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私のダメダメ感 1


「あれ?」とハルちゃんが言う。「嫌なの?オレと今ちゃんとしたチュウしたよね?結構なチュウ。しかもそんなに嫌がらなかったよね?」

「…」

「あれ~~…びっくりびっくり~…泉田先生にこの事バレるの嫌なんだ?マジか…なんでなんで?昨日の今日だから?節操無いと思われるのが嫌とか?ていうかリツ…さっきも泉田先生の事考えてたね。オレがチュウしてんのに、まさか泉田先生にされてるとこ想像してたんじゃ…」

私はぶんぶんと首を振る。

「リツ」

間近であからさまに非難する顔をされて私はもう一度強く首を振った。

「でも」とハルちゃんが言う。「どうせもうどうやったって泉田先生はダメだよ」



 わかってるよ。充分わかってる。私が告って私が実際ふられたんだから。

 でも…昨日の今日でこれ…って…

 さすがにダメだと思う!ダメだと思うって言ってる私がしてる事だけど…ダメ過ぎるダメ以外の何ものでもない。流されるにも程がある!

 泉田先生に、昨日の告白全部がウソだと思われてしまったら?ずっと好きだった気持ちも何も信じてもらえなくなりそう。

 ウソだと思われなかったとしても、「あ、すぐ次に行くんだな」みたいに思われたら?

 泉田先生だったら、「わしにふられたショックでやっぱり幼馴染のところに…」って考えてくれるかもしれないけど…そんな調子のいい望みを託そうとしてまで、私は泉田先生にどう思われたいんだ?


 良い子だって思われたい。可愛い子だって思われたい。一途だって思われたい…

 でも私、全然違うし!

 どうしよう。私だって誰か知ってる女の子が私のような事をしたら、さげすみ切った目で見るのは間違いない。

 …あ~あの告った時泣かなきゃ良かったな。もっと明るい感じで「好きだったんです~~」って冗談めかすように言ったらまだ良かったかも。そんなせこい考えがうかぶのも、あの時の本物だった涙を超陳腐なものにしてしまったのは今夜の私自身だからだ。



「…わかってるよ」と私は言う。「…ねぇハルちゃん…」

「何?」

「私…」

「そんな顔しないでよ…」

「ハルちゃん…」

「ダメだ、も1回したい」

言ったハルちゃんの顔がまた私に近付いてきたので私はとっさに口と頬を両手で覆った。

「ごめんハルちゃん、私…」

ハルちゃんはそっと私の手首を掴みながら言った。「『私』が何?ほら、顔隠すの止めて」

「ごめん私、ドライブ行けない」

「…」

「ごめん」


 でもハルちゃんは私の手首に力を入れ、顔を覆っていた手を無理矢理取ってしまう。ハルちゃんから顔をそむけるように「ごめん止めて」と言ったのに、ハルちゃんは私の手首を掴んだまま意地の悪い顔で続けた。

「なんかリツ、オレに押し切られたって思ってない?流された、みたいな感じで」

ギクリとする。

「でも違うよね?」ハルちゃんが続ける。「最初はそうだったかもしれないし、確かに今でも泉田先生の事好きかも知れないけどでも!オレの事も受け入れてるよね?」

 その通り。まったくその通りだから恥ずかしい。

 流されただけじゃない。私は確実にハルちゃんに心が揺れた。



 そこへいきなりガラッと近くの窓があいて、驚いてハルちゃんも私も動作を止める。

「あんたたち」と私たちにやっと聞こえるくらいのひそひそ声で言ったのは母さんだ。

 あ~母さんで良かった…それもそんなに良くはないけど。ハルちゃんは私の腕を掴んでいた手を片方はずして普通に手を握り直し、私は慌ててハルちゃんから離れようとしたがそれは出来ない。

 母さんはひそひそ声で続けた。「もういい加減家の中入んなさいよ?気になって眠れないじゃん。近所の人も電気付けずにこっそり見てるかもよ?後は中でやんなさい」

 嫌だ…母さん、母さんこそどこかからか見てたんじゃあ…



 私たちは言われたとおり素直に家の中へ入った。

 家の中の空気がぬるく感じる。良かった。あそこで母さんが顔を出してくれて。

 私たちは並んで一緒に洗面所で手を洗った。

「なんか、こんな感じも懐かしいね」ハルちゃんがニコニコ顔で言う。

 私もまさに今そう思っていたけれど、もうそんな事は口に出さない。洗面所の鏡に映った私たちはもうとっくに大人だ。

 上の収納棚から未使用のハブラシを出してハルちゃんに渡す。

「うわ、まさにお泊りって感じ」とハルちゃんが言う。「リツも早くオレんちに泊まりに来てよ」

 まじまじと鏡の中のハルちゃんを見ると、鏡の中のハルちゃんが「ね?」とでも言うようにニッコリ笑った。

 

 本当の本当に泊まるんだな、この人。泊まり、泊まられ、…そんな関係に私たちは…って、私がもっと強く嫌がればいいだけの話なのに、このままずるずるハルちゃんを受け入れていって、私はそのうちすぐにそういう事にもなってしまうんだろうな…泉田先生に告らなければ良かった。そしたらまだ泉田先生の事だけを思って、今日こんな事にはなってなかったかもしれない…

 そんな事を思うのも大変ダメな感じ。



 それにしてもこの人、普通にそういう話をどんどん進めて行くけど…

 私は塾長の家で見たハルちゃんの元カノの可愛らしい素敵な笑顔を思い出し、そして鏡の中の自分の顔と比べてしまう。

 しけた顔してるな私。夜遅いっていうのもあるんだけど、それでも自信のない、何かに負けた顔をしている。

「ハルちゃん…私…さっきも言ったけどドライブには行かない」

ハルちゃんは歯ブラシを口にくわえたまま、鏡の中の私を呆れた顔で見てため息をついて見せた。歯ブラシを口から出して、1回口をすすいでから言う。

「泉田先生は牧先生が好きなんだよ」

「…、…えっ!?」

 またハルちゃんは歯ブラシを口に入れぐしゃぐしゃと歯を磨く。私は歯ブラシを持ったまま動けない。




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