか寝てたな。ちゃんと眠れて良かった。そうか…ハルちゃんいないか…帰ったのかな…それって母さんにも言わずにって事でしょ?うちの玄関のカギ開けたまま?

 …ハルちゃんはそんな事しないと思うけど。

「外かな」と母さんが言う。「ハルちゃんの洋服あったし」

ハルちゃんはそんな事しない、と思った直後だが、どこでもいいじゃん、と夕べの事を思い出しながら毒づく私だ。



 どうしよう…ミノリ君に行けなくなったってメール打とうか。

 今日はもう家の中でうじうじぐだぐだしていたい。

 あれだけ「帰るって言っても途中で帰らせない」みたいな事を言ったくせに、当日の朝に「やっぱり今日行けなくなりました」って、ものすごく嫌な感じだ。

 母さんが下へ降り、「あら、ハルちゃんやっぱり外いたの?」という声が聞こえる。

 朝から外で何してたんだろう?散歩?体操?庭の観察?

 またベッドに寝転がってぼんやり考えているところへ、タン、タン、タン、と階段を上がってくる足音に慌てて起き上がる。

「リツ、おはよ」

夕べ着ていた父さんの部屋着のままのハルちゃんだ。

「…おはよ」

私の返事を合図に部屋にさっと入って来て、起き出す暇も与えず、私がまだ座ったままのベッドにハルちゃんも腰を下ろす。



「外行って来た」とハルちゃんが言う。

母さんに言うのを聞いてたって。

「なんか夕べの事が全部夢みたいな気がしてきて、夕べの花壇の縁に腰かけて、全部思い出してた。すげぇ細部まで」

ハルちゃんはそう言って体を少しねじるようにして私を覗き込んできた。

「リツ眠れた?」

「…眠れた」

「ふうん。オレはあんまり。リツ眠れたのか…なんか嫌だな。オレが夕べ部屋に来るかも、ってちょっと思ってた?」

思ってたけど首を振った。


 そして首を振った瞬間に夕べ見た夢を思い出した。

 私とハルちゃん、泉田先生、マキちゃんの4人で芝生の上に座っている夢だ。

 夢の中の泉田先生が言った。「わしはな、牧がずっと好きじゃったけん、牧のおっぱいを触る」

 え~~!?私たちの前で?

 それに対してマキちゃんの答えは、「イズミィ、あっちに子犬がいたよ。子犬触って来なよ」

 自分のおっぱいの代わりに子犬を触らせようとするのがマキちゃんらしい。

「ほうか…」と泉田先生がちょっとせつなそうな顔をした。「わしは牧のおっぱいが…」

「泉田先生!」

泉田先生の希望を遮る私だ。

「泉田先生、私…」私の事も見て下さい、と言うのは夢の中でも言えなかった。

 そして泉田先生の前でハルちゃんが、私の膝で膝枕を始めた。

 膝枕で仰向けになって空に両手をかざして、「空綺麗だな」って言う。

「ちょっ…」私は泉田先生の前でそんな事をされたくなくてハルちゃんの頭を持ち上げようとするが出来ない。

「いいじゃん」とハルちゃんが言う。「泉田先生、オレたちチュウしました。もうもんのすごいエロい感じの…」

 膝をがっと引いてハルちゃんの頭を芝生の上に落とす夢。



「…リツ。…リツって!何考えてんの?まさかオレとチュウした夜に泉田先生の夢見たんじゃあ…」

 見ましたとも!夢の中でもあんたが泉田先生の前で余計な事してくれてた。

 泉田先生だってあんなに「おっぱいおっぱい」言わなくても…



 「オレがさぁ、リツが寝てるうちにリツのベッドに入りこむかも、とかは思わなかった?」

ちょっと思ったけど首を振った。

「そっか…それはオレを信じてたって事だよね」

…そうではないと思う。

「じゃあすげぇ気になった?あの後オレがリツの部屋に上がって来ないの、すげぇ気になった?」

気になったけど首を振った。

「ふうん…」

ハルちゃんが言いながら、私の目をじっと見つめるので目を反らす。

 嫌だな。眼ヤニ付いてるのに絶対。そう思いながら指で目をこする。が、ハルちゃんにその手を取られて焦る。

「こすっちゃダメじゃん。起きたばっかの顔可愛いね」

それは絶対ないわ。朝から言う事うまいな~~と感嘆しながらハルちゃんの手を振りほどいた。


 ベッドに手をついたハルちゃんが、じりっと私の方へにじり寄って来る。

「夕べの事、さっきずっと思い出してたから…朝からアレだけど…またすごくチュウしたくなってんだよね~」

いや、顔も洗ってないし口もゆすいでないから…というかなんか私たち普通に付き合ってるような感じになってきてない?

 私はさくっと起き上がり、ハルちゃんの体をすり抜けるように足元の方からベッドを下りた。


 「オレ夜中じゅうずっともんもんとしてたのに」

私だって眠れなかった!全部ハルちゃんのせいなのに。

「もんもんとして次から次に妄想して、危うく何度か階段登りかけたけど、やっぱお母さんに約束したし、お父さん居ない時にそんな事したのが後でバレたら、お父さんに多大なショック与えるもんね。だから我慢するために妄想して、妄想したらまた階段登りたくなっての繰り返しだった。忍耐力すげぇ上がった」

「ハルちゃん、下降りるよ。早く帰んないと今日仕事でしょ?」

「冷たいな!リツは寝る時考えた?…その…オレとしたチュウの事」

そこは赤くなるんだ?本当によくわかんないな、この人の恥ずかしどころ。

私が黙っているとさらに付け加える。「オレは何回も何回も考えたよ。リツの口の中の…」

「止めて!」

慌てて止めるとハルちゃんが嬉しそうな顔で笑う。

 …そこは赤くならないんだ…ほんと、よくわかんない。


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